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一般2023年03月10日 スポーツにおける国家代表と戦争代替機能~スポーツの平和創造機能を改めて考える~ 執筆者:堀田裕二

 2023年3月に開幕した野球のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。その日本代表に今回アメリカのメジャー・リーグに所属する日系人が選ばれて話題になった。

 そこで、日本代表なのに日系人が選ばれていることに違和感を覚えた人もいるのではないだろうか。

 WBCでは、代表になるためにどのような資格が必要とされているのか。大会規定では、次のように定められている。

①当該国の国籍を所持している。

②当該国の永住資格を所持している。

③当該国で生まれている。

④親のどちらかが当該国の国籍を所持している。

⑤親のどちらかが当該国で生まれている。

⑥当該国の国籍、あるいはパスポートの取得資格を所持している。

⑦過去のWBCで当該国の最終ロースター(名簿)に登録された経験がある。

 すなわち、WBCでは、国籍が要件とされておらず、比較的広い要件で代表資格が認められている。

 その点では、ラグビーにおける代表資格に似ている。ラグビーの世界統括団体であるワールドラグビー(WR)では、規定で代表資格を下記のように定めている。

①当該国で出生している。

②両親、祖父母の1人が当該国で出生している。

③プレーする時点の直前の60か月間継続して当該国を居住地としていた、または、プレーする時点までに、通算10年間、当該国に滞在していた。

 なお、③の要件は、2021年12月31日までは36か月間であったが、60か月間に延長された。また、それまでは一度当該国の代表になると他の代表にはなれなかったが、2022年1月1日からは、一定の要件1のもと、変更ができることになった。この点は、代表の変更が自由にできるWBCとは異なっている。

 他方、サッカーなど他の多くの競技や大会では、代表資格に国籍要件を課しており、また国籍要件に加えて国籍変更があった場合の出場資格の制限も設けていることが多い(代表資格を得るために国籍変更をすることを防ぐため)。

 このように、代表資格は、競技ごと、また競技における大会毎に異なっている。それは、その競技や大会における考え方や競技上の戦略などによって異なっている。

 サッカーのワールドカップや、オリンピックなど、大きなスポーツの大会では、特に代表チームに注目が集まり、国民が代表チームの活躍に一喜一憂し、熱狂する。
オリンピックでは、五輪憲章で出場選手は国の代表ではなく、個人として出場するとされているが、代表選手が国威発揚のためになっており、ナショナリズムを盛り上げることになっている点は否めない。

 ロシアによるウクライナ侵攻当初開催されていた北京オリンピック・パラリンピックでは、ロシアとベラルーシの選手の参加資格が問題になったが、現在改めて来年に控えたパリオリンピックの参加資格を認めるかどうかが話題になっている。
選手は国の代表ではなく、スポーツは国同士の争いではない。また、その代表資格も一律のものではない。

 とはいえ、前述したように、スポーツが国威発揚の道具となっているという現実もあり、国家がナショナリズムのためにスポーツや代表選手を利用しているという側面もある。そして、実際に国の代表選手やチームには多くの国家予算が使用されている。

 他方、スポーツには、元来国同士が実際に戦う代わりに戦争の代替機能として行われたという歴史もあり、国の代表として争うことが戦争を防ぐという機能も有しているとも言える。そう考えると、一概にスポーツ選手が国の代表として争うことが悪いとばかりも言えないことになる。

 スポーツが持つ平和を創造できるという素晴らしい機能が今、改めて注目されており、スポーツにおける代表とは何か、スポーツは何のためにあるのかということが今一度問われている。


1 ①36か月間、ラグビーの国際試合に参加していない。
 ②選手が移動を希望する国で生まれている、または親や祖父母のうち誰かがその国で生まれている。
 ③選手は一度だけ協会を変更することができ、各ケースはワールドラグビーの承認が必要となる。

(2023年2月執筆)

執筆者

堀田 裕二ほった ゆうじ

弁護士/アスカ法律事務所パートナー

略歴・経歴

【経歴】
平成17年10月 大阪弁護士会登録 アスカ法律事務所入所
平成23年 1月 アスカ法律事務所 パートナー

公益財団法人日本スポーツ仲裁機構 スポーツ仲裁人・調停人候補者
一般社団法人奈良県サッカー協会 常務理事
OCA大阪デザイン&IT専門学校eスポーツ学科 講師
日本スポーツ法学会理事・事務局長
大阪弁護士会スポーツ・エンターテインメント法実務研究会世話役
日本スポーツ協会スポーツ少年団協力弁護士等

【主な取扱い分野】
インターネット、コンピュータに関連する法律問題
スポーツ(eスポーツ含む)・ファッションビジネスに関連する法律問題

【書籍】
「eスポーツの法律問題Q&A」 (共著・eスポーツ問題研究会編)民事法研究会
「スポーツの法律相談」 (共著・菅原哲朗・森川貞夫・浦川道太郎・望月浩一郎 監修)青林書院
「発信者情報開示請求の手引」 (共著・電子商取引問題研究会編)民事法研究会
「スポーツガバナンス実践ガイドブック」 (共著・スポーツにおけるグッドガバナンス研究会編)民事法研究会
「スポーツ界の不思議 20問20問」 (共著・桂充弘編)かもがわ出版
「Q&A スポーツの法律問題(第4版)」 (共著・スポーツ問題研究会編)民事法研究会

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