カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

一般2020年05月01日 オリンピック・パラリンピック延期と法律問題 執筆者:堀田裕二

 ご存じのとおり、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、東京オリンピック・パラリンピックの1年延期が決定されました。
 1年延期により、具体的な競技をいつ、どこで開催するのか、延期に伴う費用はどうするのかなど問題は山積ですが、ここでは延期に伴い考えられる法律問題について、現時点で分かっている情報に基づき検討したいと思います。
1 代表選考の問題
  まず、新聞等でも話題になっていますが、代表選考の問題があります。すなわち、既に代表選手が決定した競技においては、決定した代表選手を維持するのか、再度代表選考をやり直すのかという問題であり、まだ代表選手を決定していない競技においては、代表選考をどのように行うのかという問題です。これについては、代表選考基準など既に定められた基準では想定されていない事項であるため、各競技団体において選手の保護と延期後の大会開催時点での代表選手として適切かという難しい判断を求められることになります。
2 チケットの問題
  次に、今回延期に決定に伴い、販売済みのチケットがそのまま使用できるのか、延期後のスケジュールが合わなかった場合には払戻しができるのかなどのチケットに関する問題があります。
  この点、大会組織委員会は現時点では販売済みのチケットがそのまま延期後も使用できるとし、スケジュールが合わなかった場合には払戻ししないリセール(譲渡)ができるという発表をしていますが、その詳細については分かっていません。
  契約上、延期は想定されていなかったため、この点については規約上も記載がありませんが、あくまで購入者保護の観点から上記のような方針を打ち出したものと思われます。
  また、チケット収入からの収益の配分について、従前どおりとするかどうかという問題も残っています。
3 スポンサー・放映権に関わる問題
  オリンピック・パラリンピックが商業化した1984年のロサンゼルスオリンピック以降、オリンピック・パラリンピックによる収入は増加の一途を辿っており、その収入のほとんどは、スポンサー収入とテレビ放映権収入となっています。
  そして、これらスポンサー契約や放映権契約については、その収入の大きさから、延期に伴ってどうなるのかが非常に重要な問題となります。
  まず、スポンサー契約については、契約の内容が公表されていないため不明ですが、おそらく契約期間は2020東京大会終了までなどという終期の記載になっているものと思われます。延期後の大会は2021東京大会ではなく、あくまで2020東京大会が2021年に延期したものですので、このような契約でいくと2021年の大会終了までスポンサー契約は有効ということになります。では、スポンサーフィーはそのままでいいのか、1年分追加で払わないといけないのかが問題となりますが、おそらく契約では想定外の事項と思われます。そうすると、当事者間での協議事項ということになり、延長分の追加費用を払うのか、払うとしていくら払うのかについて協議によって決めることになるものと思われます。
  放映権についても、同じ条件で1年後も使用できるのかという点で、同様の問題が生じますが、これも協議によって決めることになるものと思います。
4 商標の問題
  スポンサー契約などに関連する商標の問題について、今回の大会は2020東京大会が2021年に延期となったものであるため、あくまで使用するロゴやキャッチフレーズなどもそのままとなるものと思われます。とすれば、スポンサー契約などで使用できる商標については、延期前と同じ条件となるものと思います。
  逆に、アンブッシュマーケティングと呼ばれる便乗広告の観点からすれば、あくまで保護された商標は2020に関連するものであるため、「2021東京大会」などの標記をして便乗するものが現れる可能性があります。この場合、これを防止することができるのかが問題となりますが、2021の標記で商標権を登録するなど新たな保護措置を設けない限り難しいものと思われます。
5 その他の問題
  その他、大会組織委員会としては、2020年開催を前提に競技の開催場所などの使用契約を行い、またホテルや関係施設等についての使用契約や各種業務委託契約などを行っていたものと思われます。これらについて、キャンセルに伴う損害賠償はどうするのか、延期後の日程についての再契約はどうするのかという問題が考えられます。これについては、締結されている契約に基づき、キャンセルについては規定によるキャンセルフィーが発生し、延期後の日程については新たな契約を行うことになるものと思いますが、注目度の高い大会であることや巨額の費用に関係する問題であるだけに、関係者も柔軟な対応を行うことが考えられます。
(2020年4月執筆)

執筆者

堀田 裕二ほった ゆうじ

弁護士/アスカ法律事務所パートナー

略歴・経歴

【経歴】
平成17年10月 大阪弁護士会登録 アスカ法律事務所入所
平成23年 1月 アスカ法律事務所 パートナー

公益財団法人日本スポーツ仲裁機構 スポーツ仲裁人・調停人候補者
一般社団法人奈良県サッカー協会 常務理事
OCA大阪デザイン&IT専門学校eスポーツ学科 講師
日本スポーツ法学会理事・事務局長
大阪弁護士会スポーツ・エンターテインメント法実務研究会世話役
日本スポーツ協会スポーツ少年団協力弁護士等

【主な取扱い分野】
インターネット、コンピュータに関連する法律問題
スポーツ(eスポーツ含む)・ファッションビジネスに関連する法律問題

【書籍】
「eスポーツの法律問題Q&A」 (共著・eスポーツ問題研究会編)民事法研究会
「スポーツの法律相談」 (共著・菅原哲朗・森川貞夫・浦川道太郎・望月浩一郎 監修)青林書院
「発信者情報開示請求の手引」 (共著・電子商取引問題研究会編)民事法研究会
「スポーツガバナンス実践ガイドブック」 (共著・スポーツにおけるグッドガバナンス研究会編)民事法研究会
「スポーツ界の不思議 20問20問」 (共著・桂充弘編)かもがわ出版
「Q&A スポーツの法律問題(第4版)」 (共著・スポーツ問題研究会編)民事法研究会

執筆者の記事

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索