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一般2024年07月19日 スポーツと技術~ビデオ判定は万能か~ 執筆者:堀田裕二

1 スポーツは、語源であるデポルターレの意味(余暇など)にもあるとおり、本来楽しむためのものであるが、競技として行われる場合、勝ち負けは重要な要素であり、その判定をする審判やルールが公平、公正であり正確であることが求められる。

2 この点、審判の資格や人数などの要件、審判や判断にかかわるルール、採点の方法や基準など、競技ごとに様々な工夫がなされ、改善が行われてきている。そして、審判も人である以上、誤審を行う可能性があるということで、それを補完するために機械を用いるなど技術的なツールが用いられるようになってきている。

3 スポーツ競技において審判を補助する技術としては、カメラ技術を用いるものが代表的であるが、そこには、ゴールラインなどのラインを超えたかどうかを判定するもの(ゴールラインテクノロジーなど)と、ビデオ映像でプレーを判断するものに大きく分かれる(現在では審判の判定や採点そのものをAIが行うものもある。)。
 このような技術が最初に用いられたのはコモンウェルズゲームズ(イギリス連邦の国での競技)で行われているクリケットであると言われている。
 そして、その後テニス、サッカーと広がっていったが、当初は審判が目視するより判定がしやすいラインを超えたかどうかの判断が中心であった。その後、競技も広がっていくとともに、判定内容もラインだけでなく、ファールなどその他の内容を判断するビデオ判定にも広がっていった。現在は、他にもバレーボール、野球、ラグビー、バスケットボール、柔道、レスリングなど様々な競技で利用されている。

4 この点、全て機械で行えば正確になるのではないかと思われる。確かに、上述のラインの判断については、現在はホークアイシステムやこれを用いたゴールラインテクノロジーなどがあるが、これは機械が高度化しミリ単位の精度で即時に判断を行うため、審判の判断が介在する余地はほぼなく、機械による判断が概ねそのまま判定に用いられることになる。2022年のFIFAワールドカップカタール大会におけるいわゆる「三苫の1㎜」と呼ばれるシーンが代表的なものである。

5 しかし、ライン判定以外のビデオ判定においては、競技の流れを見ての判断など、ビデオ技術を用いるものの最終的には審判による判断となるため、機械は審判を補完する役割として用いられている。また、機械を、判断に疑義がある場面全てで使用すれば、当然試合の流れが悪くなるし、多用すれば審判の信頼を損なうおそれもある。
 そこで、現在は、競技にもよるが、ビデオ判定を用いての判断はあくまで補助的かつ限定された場面でしか用いられないことになっている。
 具体的には、サッカーでは、VARが使用される場面は①得点かどうか、②PKかどうか、③退場かどうか、④警告・退場の人間違いに限られている。また、バレーボールでは、チャレンジシステムという制度により、1セット2回までで、使用できるのは①ボールのインアウト、②ワンタッチ、③ネット・アンテナ接触、④ライン踏み越し、⑤ボールの落下の判断に限られるとされている。先日(2024年6月)、バレーボールのネーションズリーグ男子準々決勝で、日本代表がフォアヒット(3打以内で相手コートに返球できない反則)の判定を取られた際、選手が猛抗議したにも関わらずビデオ判定が認められなかったのはこれによる。

6 このように、限られた場面で審判を補完する役割で用いられてきたビデオ判定は、概ね判断の正確性を担保するのに役立っているといえる。しかし、そうとも言えない動きもある。
 サッカーのイギリス、プレミアリーグでは2019/20シーズンからVARを導入したが、導入当初から長時間のレビューによる試合の遅延や、オフサイド判定のためにスクリーンに線を引く際に誤審が発生するなどしたことから、VARに対する批判があった。そして、ついに2024年になってプレミアリーグの1つのチーム、ウルヴァーハンプトン・ワンダラーズ(ウルブス)がプレミアリーグに対してVAR廃止を求める意見書を提出し、6月6日に開催される年次総会でVAR廃止についての決議がなされるに至った。結果的にはウルブス以外に賛成するチームはいなかったため、決議は否決されたが、VARが万能ではないことについての問題提起を行うことになった。プレミアリーグに続いてブンデスリーガ(ドイツ)やラ・リーガ(スペイン)、セリエA(イタリア)などでもVARが導入されているが、同様の批判は存在すると言われる。
 プレミアリーグでは、2024/25シーズンからはさらにAIを用いたオフサイドの半自動判定システムを導入するとも言われている。これによりこれまでのVARの弊害が軽減されるか、今後の動きが注目される。

7 今後は、カメラ技術やAIなど、さらに技術は進んでいくと思われるが、それをどのように導入するのが良いか、スポーツ競技における公平性、公正性や判断の正確性、他方審判の信頼性確保や競技のスピード、そもそもの全てを機械で判断することによる競技の魅力確保などさまざまな観点からうまく利用する必要があり、今後も議論が必要であると思われる。

(2024年7月執筆)

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

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執筆者

堀田 裕二ほった ゆうじ

弁護士/アスカ法律事務所パートナー

略歴・経歴

【経歴】
平成17年10月 大阪弁護士会登録 アスカ法律事務所入所
平成23年 1月 アスカ法律事務所 パートナー

公益財団法人日本スポーツ仲裁機構 スポーツ仲裁人・調停人候補者
一般社団法人奈良県サッカー協会 常務理事
OCA大阪デザイン&IT専門学校eスポーツ学科 講師
日本スポーツ法学会理事・事務局長
大阪弁護士会スポーツ・エンターテインメント法実務研究会世話役
日本スポーツ協会スポーツ少年団協力弁護士等

【主な取扱い分野】
インターネット、コンピュータに関連する法律問題
スポーツ(eスポーツ含む)・ファッションビジネスに関連する法律問題

【書籍】
「eスポーツの法律問題Q&A」 (共著・eスポーツ問題研究会編)民事法研究会
「スポーツの法律相談」 (共著・菅原哲朗・森川貞夫・浦川道太郎・望月浩一郎 監修)青林書院
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「スポーツ界の不思議 20問20問」 (共著・桂充弘編)かもがわ出版
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