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民事2022年05月06日 買主の受領遅滞と責任追及(解除・損害賠償請求)の可否 ~不動産の購入者が引き渡しを受けてくれないというトラブル~ 執筆者:政岡史郎

 何かを売り買いした時のトラブルには様々なものがありますが、直ぐに思い浮かぶケースとしては、『買った物に欠陥がある』『買った物が届かない』『買主が代金を支払わない』等だと思います。これらは、瑕疵担保(契約不適合)責任とか、売主や買主の債務不履行責任を規定した法律で解決の道筋が見つけられます。

 では、買主が売買の目的物を引き取ってくれない場合に、そのこと自体を問題視して責任追及は出来るのでしょうか。
 通常は、『受け取って使いたいから物を買う』わけで、買ったのに受け取らない事態はあまり起こりませんが、それでも、【事実は小説より奇なり】ということで、そのような紛争も稀に起こります。実は、私が現に依頼を受けている事件も、不動産の引渡しを受けない買主が売主の連絡を無視し続けており、他方、売主が他の人に売る訳にもいかず困っている、という特殊な事例なのです。

 ここでの問題は、以下の条文や判例の存在・解釈です(下線部は筆者)。

民法第413条(受領遅滞)
1 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その債務の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、履行の提供をした時からその引渡しをするまで、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、その物を保存すれば足りる。
2 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができないことによって、その履行の費用が増加したときは、その増加額は、債権者の負担とする。

 この条文は、2020年4月1日施行の改正民法の条文ですが、改正前の民法や判例の考え方を踏襲しています。
 大正時代からの判例(大審院、最高裁)は一貫して、売買契約の買主が目的物を受領しないことは「単に受領する権利を行使していないだけ」であり、「買った人間には、受領しなければならない法的義務は無い」とされてきました。
 その結果、買主が受領しないことは、「義務を怠った」こと、つまり、「債務の不履行」には当たらず、債務不履行を理由にした契約の解除や損害賠償請求が認められませんでした。
 なお、昭和46年12月16日の最高裁判決では、一定の期間中に採掘した鉱物の継続的な供給契約の事例で「信義則を理由にした買主の引き取り義務」を認め、鉱物の引き取りを拒否した買主への損害賠償請求を認めましたが、これはあくまで当該事例の特殊性を踏まえた「事例判断」で、一般論としては、買主の受領義務は否定されています。
 そのため、買主が受領しないことを理由とした損害賠償の請求や契約の解除は一般的に難しく、この点での責任追及は困難です。
 2020年4月の改正民法でも従来の考え方が踏襲されているため、上記の条文の通り、買主が受領しない場合には、売主は、①善管注意義務レベルの保管義務は免れ、自己の財産と同一の注意で保管すれば足りる(保管の際に求められる注意のレベルが下がる)、②引渡しのための費用が追加で発生したら請求できる(例えば目的物を外部倉庫で保管したら、その保管費用を請求できる)、という程度にとどまり、それを超えた「損害賠償請求」や「解除」は難しい状況です。

 契約というのは、当事者が協同して何らかの法律関係を構築すること(売買で言えば目的物の所有権を移転すること)を約束するものなので、約束した法律関係の実現に向けた義務が当事者双方に生じると考えて良いのではないかと思うのですが、残念ながら、買主の受領義務を明文化することは、大きな論争にもなってないようです。受領しない買主は通常なら代金も支払わないでしょうから、代金不払いで解除・損害賠償請求すれば良く、問題になるケースが極度に少ないことが原因だと思います。

 私の依頼された事件は、買主が代金を支払いながらも不動産は引き取らないため、買主に受領義務が認められないと、買主に債務の不履行は何も無く、売主が契約を解除することはできません。他方、代金を受領している以上、売主は他の人に売る訳にも行きません。しかも、登記簿上の所有者は売主のままなので、多額の固定資産税の納付義務が売主に生じているという、『蛇の生殺し状態』となっています。

 税金の点は、「不動産登記の引取請求訴訟」というレアな手続きを使えば登記簿上の所有者を買主に変更でき、売主は、登記が済んだ翌年以降の納税義務からは免れます。

 もっとも、そこに至るまでの税負担など様々な支出が売主に発生するため、どうにか回収できるようにしたいのですが、なかなかハードルが高い状況です。

 依頼者である売主には、将来的に同じことが繰り返されないよう、せめて今後の契約書には買主の引取義務を一応明記しておくようアドバイスしつつ、今回の件ではダメ元で損害賠償請求の裁判を検討していますが、結論は厳しいものになる気がしています(もし機会があれば、裁判の顛末はコラムにするつもりです)。

(2022年4月執筆)

執筆者

政岡 史郎まさおか しろう

弁護士

略歴・経歴

  H7  早稲田大学卒業、都内某不動産会社入社
  H13 同社退社
  H17 司法試験合格
  H19 弁護士登録・虎ノ門総合法律事務所入所
  H25 エータ法律事務所パートナー弁護士就任

「ある日、突然詐欺にあったら、どうする・どうなる」(明日香出版社 共著)
「内容証明の文例全集」(自由国民社 共著)
「労働審判・示談・あっせん・調停・訴訟の手続きがわかる」(自由国民社 共著)
「自己破産・個人再生のことならこの一冊」(自由国民社 校閲協力)

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