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福祉・保健2021年02月03日 「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」が公表されました。 執筆者:亀井真紀

 成年後見制度利用促進基本計画を受けて、2020年10月30日に「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」及び各種アセスメントシートが策定され、日弁連、最高裁、厚生労働省、リーガルサポート、日本社会福祉士会の各ホームページで同時公表されました。
 その内容は、意思決定支援における後見人等の役割と基本原則、意思決定支援の方法やプロセス、本人の意思決定や意思確認が困難な場合の後見人等の役割、意思が引き出せた(又は推定できた)場合でもそれが本人にとって見過ごすことができない重大な影響が懸念される局面でどうするか、代行決定を行う場面、行う方法などです。
 基本的かつ特徴的な考えは、①意思決定支援は後見人等が単独で行うものではなくチームで行うという前提に立っていること、②後見人の役割はチーム編成やチーム機能のチェック等が主であり常に後見人が意思決定支援の主導的・中心的立場にあるわけではないこと、③何人であっても意思決定能力は「ある」という前提に立っており、結果的に意思確認ができない場合でもそれは本人の能力の限界というよりは、意思を引き出す支援者(後見人等の含まれる)側の限界ととらえていること、④代行決定は本人の意思がどうしても引き出せずまた意思推定すらできない場合の最後の手段であること、⑤代行決定を行う場面でも本人にとっての利益を最大限に考えることなどです。
 そもそも民法858条、876条の5第1項、876条の10第1項において、後見人等が本人の意思を尊重し、その心身の状態及び生活の状況に配慮することが求められており、当初から、「自己決定権の尊重」は現有能力の活用と並び重要な理念のひとつとされてきました。
 ただ、あえてこれを声高に宣言し、今とり上げなければならないというのは、20年近くの後見実務において、この理念が必ずしも実践されていなかったという深刻な実態があるからに他なりません。
 後見類型のうち、保佐・補助の場合は、代理権の付与など元々本人の同意を得る必要があることから、本人意思を確認する頻度は自然に多くなっているかもしれません。一方、後見はどうでしょうか。包括的な代理権限が最初から当然にあるが故に、重要な財産の処分、生活環境調整、日常的な細々としたもの・・本人の意向を確認、その努力をすることもなく決めてしまっている傾向は否定できません。勿論、後見等の開始がされている状態なので、コミュニケーションは容易でないこともあります。しかし、残存能力の程度は人によって様々であり、日によっても異なり得ます。コミュニケーションをとることの工夫・努力を最初から放棄してしまっていることが問題なのです。
 これでは、利用者がメリットを実感できるはずもありません。
 そこで、基本計画は、意思決定支援の在り方についての指針の策定に向けた検討が進められるべきことを明記し、ガイドライン策定に至ったというわけです。
 今後の課題としては、このガイドラインが現場において「活用」されることです。そのため、厚生労働省は、後見人等向けの意思決定支援研修の全国的実施を既に始めています。研修の対象者は専門職ばかりではありません。意思決定支援のためのチーム作りには中核機関の支援が必要とされているため、その職員もガイドラインの理解が必須とされています。自治体や社会福祉協議会に求められる役割は大きく、現実的にどこまで担えるか、担っていくためにはどうしたらいいかという課題があります。
 また、後見人による意思決定支援を実効性あるものにするためには、家庭裁判所によるチェックは不可欠であり、後見事務報告、報酬付与申立等を通じて監督できる仕組みづくりも重要です。
 このように見ていくと、後見人等、中核機関の職員、家庭裁判所の負担は益々重くなり大変です。しかし、自分や家族が被後見人等になった時に、知らないところで一方的に重要な意思決定がなされるのであればそれはもはや恐怖でしかありません。安心して利用できる制度のためにも関係者の意識改革と今一度の努力が求められています。

(2021年1月執筆)

執筆者

亀井 真紀かめい まき

弁護士

略歴・経歴

第二東京弁護士会所属。
平成13年弁護士登録。北海道の紋別ひまわり基金法律事務所(公設事務所)に赴任。
その後、渋谷の桜丘法律事務所(現事務所)に戻り現在に至る。
第二東京弁護士会高齢者・障がい者総合支援センター委員会、日弁連高齢者・障害者権利支援センター委員会等所属。
一般民事・家事、刑事事件のほか、成年後見、ホームロイヤー契約等高齢者、障がい者の事件を多く担当する。

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