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相続・遺言2022年09月01日 相続人が居ない遺産の行く末【特別縁故者への財産分与】 執筆者:政岡史郎

 晩婚化・少子化・非婚化などの多様性が進む昨今、亡くなった方の財産処分に大きな問題の出ることが散見されます。

 昭和の時代以降、亡くなった方の相続人が大勢いて、その相続人間で遺産の取り合いになる紛争は多く、我々のような弁護士には遺産分割協議や調停・審判、遺言書に端を発した遺留分侵害の事件依頼が多くありました。

 もちろん、今でも遺産分割や遺留分に関するご相談は多いのですが、徐々に、相続人が居ない場合のトラブルに関する相談も増えている印象があります。

 そして、今年も何件か、相続人不存在の遺産に関するご依頼を受けました。その一つに、ある法人の代表者が配偶者も子供も(親兄弟も)残さずに亡くなり、第三者への遺贈などを記載する遺言書も無かったため、その法人が「特別縁故者」として元代表者の遺産を貰えるものなのか、というものでした。

 相続人不存在の場合、最終的には国庫に遺産が帰属するのですが、そこに至るまでに、「相続人の捜索手続」・「相続財産の管理や清算手続」(債権者への弁済等)が必要となります。

 そして、そのために、利害関係人や検察官が家庭裁判所に申し立てをして、「相続財産管理人」を選任してもらいます。

 そして、亡くなった方と特別の縁故があった者は、その財産の分与を裁判所に申し立てることが出来ます。

 根拠となるのは民法第958条の3という条文なのですが、ここには、①「被相続人と生計を同じくしていた者」、②「被相続人の療養看護に努めた者」、③「その他被相続人と特別の縁故があった者」という類型があります。例えば内縁の妻(①)や介護の世話をしていた親戚(②)などが想像しやすいですね。また、これらは「例示」に過ぎないとされており、個別具体的な事情で縁故の濃淡を判断し、「特別の縁故があった」と見做された場合には、③の類型で財産の分与が認められる可能性が出てきます。

 そして、生前の様々な事情から、「これらの者に財産を分与するのが相当」と判断された場合に、債務等を清算して残った財産の全部または一部の分与が認められます。

 では、今回のご相談にあったような「法人」も特別縁故者に当たるのでしょうか。この点、家庭裁判所の審判例では、社会福祉法人や地方公共団体といった「法人」は除外されないとされており、更には、法人格を有していない団体も特別縁故者に該当しうると判断されています(老人ホームに財産分与を認めた審判例があるようですが、場合によっては、マンション管理組合といった団体も、これに該当する可能性があると思います)。

 そして、重度の認知症で常時の介護が必要であった入所者が亡くなった場合に、「療養看護に努めた」と判断され、老人ホームへの財産分与を認めた例があります(ホームは施設利用料として対価を受領していましたが、手厚い看護をしていたことが重視され、裁判所が財産の分与を認めました)。

 また、上記の「生計同一」(①)や「療養看護」(②)ではなくとも、「特別の縁故」という抽象的な要素の判断を裁判所が裁量で行ない、分与を認めた例があります。その審判は昭和40年代の古いものですが、ある仏教寺院の檀家である著明な女優が亡くなった際に、その菩提寺である寺院が特別縁故者として財産の一部を分与されたというものです。

 このケースでは、生前の被相続人の篤い信仰心を伺わせる出来事(寄進)や死後の寺院の行動(費用を負担した上での葬儀や法事の主催)に着目し、「被相続人が生前に遺言をしたならば寺院への遺贈を配慮したであろう」という推認で、特別の縁故があったと判断されました。

 この審判の時には、面白いことに、「遺産を国庫に帰属させることで国に貢献させるのだから、その墓が無縁仏となって打ち捨てられることのないように配慮するのは当然」という、温情的な配慮の姿勢が判旨に明記されています。

 特別縁故者への財産分与は、「特別縁故者に該当するか否か」の段階で家庭裁判所に大きな裁量が委ねられ、更に、「分与が相当か否か」の段階でも、生前の様々な事情を考慮した裁量的な判断に委ねられています。

 そこで、仮に「生計同一」(①)や「療養看護」(②)といった分かりやすい条件を満たさない場合でも、被相続人と生前に濃い関わりがあった場合には、様々な事情を十分に裁判所に訴え掛けて、縁故のあった方に被相続人の遺産が引き継がれていくよう、トライされてみると良いと思います。

(2022年8月執筆)

執筆者

政岡 史郎まさおか しろう

弁護士

略歴・経歴

  H7  早稲田大学卒業、都内某不動産会社入社
  H13 同社退社
  H17 司法試験合格
  H19 弁護士登録・虎ノ門総合法律事務所入所
  H25 エータ法律事務所パートナー弁護士就任

「ある日、突然詐欺にあったら、どうする・どうなる」(明日香出版社 共著)
「内容証明の文例全集」(自由国民社 共著)
「労働審判・示談・あっせん・調停・訴訟の手続きがわかる」(自由国民社 共著)
「自己破産・個人再生のことならこの一冊」(自由国民社 校閲協力)

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