一般2025年02月05日 保釈の話 執筆者:石丸文佳

先日、愛知県で、年末(12月27日の仕事納め)に行った保釈請求に対し、裁判官が、検察官からの回答が返って来ないことを理由として年明けまで10日間判断をしないとの回答をしたところ、これを撤回させて年内に身柄の釈放が叶ったというニュースがありました。
被告人だって年末年始くらいは外で過ごしたいでしょうし、何より人権侵害甚だしい身柄拘束は極力短くするよう努めるべきなのですが、このニュースには唸りました。
私も、弁護人としていつも、1日どころか1時間でも早い釈放を求めて動いていますが、それでも年末に出した保釈申請の判断を裁判官に年内に出すよう急がせることができたか、と問われると自信がありません。何故なら、検察官の回答は返って来ていないけれど、弁護人がそこまで言うなら検察官は保釈に反対しているものと仮定して、とりあえず今回の保釈は却下しておこう、と裁判官に思われたくないからです。裁判官も人の子であり、仕事納めは早く家に帰りたいのにこんなギリギリになって持ちこんで、と反感を抱かれるかもしれない、その感情のままにとりあえず保釈を却下しておけば逃亡されることもないし安牌だ、どうせそのうちまた保釈請求してくるだろうからそのときに改めて判断すれば十分だ等と思われるかもしれない可能性を考えずにはいられません。愛知の件は、記事のコメントを見ると、「悪いことをしたのだから年末年始に10日間余計に拘束されるくらい自業自得だろう」というようなものが散見され、日本人は未だに裁判前であっても有罪推定、警察に疑われるようなことをした方が悪い、裁判で下される処罰に先行して別途身柄拘束が実質的な処罰として機能していても受け入れよという意識があるように感じます。裁判官の身柄拘束に対する反応が鈍いのも、実はこれに近い意識があるのかもしれません。留置所や拘置所における身柄拘束が刑務所と同等、あるいはそれ以上に辛い状況であるということを改めて考えていただきたいものです。時折、社会内で生活できないから敢えて罪を犯して刑務所に入りたがる人がいる、というニュースが出てくるせいで、留置所や拘置所の環境の酷さが正しく伝わっていないように感じます。日本における身柄拘束は、単に自由にどこかに行くことができないというだけではないのですが…。
私も、昨年末は25日に保釈申請を出しましたが、27日に却下されたので、その日の午後に更に抗告を出しました。抗告審は、こちらが急かすまでもなく、その日のうちに光の速さで抗告を棄却してきました。いつもよりも早い判断に、裁判官も仕事納めの日に極力残業したくなかったのだろうなあ、と思ったものです。
あるいは、土日に保釈申請を出したら当直裁判官に当たってしまう、当直裁判官にはとりあえず無難に却下しておけばいいと思われるかも、それくらいなら月曜に出して余裕のある状況で判断してもらった方が結果的に被告人のためになるのではないか、と考えてしまうこともあります。
だからこそ、愛知の件は快挙だと思ったわけです。一度は10日間判断を放置するつもりだった裁判官に、年内に決定を出させるだけの働きかけを行い、しかもこれによって仮に内心反感を抱かれようとも、裁判官が保釈を出さざるを得ないだけの材料を揃えて自信を持ってアピールする、という姿勢が弁護人には大事なのでしょう。
それにしても、日本は保釈が出ない国ですね。逃亡や罪証隠滅要件について、実質的な可能性どころか机上の空論すら失われるまで保釈しないのではなく、仮にその机上の空論と思われたことが現実化したときは、事後的に重罰を科すことで十分ではないでしょうか。
(2025年1月執筆)
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