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一般2022年03月09日 ロシアのウクライナ侵攻がスポーツに与える影響 執筆者:堀田裕二

 2022年2月22日、ロシアのプーチン大統領がウクライナへの侵攻を指示したとされ、それ以降ウクライナでは戦争状態に入っています。

 このロシアのウクライナ侵攻がオリンピックの休戦規定に違反しているとされています。では、そもそもこの休戦規定とは何なのでしょうか。そして、国家間の戦争などがスポーツやスポーツ選手に与える影響はどうなっているのでしょうか。

 いわゆる「オリンピック休戦」と呼ばれるものは、オリンピック・パラリンピック期間中の休戦を呼びかける国際的活動を指し、1994年のリレハンメルオリンピック以降は国際連合決議という形で具体化されています。

 具体的には、オリンピック・パラリンピック大会毎に、大会開催国及びこれに賛同する国がオリンピック・パラリンピック期間(オリンピック開幕7日前からパラリンピック閉幕7日後まで)の休戦を国際連合加盟国に求める決議を国連総会に提案し、これを決議(採択)するという手続です。

 あくまで加盟国に休戦を呼びかける決議のため、法的な拘束力はありません。

 近代オリンピックは、フランスの教育者ピエール・ド・クーベルタン男爵によって提唱されたものですが、クーベルタンは、スポーツを通して人間を変革し、精神を発達させることを目指しました。オリンピック期間中に文化・芸術プログラムを開催することが開催都市契約によって定められているのはこのことによります。そして、クーベルタンは、スポーツを通じて平和な世界の実現に寄与することをオリンピックの理念に掲げました。オリンピックが「平和の祭典」と呼ばれるのはこのことによります1。オリンピック憲章では、オリンピズムの根本原則第2項として、「オリンピズムの目的は、 人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指すために、人類の調和のとれた発展にスポーツを役立てることである」としてオリンピックを通じて平和な世界の実現を目指すクーベルタンの思想が表現されています。

 2022年の北京冬期オリンピック・パラリンピックについても、2021年12月2日の国連総会本会議で、中国ほか173か国が共同提案したオリンピック・パラリンピック期間中の休戦を求める決議を無投票で採択しました。

 これに対し、ロシアは、2008年の北京オリンピック期間中にジョージアに侵攻し、2014年のソチパラリンピック後の休戦期間中にクリミア半島を併合するなど、過去2回の休戦決議違反を犯しており、今回のウクライナ侵攻が3回目となります。

 前述のとおり、決議に法的拘束力はありませんが、オリンピズムの根本原則に反する行為であるため、国際オリンピック委員会(IOC)としてもこれを無視することができません。2022年2月28日、IOCはロシアとロシアの同盟国であるベラルーシの選手を国際大会に参加させないよう、国際競技団体や大会主催者に勧告しました。そして、国際パラリンピック委員会(IPC)は、2022年3月3日、声明を発表し、前日2日に中立選手としての参加を容認したロシアとベラルーシの選手について、一転して出場を認めないとしました。

 また、国際サッカー連盟(FIFA)や欧州サッカー連盟(UEFA)がロシアのクラブチームと代表チームの全ての大会への参加を禁止したのに対して、ITFなどテニス協会3団体はロシアとベラルーシの選手の大会参加を認めるなど、今回のロシアのウクライナ侵攻については、競技団体毎に判断が分かれており、また一度行われた判断が変更されるなど非常に流動的な状態となっています2

 当然、大会参加を禁止するというような対応は、直接は戦争に関係しないロシアに帰属するスポーツ選手の参加する権利を奪う行為となるため、どこまでの措置をとるかは難しい問題となります。また、オリンピックが平和の祭典であり、スポーツが持つ平和を創造するという機能から鑑みれば、こんな時にこそ当事国のスポーツ選手がスポーツを通じて平和をアピールすべきとも思えます。

 さらに、オリンピックについては、休戦決議やオリンピック憲章という根拠があるものの、他の競技については、IOCの勧告以外に明確な根拠規程などはないものと思われます。

 このような場合、どのような基準で選手やチームの参加を制限できるのか、スポーツが平和に果たす役割も考えながら今一度考える必要があるのではないかと思います。

1 パラサポWEB「スポーツで戦争をなくす?『オリンピック休戦』とは?」
  https://www.parasapo.tokyo/topics/25409
2 記載した内容は全て本記事執筆時点(2022年3月3日)

(2022年3月執筆)

執筆者

堀田 裕二ほった ゆうじ

弁護士/アスカ法律事務所パートナー

略歴・経歴

【経歴】
平成17年10月 大阪弁護士会登録 アスカ法律事務所入所
平成23年 1月 アスカ法律事務所 パートナー

公益財団法人日本スポーツ仲裁機構 スポーツ仲裁人・調停人候補者
一般社団法人奈良県サッカー協会 常務理事
OCA大阪デザイン&IT専門学校eスポーツ学科 講師
日本スポーツ法学会理事・事務局長
大阪弁護士会スポーツ・エンターテインメント法実務研究会世話役
日本スポーツ協会スポーツ少年団協力弁護士等

【主な取扱い分野】
インターネット、コンピュータに関連する法律問題
スポーツ(eスポーツ含む)・ファッションビジネスに関連する法律問題

【書籍】
「eスポーツの法律問題Q&A」 (共著・eスポーツ問題研究会編)民事法研究会
「スポーツの法律相談」 (共著・菅原哲朗・森川貞夫・浦川道太郎・望月浩一郎 監修)青林書院
「発信者情報開示請求の手引」 (共著・電子商取引問題研究会編)民事法研究会
「スポーツガバナンス実践ガイドブック」 (共著・スポーツにおけるグッドガバナンス研究会編)民事法研究会
「スポーツ界の不思議 20問20問」 (共著・桂充弘編)かもがわ出版
「Q&A スポーツの法律問題(第4版)」 (共著・スポーツ問題研究会編)民事法研究会

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