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一般2023年06月19日 オリンピックeスポーツシリーズから考える今後のeスポーツ 執筆者:堀田裕二

1 2023年6月22日から25日までの4日間にわたって、シンガポールのサンテック・シンガポール国際会議展示場において、IOCが「第1回オリンピックeスポーツウィーク」と題して「オリンピックeスポーツシリーズ2023」のファイナルを開催する。

2 そこでは、IOCが国際競技連盟やゲームパブリッシャーの協力を得て、下記10種目について競技を行う(括弧内がゲームタイトル)。

  •  ・アーチェリー(Tic Tac Bow)
  •  ・野球(WBSC eBASEBALLパワフルプロ野球)
  •  ・チェス(Chess.com)
  •  ・サイクリング(Zwift)
  •  ・ダンス(Just Dance)
  •  ・モータースポーツ(グランツーリスモ)
  •  ・セーリング(バーチャルレガッタ)
  •  ・テコンドー(バーチャルテコンドー)
  •  ・テニス(Tennis Clash)
  •  ・射撃(フォートナイト)

3 このうち、従前のいわゆるeスポーツでも用いられてきたゲームタイトルは野球(WBSC eBASEBALLパワフルプロ野球)、モータースポーツ(グランツーリスモ)、射撃(フォートナイト)がある。このうち、射撃のタイトルであるフォートナイトはeスポーツタイトルとしても非常に有名なタイトルであり、世界大会では賞金が総額30億円以上にもなるものである。ただし、フォートナイトは、敵を撃ち殺すというゲームであることから、オリンピックの精神に反するという判断からか、当初種目に入っていなかったが、その後射撃競技に特化した形でオリンピック仕様に変更されて追加で種目として選定された。
 これに対し、チェス(Chess.com)やダンス(Just Dance)はゲームタイトルとしては存在したものの、eスポーツタイトルとしてはあまり行われなかったものである。また、アーチェリー(Tic Tac Bow)やテニス(Tennis Clash)はアプリとしては存在するものの、ゲームタイトルとしてもあまり有名とはいえないものである。そして、特徴的なのは、サイクリング(Zwift)、セーリング(バーチャルレガッタ)、テコンドー(バーチャルテコンドー)で、これらはバーチャルとリアルを融合したプログラムである。

4 従前から、オリンピックにおいて、eスポーツが採用されるかは注目されてきていたが、IOCはこれに対し否定的な見解を示してきた。しかし、ここにきて採用されたゲームタイトルをみると、オリンピックにおいてeスポーツを行うとすればこのような形になるという一つの形が見えてきたように思える。
すなわち、①実際のスポーツ(リアルスポーツ)の競技団体が存在する競技であり、その競技に近い形のゲーム内容であること、②殺傷シーンやグロテスクなシーンなど、青少年には不適当な内容などが含まれないこと、③ゲーム内だけで完結するものではなく、リアルとバーチャルが融合する可能性があるものであること、がオリンピックにおけるeスポーツとして選定される基準になるように思われる。
このような形では、あくまでリアルスポーツの競技団体が各種目を取り扱うことになるため、競技内容や代表選考などもその競技団体のIF(国際統括団体)及びNF(国内統括団体)が行うことになる。

5 これに対し、今年9月に中国・杭州で開催される大会からeスポーツが正式種目(メダル競技)となる第19回アジア競技大会2022杭州大会(アジア大会)においては、下記タイトルが開催される。

  •  ・伝説対決 -Arena of Valor-(アジア競技大会バージョン)
  •  ・Dota 2
  •  ・Dream Three Kingdoms 2(梦三国2)
  •  ・EA SPORTS FIFA branded soccer games(英語版)
  •  ・ハースストーン
  •  ・League of Legends
  •  ・PUBG Mobile(アジア競技大会バージョン)
  •  ・ストリートファイターV(デモンストレーション競技として)
  •  ・AESF Robot Masters
  •  ・AESF VR Sports

6 上記のタイトルは、アジア競技大会バージョンという特別版のタイトルがあることや、デモンストレーション競技としてVRスポーツのタイトルが選ばれているなど、オリンピックeスポーツシリーズと類似する点はあるものの、ほとんどが従前のいわゆるeスポーツでも著明なタイトルであり、これらはeスポーツ競技という一つの競技内のタイトルとして、eスポーツに関する統括団体(日本であれば日本eスポーツ連合)が代表選考を行うという点で先のオリンピックeスポーツシリーズとは大きく異なる。

7 eスポーツのコアなファンからすれば、今回のオリンピックeスポーツシリーズの内容はあまり魅力的なものには映らないであろう。他方、従来のeスポーツという形を維持したままでは、IOCとしてはタイトルの内容やeスポーツ競技を一つの競技として考えるのではなく、従前のリアルスポーツと融合を図るという観点からは受け入れられないものであると思われる。まだeスポーツという概念自体も固まったとはいえないような状況において、今後、eスポーツはどのような形になっていくか、今回のオリンピックeスポーツシリーズがどこまで受け入れられるか、注目される。

(2023年6月執筆)

執筆者

堀田 裕二ほった ゆうじ

弁護士/アスカ法律事務所パートナー

略歴・経歴

【経歴】
平成17年10月 大阪弁護士会登録 アスカ法律事務所入所
平成23年 1月 アスカ法律事務所 パートナー

公益財団法人日本スポーツ仲裁機構 スポーツ仲裁人・調停人候補者
一般社団法人奈良県サッカー協会 常務理事
OCA大阪デザイン&IT専門学校eスポーツ学科 講師
日本スポーツ法学会理事・事務局長
大阪弁護士会スポーツ・エンターテインメント法実務研究会世話役
日本スポーツ協会スポーツ少年団協力弁護士等

【主な取扱い分野】
インターネット、コンピュータに関連する法律問題
スポーツ(eスポーツ含む)・ファッションビジネスに関連する法律問題

【書籍】
「eスポーツの法律問題Q&A」 (共著・eスポーツ問題研究会編)民事法研究会
「スポーツの法律相談」 (共著・菅原哲朗・森川貞夫・浦川道太郎・望月浩一郎 監修)青林書院
「発信者情報開示請求の手引」 (共著・電子商取引問題研究会編)民事法研究会
「スポーツガバナンス実践ガイドブック」 (共著・スポーツにおけるグッドガバナンス研究会編)民事法研究会
「スポーツ界の不思議 20問20問」 (共著・桂充弘編)かもがわ出版
「Q&A スポーツの法律問題(第4版)」 (共著・スポーツ問題研究会編)民事法研究会

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