一般2021年10月11日 eスポーツにおけるタイトル選定のあり方 執筆者:堀田裕二
先般行われた東京オリンピックにおいては、新競技であるスケートボードやサーフィンなどで多くの日本人選手が活躍し、話題になった。
他方、野球・ソフトボールや空手など、東京オリンピックで競技として採用された競技でも、次のパリ大会では競技とはならないことが決定した競技もあり、これらの競技に関わる選手や関係者への影響は大きいと思われる。
そもそも、オリンピックにおける競技や種目はどのように選ばれるのであろうか。
オリンピック憲章は「52.競技プログラム、競技・種別・種目の出場資格の認定」という条項において、競技や種目の選定基準について記載をしている。
例えば、夏季オリンピック競技については、世界的に広く行われている競技であることが求められており1,種目についても、競技人口が多く、一定地域だけでなく広く世界で行われている種目であり、少なくとも2回以上世界大会を行っている競技であることが求められている2。その上で、原則として大会が行われる7年前までに、競技として認めるかどうかをIOCで決めることになっている。
アジア版オリンピックともいえるアジア競技大会でも、アジア・オリンピック評議会(OCA)の憲章および規則において、競技選定についての定めがある。
具体的には、第49条の「必須競技」という項目において、陸上競技、水泳、芸術展示3の3つが必須競技とされている。さらに、第71条「アジア競技大会プログラム」という項目において、オリンピック競技に加えて、5つの地域競技と大会組織委員会が提案した2つの競技を行うことができるとされている4。
さらに種目については、原則としてOCAがIF(当該種目の国際統括団体)やAF(アジアの統括団体)等と協議して種目を決めるが、随時OCAがプログラムリストを改定できるという形になっており、OCAに広い裁量が認められている5。
この点、2022年に中国、杭州で開催されるアジア競技大会(アジア大会)においては、eスポーツが正式競技として採用されることが決まったが、そのeスポーツについて、2021年9月8日、そこで行われるタイトルが発表された。
そこでは、公式ゲームとして8つのタイトルが選ばれ、デモンストレーションゲームとして2つのタイトルが選ばれた。
このうち、デモンストレーション競技だった2018年大会と同じタイトルは3タイトルのみで、他の5つのタイトルは新しく選ばれたものである。また、8つのタイトルのうち、4つがMOBA(マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ)と呼ばれるジャンルのゲームである点、モバイルゲームが3つ入っている点、アジア競技大会専用のバージョンになっているタイトルが2つある点、同じサッカーのゲームでも、ウイニングイレブンからFIFAというタイトルに変わっている点などが特徴的である。
詳細は不明であるのであくまで推測であるが、タイトルの発表がアジアeスポーツ連盟からなされていることから、タイトルの選定に関しては、他の競技の「種目」と同じようにAFと協議して選定されていると思われるが、選定の過程やその基準などは不明である。
特に、eスポーツにおいては、ゲームパブリッシャーが権利を有することから、ゲームパブリッシャーの影響力を排除できないという点が他のスポーツと異なる点である。また、中国系企業が関係するゲームタイトルが多くなっているなど政治的な影響力もあるのではないかと言われている(ただし、中国国内で配信が停止されているタイトルが選ばれていることからどこまで政治的な影響力が働いているかは不明である。)。
通常のスポーツでも、それがオリンピックの競技種目として選ばれるかどうかについて、関係者、特に選手が大きな影響を受ける。
eスポーツにおいてもそれは同様であるが、eスポーツではタイトルが複数あることから、タイトル変更による影響を受けやすいといえる。
今後、選手に対する影響力や競技自体の公平性の確保ということを考えて、タイトルの選定過程や選定基準をより明確にしていくことが求められる。
1 オリンピック憲章1.1.1 オリンピアード競技大会のプログラムに含めることができるのは、男性によっては、少なくとも75か国、4大陸で、女性によっては、少なくとも40か国3大陸で広くおこなわれている競技のみとする。
2 オリンピック憲章3.2 『種目』がオリンピック競技大会のプログラムに含まれるためには、競技人口数のうえでも、地理的にも両方で公式に認められた国際的な地位をもち、少なくとも2度は世界選手権大会もしくは大陸選手権大会に含められた実績をもっていなければならない。
3 OCA憲章第49条 1. アジア競技大会のプログラムには、下記の必須競技を含むものとする。陸上競技、水泳、芸術展示
4 OCA憲章第71条 2. アジア競技大会の公式プログラムには、IOCが承認した必須競技である陸上競技と水泳を含むオリンピック競技すべてを盛り込むことができ、それらの競技がアジア競技大会プログラムを構成するものとする。アジア競技大会プログラムにはこれに加え、5つの地域競技、およびOCA総会の承認に従ってAGOCが提案し、OCA理事会が承認する2つの競技を含めるものとする。
5 OCA憲章第71条 3. OCAは、必要な場合、IF、AFまたは OCAの認めたこれに代わる団体との協議の上、各競技に含まれる種目を決定するものとする。OCAは、随時プログラムリストを改定し、ある競技をプログラムから削除したり、あるいは追加したりすることができる。ただし、競技大会のプログラムは、少なくともアジア競技大会開催の 2 年前までに必ずOCAに提出されるものとし、また理事会の承認を得た後はいかなる改定も行わないものとする。アジア競技大会プログラム選定の最終段階では開催国の見解も考慮に入れるものとする。
(2021年9月執筆)
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執筆者
堀田 裕二ほった ゆうじ
弁護士/アスカ法律事務所パートナー
略歴・経歴
【経歴】
平成17年10月 大阪弁護士会登録 アスカ法律事務所入所
平成23年 1月 アスカ法律事務所 パートナー
公益財団法人日本スポーツ仲裁機構 スポーツ仲裁人・調停人候補者
一般社団法人奈良県サッカー協会 常務理事
OCA大阪デザイン&IT専門学校eスポーツ学科 講師
日本スポーツ法学会理事・事務局長
大阪弁護士会スポーツ・エンターテインメント法実務研究会世話役
日本スポーツ協会スポーツ少年団協力弁護士等
【主な取扱い分野】
インターネット、コンピュータに関連する法律問題
スポーツ(eスポーツ含む)・ファッションビジネスに関連する法律問題
【書籍】
「eスポーツの法律問題Q&A」 (共著・eスポーツ問題研究会編)民事法研究会
「スポーツの法律相談」 (共著・菅原哲朗・森川貞夫・浦川道太郎・望月浩一郎 監修)青林書院
「発信者情報開示請求の手引」 (共著・電子商取引問題研究会編)民事法研究会
「スポーツガバナンス実践ガイドブック」 (共著・スポーツにおけるグッドガバナンス研究会編)民事法研究会
「スポーツ界の不思議 20問20問」 (共著・桂充弘編)かもがわ出版
「Q&A スポーツの法律問題(第4版)」 (共著・スポーツ問題研究会編)民事法研究会
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