一般2025年12月24日 日本のプロスポーツ選手の肖像権・パブリシティ権 執筆者:堀田裕二

JリーグやWEリーグなどで使用される日本サッカー協会選手契約書(統一契約書)1においては、「クラブが本契約の義務履行に関する選手の肖像、映像、氏名等(以下「選手の肖像等」という)を報道・放送において使用することについて、選手は何ら権利を有しない。(統一契約書第8条①)」と定め、Jリーグ等のクラブに関する報道・放送に関して選手は肖像権を有しないとされている。他方、選手はクラブの広告宣伝等に協力する義務があり(同条②)、クラブは選手の肖像等を用いた商品についての商品化権を有する(同条③)。そして、テレビ番組やイベントへの出演についてはクラブの許諾が必要とされている(同条④)。唯一、選手個人単独の肖像写真を利用した商品の売上やテレビ番組の報酬について、クラブと選手が協議をすると定めている(同条⑤)。このように、JリーグやWEリーグに所属するプロサッカー選手は、事実上統一契約書の使用を強制されているにもかかわらず、選手の大きな権利である肖像権が大きく制限されている。
同じく統一契約書を使用するプロ野球(NPB)2においても、「球団が指示する場合、選手は写真、映画、テレビジョンに撮影されることを承諾する。なお、選手はこのような写真出演等にかんする肖像権、著作権等のすべてが球団に属し、また球団が宣伝目的のためにいかなる方法でそれらを利用しても、異議を申し立てないことを承認する。」(統一契約書第16条)と定め、報酬についてのみ、適当な分配金を受け取ることができると定められており、同じく肖像権が大きく制限されている3。
また、Bリーグの統一契約書4においても、「本契約の履行に関する選手の肖像、映像、氏名、似顔絵、アニメ、音声、署名、背番号および略歴等(以下「選手の肖像等」という)を報道・放送において使用することについて、選手は何ら権利を有しない。」(統一選手契約書第8条(1))と規定し、その他の条項もほぼ日本サッカー協会選手契約書と同じ内容の規定となっている。
アメリカにおいては、選手の肖像権は法令上明確に規定されていないものの、肖像を用いた商業活動に関する権利(パブリシティ権)が財産権の一部として認められており、選手が有するパブリシティ権の譲渡やライセンスを受ける形でチーム等が選手の肖像等を使用する。この点、多くのスポーツでは、選手契約において、このチームの活動に関する肖像(特にユニフォーム等を着用するなど、チームの活動であることが明らかであるもの)については、チーム側も肖像を使用する権利を有するということが定められ、個別に権利の処理が図られている。また、選手会が一定人数以上の選手の肖像権を管理することや、ライセンス管理を行う会社を設立する例(NBPAやNFLPAなど)がある。
特にアメリカでは、2021年7月、NCAAが従来禁止されていた学生アスリートの肖像使用による収入の確保を解禁するなど、アマチュア選手にも肖像使用によるパブリシティ権を選手に認める動きが広がっている。
イギリスにおいては、選手のパブリシティ権が慣習法(コモンロー)で認められるとされているが、アメリカと同様選手がチームと契約するにあたり、チームとしての活動におけるパブリシティ権をチームが有すると定められている場合が多いとされる。しかし、サッカーのプレミアリーグにおいては、クラブとリーグに付与される肖像等の利用に関する権利はクラブやリーグの宣伝目的等に限定されており、肖像に関する権利やパブリシティ権が選手に広く認められている。
現在においては、SNSなど選手が個人でメディアを利用することが考えられるし、個人としての活動によっての収益も大きくなる可能性があるが、日本では、上記の契約などから、そもそも選手がSNSを積極的に利用すること自体抑制的となっている傾向がある。日本プロサッカー選手会の吉田麻也会長が統一契約書の改定やガイドラインの策定を求めたのはまさにこのような理由によるものであり、選手の権利を適正に確保し、選手の活動の幅を広げるためにも、他の競技を含め、より明確なルール作りが求められている。
1 日本サッカー協会選手契約書〔プロA契約書〕(なお、プロB契約書等も肖像権に関する規定は同内容)https://www.jfa.jp/documents/pdf/basic/06/01.pdf
2 統一契約書様式https://jpbpa.net/wp-content/uploads/2021/12/uc2018.pdf
3 この点、最判平成22年6月15日参照。
4 選手統一契約書https://www.bleague.jp/files/user/about/pdf/r-31.pdf
(2025年12月執筆)
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執筆者

堀田 裕二ほった ゆうじ
弁護士/アスカ法律事務所パートナー
略歴・経歴
【経歴】
平成17年10月 大阪弁護士会登録 アスカ法律事務所入所
平成23年 1月 アスカ法律事務所 パートナー
公益財団法人日本スポーツ仲裁機構 スポーツ仲裁人・調停人候補者
一般社団法人奈良県サッカー協会 常務理事
OCA大阪デザイン&IT専門学校eスポーツ学科 講師
日本スポーツ法学会理事・事務局長
大阪弁護士会スポーツ・エンターテインメント法実務研究会世話役
日本スポーツ協会スポーツ少年団協力弁護士等
【主な取扱い分野】
インターネット、コンピュータに関連する法律問題
スポーツ(eスポーツ含む)・ファッションビジネスに関連する法律問題
【書籍】
「eスポーツの法律問題Q&A」 (共著・eスポーツ問題研究会編)民事法研究会
「スポーツの法律相談」 (共著・菅原哲朗・森川貞夫・浦川道太郎・望月浩一郎 監修)青林書院
「発信者情報開示請求の手引」 (共著・電子商取引問題研究会編)民事法研究会
「スポーツガバナンス実践ガイドブック」 (共著・スポーツにおけるグッドガバナンス研究会編)民事法研究会
「スポーツ界の不思議 20問20問」 (共著・桂充弘編)かもがわ出版
「Q&A スポーツの法律問題(第4版)」 (共著・スポーツ問題研究会編)民事法研究会
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