人事労務2026年07月21日 入社時に説明すべき服務規律とは?労使トラブルを防ぐ実務 執筆者:岩田健一

入社時に労働条件の説明は行われても、服務規律まで十分に説明している企業は少ないのではないでしょうか。しかし、労使トラブルの多くは「聞いていなかった」「そんなルールとは知らなかった」という認識の違いから生じます。本記事では、「先に言えば説明、あとで言えば言い訳」という考え方を軸に、服務規律を入社時に説明する重要性を、法律と実務の両面から解説します。
入社時に服務規律を説明する重要性
労働条件通知書には、賃金や労働時間などの労働条件が記載されます。一方で、日々の働き方のルールである服務規律については、就業規則を渡すだけで十分な説明が行われていないケースも見受けられます。
服務規律とは、従業員が業務を遂行するうえで守るべき行動規範です。企業秩序を維持し、円滑な業務運営を実現するためのルールであり、就業規則に定められることが一般的です。
法律上、服務規律を作成する義務はありません。しかし、厚生労働省モデル就業規則でも、職場秩序を維持するために定めるべき事項とされています。
また、労働契約法第4条は、使用者が労働条件について労働者の理解を深めるよう努めることを求めています。この規定は努力義務ですが、実務では「会社がどの程度丁寧に説明したか」が紛争時の重要な判断材料になります。
その意味で、「先に言えば説明、あとで言えば言い訳」という考え方は、入社時説明の重要性を端的に表しています。
服務規律は労働契約を具体化するルール
服務規律は、会社が一方的に従業員を縛るためのものではありません。
労働契約では、会社は賃金を支払い、従業員は労務を提供するという双務契約を結びます。そして、労働契約法第3条は、労使双方が信義誠実に権利を行使し義務を履行することを求めています。
服務規律は、この労働契約上の義務を具体化したものです。
代表的なものとして、次のような規律があります。
• 労務提供義務
• 業務命令遵守義務
• 職務専念義務
• 秘密保持義務
• 信用保持義務
• 競業避止義務
これらを入社時に説明しておくことで、「知らなかった」という認識違いによる労使トラブルを未然に防ぐことができます。
特に説明しておきたい職務専念義務
職務専念義務とは、就業時間中は職務に専念し、本来の業務と関係のない行為を行わない義務です。
国家公務員法第101条では、公務員に対して勤務時間中は職務遂行のために注意力のすべてを用いることを求めています。
もっとも、この規定を民間企業へそのまま適用することはできません。
しかし、「勤務時間中は業務に専念する」という考え方自体は、民間企業でも労働契約上の義務として判例上認められています。
そのため、入社時には、勤務時間中の私用行為や私的なスマートフォン利用などについて、自社のルールを具体的に説明しておくことが重要です。
「勝手な残業」はどう考えるべきか
法律上、労働者は原則として使用者の業務命令の下で労働するものであり、時間外労働に当たるかどうかは、使用者の指揮命令の有無など実態によって判断されます。
裏を返せば、「従業員には業務命令に従い働く義務はあるが、会社の指示なく勝手に働く権利はない」ということだと解釈することができます。
最高裁は、労働時間とは「使用者の指揮命令下に置かれている時間」であると判断しています。そのため、会社が残業を黙認していれば、明示的な命令がなくても労働時間と認められ、賃金の支払いが必要となる場合があります。
したがって、時間外労働については、「残業は、上司の命令があった場合、または、事前に申請し承認を受けた場合のみ可能とする。」旨を入社時に説明し、従業員が勝手に残業しないように、運用ルールを明確にして、ルール通り運用しておくことが重要です。
ただし、「黙示の業務命令があった」と解されないように、部下に与える業務量等に注意しておくことが必要です。
入社時に会社が伝えるべきポイント
服務規律を説明する際は、就業規則を配布するだけでは十分とはいえません。
少なくとも次の点は、口頭で説明し、必要に応じて書面でも確認しておくことが望まれます。
• 契約した職務内容と労務提供義務
• 業務命令に従う義務
• 就業時間中の職務専念義務
• 秘密保持の対象と退職後も継続すること
• 業務外であっても会社の信用を失墜するような行為をしてはいけないこと
• 残業の手続や承認方法
これらを、具体例を交えながら説明することで、従業員の理解が深まり、後日の認識違いを防ぎやすくなります。
まとめ
服務規律は、就業規則に記載するだけでは十分とはいえません。
労使トラブルの多くは、「説明したつもり」と「聞いていない」という認識のずれから生じます。だからこそ、入社時に服務規律の内容を丁寧に説明し、従業員に理解してもらうことが重要です。
労働契約法第4条が求める説明の考え方を踏まえれば、「先に言えば説明、あとで言えば言い訳」という姿勢は、企業の労務管理において極めて実践的な考え方といえるでしょう。
服務規律は会社が従業員を縛るためのルールではなく、お互いが安心して働くための約束事であるという視点を共有することが、健全な職場づくりの第一歩となります。
免責事項: 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的アドバイスではありません。具体的なケースについては、社会保険労務士または弁護士にご相談ください。
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(2026年7月執筆)
(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)
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執筆者

岩田 健一
組織開発コンサルタント・キャッシュフローコーチ・社会保険労務士(お金と人事のコンサルティング岩田事務所 代表)
略歴・経歴
心理学科卒・信用金庫職員・調剤薬局経理職を経て2014年8月開業。
答えを教えず答えを引き出すコーチングをベースとした社長相談で、納得の経営判断をサポートする。
クライアントの悩みに合わせて相談に応じるため、相談で取り扱うテーマは、経営理念の見直し、目的目標の明確化、事業戦略の整理、責任分担(組織図)の明確化、従業員のキャリアパスの明確化、理想人材像の明確化、サクセッションプラン、人事制度の明確化、部下との関わり方など、多岐にわたる。
必要に応じて組織診断、人材診断、社員研修、ミーティングの進行役なども行う。
「面倒見の良さ」「相手の話を心から聴く力」「難しいことを分かりやすく説明する力」「あれもこれも相談できる知識の広さ」に定評がある。
人生理念
「誠実・他社貢献・自然体」
ミッション
「会社の成長と社員の幸せの両立を実現し、笑顔あふれるつながり作りに貢献する。」
バリュー
「真の悩みに寄り添い、安心を与えるコンサルティング」
保有資格は特定社会保険労務士・CFP・1級FP技能士など多数。
経営に役立つ365日毎日ブログを3500日(9年7か月)以上継続している。
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