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相続・遺言2021年06月10日 特別代理人とは 執筆者:亀井真紀

 特別代理人という言葉を知っている人はあまりいないかもしれません。ただ、ものすごく特別な場合にしか出てこないものかというと必ずしもそうではありません。
 典型例は、親権者である父又は母が、その子との間で遺産分割を行う場合です。
 例えば、父母子(未成年者)の家族において、父が亡くなった場合、父の財産について遺言がなければ、母と子との間で遺産分割協議をする必要があります。母は子の親権者なので法定代理人として、一般的には法律行為を代理する権限を持っています。しかしながら、この遺産分割の局面においては、母も相続人のひとり、すなわち当事者であるので同じく相続人である子と利益が相反する場合にあたり、代理することはできないのです。
 趣旨としては、親権者である母が子を代理した場合、子の利益ではなく母自身の利益を優先させてしまう可能性があるところ、それを法律的に認めないということにあります。とはいえ、必ずしも母にそういう意図があるとか、母子の間で実質的に遺産に関して争いが生じている場合でなくても同様に特別代理人が必要とされます。形式的に判断するわけです。
 では、このような場合、具体的にはどうすればいいのかというと、民法上は、親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならないとされています(民法826条)。
 すなわち、仮に身近に子の代理人になってくれる人(例えば叔父とか叔母とか)がいたとしても事実上その方を特別代理人として扱っていいわけではなく、家庭裁判所に請求申立てをして正式に選任してもらう必要があります。このような手続きを経ずに遺産分割協議を進め、協議書を作成したとしても無効になってしまいますので注意が必要です。
 実は、特別代理人を必要とするのは未成年者の子が遺産分割協議の当事者の場合だけではありません。認知症等で判断能力が低下してしまった成人の場合にも特別代理人を選任することがあります。勿論、「判断能力が低下」といってもその程度や状況は様々です。要するに自身が相続人であることや遺産分割協議について理解する能力があるか否かがポイントであり、実際には医師に判断を仰ぎ、やはり協議に加わることができないようであれば後見人等を選任する必要があります。この場合、相続人以外の者が後見人等になれば、後見人等が代理して遺産分割協議を行うことになりますが、相続人が後見人等になった場合はやはり利益相反の問題が生じます。そこで、民法では、成年後見人と成年被後見人との利益が相反する行為については後見監督人がいる場合を除きその被後見人のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならないとされています(民法826条、860条)。
 つまり、成年後見等が開始されている場合で、成年後見人等と被後見人等がともに相続人である場合は、後見監督人を選任するパターンだけではなく、当該遺産分割協議のためだけに一時的に特別代理人を選任するパターンがあるということです。
 後見業務を比較的多く担う筆者としては、前者のパターンにおいて後見監督人として遺産分割協議に加わり、法定代理をすることは何度か経験をしています。
 一方、上記の通り、民法は成年後見が開始され、後見人等がいる場合、その者が被後見人等と利益相反の関係の状況にあっても、必ずしも後見監督人を選任せずとも一時的な特別代理人選任をする場合も想定しているのです。どういう場合にどちらのパターンになっているかという基準は分かりませんが、各家庭裁判所の運用状況及びケースバイケースの判断に委ねられているものと思われます。おそらく、一時的に特別代理人さえつければその後も含め被後見人等の不利益になることはない場合は監督人の選任までしないが、例えば遺産分割協議以外においても後見人を監督、支援する必要があるような場合には監督人を選任しているものと思われます。
 今後の高齢化社会では、このような局面は益々増えていくものと思われます。相続はどの家庭でも発生するものですので、できれば知っておきたい知識として今回は取り上げました。

(2021年5月執筆)

執筆者

亀井 真紀かめい まき

弁護士

略歴・経歴

第二東京弁護士会所属。
平成13年弁護士登録。北海道の紋別ひまわり基金法律事務所(公設事務所)に赴任。
その後、渋谷の桜丘法律事務所(現事務所)に戻り現在に至る。
第二東京弁護士会高齢者・障がい者総合支援センター委員会、日弁連高齢者・障害者権利支援センター委員会等所属。
一般民事・家事、刑事事件のほか、成年後見、ホームロイヤー契約等高齢者、障がい者の事件を多く担当する。

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