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民事2022年12月22日 サブリース物件と工作物責任(民法第717条) 執筆者:政岡史郎

 世の中の賃貸不動産(今回は建物に着目します)には、所有者(大家さん)と入居者が直接の賃貸借契約を結んでいる形が多くを占めますが、「サブリース」というものもあります。サブリースとはいわゆる転貸借のことで、賃借人が転貸人となって、入居者(転借人)と転貸借契約を結んで建物を使用させる契約です。

 昨今、サブリースを生業とする不動産会社が、例えば遊休地を保有している農家や地主、個人の投資家に対し、ワンルームマンションやシェアハウスなどの事業計画を提案し、建物を建築してもらった後は一括借り上げをして10年程度の家賃保証をし(10年の賃貸借契約を締結するという意味合い)、その間は自らが転貸人として入居者の募集や入居管理を行なうということがよく見受けられます。

 賃貸人と入居者といった「二当事者」の法律関係とは異なる「三者関係」が生じると、様々な法律紛争の際に、誰と誰の間にどのような根拠で権利義務が生じるのか、一見して分かりづらくなりますし、考えてみると興味深い論点になったりします。

 そこで今回は、サブリース物件(建物)に物理的な欠陥(いわゆる瑕疵)があって損害が生じた場合に、誰が誰に対して請求できるのか、という点を考えてみたいと思います。

 民法では、「工作物責任」という不法行為責任が規定されており、建物の設置や保存に瑕疵(欠陥)があった場合には、第一次的に、建物の「占有者」(管理できる人間)に損害賠償責任が発生します。その「占有者」に過失(注意義務違反)が無かった場合には、その建物の「所有者」が賠償責任を負うことになっています(民法第717条)。

 例えば、建物の転借人(利用者)が内壁とか天井の崩落で怪我をした場合、大家さんから直接的に借りていたら大家さんに損害賠償請求することになります。他方、それがサブリースであったら、転借人(利用者)は、まずは転貸人(入居者との間で管理責任を負う「占有者」となります)に請求し、その転貸人に過失が無ければ、「所有者」(大家さん)に損害賠償請求していくことになります。

 次に、例えば物件が店舗の場合、その店舗内で怪我をしたお客さんは誰にどのように請求できるのでしょうか。コンクリート打ちっぱなしのお洒落な建物では、室内の天井部分の配管がむき出しになっていたり、天井から吊るされている空調のプロペラファン(シーリングファン)を良く見かけたりします。地震でそれらが落下して(原因は手入れ不十分とします)、下に居たお客さんが怪我をした場合、どこに賠償請求できるのでしょうか。お客さんとの関係では、転借人(店舗の開設者)が建物の管理を行なう「占有者」になると思いますが、そのお店に賠償する経済力が無い場合、転貸人には請求出来ないのでしょうか。古い判例では「間接占有者(この場合のサブリース業者)も工作物責任の占有者に当たる」とされていますが、この辺りは個別事情によるべきで、お客さんに損害を与えた瑕疵が、「所有者(大家さん)・賃借人兼転貸人(サブリース業者)・転借人(店舗の開設者)のうち誰が設置したものか」「転借人(店舗の開設者)と転貸人(サブリース業者)のどちらの支配下(管理下、占有下)にあるのか」で判断していくのが良いと思います。

 もともと所有者(大家さん)の設置したものであったとしても、賃貸借契約や転貸借契約の中で転貸人(サブリース業者)の管理責任の範囲と定められていて、転借人(店舗の開設者)の手出しできない箇所なのであれば、お客さんは、店舗の開設者ではなく転貸人(サブリース業者)に賠償請求していくことが妥当な気がします。他方、契約の中で、転借人(店舗の開設者)が管理責任を負うとされていたら、それを転貸人(サブリース業者)に賠償請求するのは酷だとも思います。*被害者の救済という点で問題がある気もしますが、転貸人(サブリース業者)に過失が無い場合には、最終的には所有者(大家さん)に賠償請求することで救済が図られます。

 また、例えばマンションの共用部分の瑕疵等(共用廊下の天井の崩落とか外壁タイルの剥離)で通行人が怪我をした際、転貸人(サブリース業者)がマンション一棟全体を借り上げている場合(マスターリースと表現されたりします)には、共用部分については転貸人(サブリース業者)が占有者として第一次的に責任を負い、次に所有者(賃貸人)が責任を負うことになると思いますが、サブリースが個々の部屋に関する契約に過ぎなければ、共用部分についてサブリース業者は「占有者」とは言えず、大家さんが所有者兼占有者として責任を負うことになるのだろうと思います。

 以前のコラム(「派遣会社の使用者責任」)でも、雇用主(派遣元)・現場の使用者(派遣先)・労働者(派遣社員)という三者関係の中で誰が「使用者責任」(民法第715条)を負う使用者なのか、という論点をご紹介しましたが、複数の当事者間で誰と誰の間にどのような根拠で何が生じるのか、という点を意識すると、興味深い論点がまだまだ見つかると思っています。

(2022年12月執筆)

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執筆者

政岡 史郎まさおか しろう

弁護士

略歴・経歴

  H7  早稲田大学卒業、都内某不動産会社入社
  H13 同社退社
  H17 司法試験合格
  H19 弁護士登録・虎ノ門総合法律事務所入所
  H25 エータ法律事務所パートナー弁護士就任

「ある日、突然詐欺にあったら、どうする・どうなる」(明日香出版社 共著)
「内容証明の文例全集」(自由国民社 共著)
「労働審判・示談・あっせん・調停・訴訟の手続きがわかる」(自由国民社 共著)
「自己破産・個人再生のことならこの一冊」(自由国民社 校閲協力)

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