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契約2020年10月05日 ホームロイヤー ~弁護士による見守り契約~ 執筆者:亀井真紀

 ここ数年の間で「ホームロイヤー契約」を行う弁護士が増えています。
 裏を返せばホームロイヤーを弁護士に依頼する方が増えているということだと思います。
 「ホームロイヤー」とは法律用語ではありません。また英語でもありません。和製英語です。
 仮に英訳するとすればFamiliylawer とかPersonallawer となるようです。
 つまり必ずしも正確な定義があるわけではありませんが、大体において、個人の顧問弁護士、かかりつけ医のような存在、主に高齢者や障がいを持つ方のために日常生活や財産のアドバイスを行う存在という説明がされることが多いです。会社において顧問弁護士を抱えることが多いところ、その場合は事業取引や労務についての法律問題のアドバイスを行いますが、個人の方の場合には、自身の日常生活全般の不安を解消することが特徴です。
 とはいえ、具体的に何をしてもらえるの?と疑問に持つ方も多いと思います。
 私が所属する第二東京弁護士会は、会としてホームロイヤーの制度を立ち上げ、研修を受けた弁護士らが多くの受任に至っています。いくつかの事例を多少編集した上でご紹介します。
ケースその1
 妻に先立たれたおひとり暮らしの80代の男性。子どもはいますが海外に住んでおり、頼るのは難しい状況です。病院に入院したことをきっかけに急な発作などが不安になり自宅に戻ることが不安になったとのことです。ただ、施設に入るにしてもどういうところがよいか、また身元引受人や身元保証人が必要と言われています。将来、認知症になった時の財産管理なども心配です。
 ⇒ 病院の相談員の方が弁護士会のホームロイヤー制度のリーフレットをお渡しし、弁護士による見守り契約を勧めて弁護士と面談。数回お話し、1か月に少なくとも1度、電話又は面談でご相談にのるという見守り契約をしました。当面の課題として施設探し(選択肢の提示、見学の手配、同伴など)を行い、将来的には財産管理の依頼、任意後見契約も検討していくことになりました。施設入居時には弁護士が緊急連絡先としての身元引受人になる予定です。
ケースその2
 姉妹で暮らしている70代お二人。それぞれ疾患があり、通院をしています。お二人ともしっかりしていますがそれ故に将来どちらか、又はともに介護が必要になった時、そして何よりもひとりになった時に死後事務や日常生活ができるか不安になってしまっています。
 ⇒ お二人についてともに定期的に会う見守り契約と任意後見契約を締結することにしました。また、互いに自身の財産を亡くなった時は相続させるという遺言書の作成も任意後見契約とともに公証役場で行いました。弁護士が遺言執行者にもなりました。見守り契約の中で数か月の間、面談を繰り返し、任意後見契約について十分な理解納得、遺言書作成について熟慮した結果、ここに至りました。今後も定期的に弁護士と会って日々の生活の不安について相談していく予定です。
ケースその3
 おひとり暮らしの60代の女性。配偶者、子どもはおらず、自分の財産はいずれ団体に寄付したいと考えています。また、遠方にある田舎のお墓を閉じて、都心のお寺に納骨、永代供養してもらう生前契約をしましたが、いざ亡くなった時の葬儀、死後事務、また契約をしたお寺にもお骨を誰が持参したらいいのか悩んでいます。食事や旅行をともにする親しい友人はいますが皆同じ年代であり、ともに衰えていくので死後のことなどをお願いすることはできません。また、以前病院に入院した際に、万が一の時の延命措置の希望などを色々質問され、とても悩みました。
 ⇒ 弁護士に相談し、公証役場で遺言書を作成するとともに死後事務委任契約も締結することにしました。死後事務委任契約では、亡くなった時の友人らへの連絡、葬儀、納骨、諸々行政の手続き、各種日常の取引(光熱費、カード、インターネット等)の解約などを盛り込みました。個人情報の流出がないように配慮してもらうことにもしました。また、遺言執行者として不動産、動産類の処分等もお願いすることにしました。終末医療については、まだ悩むことがあり、引き続き検討し、可能なところからリビングノートに書き残し、提供していくことになりました。万が一の時に備えて、適宜更新版を弁護士に渡していく予定です。
 これらは、それぞれ契約内容、委任事項、委任に至る経緯等、様々ですが、総称してホームロイヤーの仕事といってよいでしょう。特徴は、必ずしも一度に全てを依頼するわけではなく、最初は相談を繰り返す見守り契約から始めて、任意後見契約や遺言書作成、遺言執行者の依頼等に発展していくケースが比較的多いという点です。当事者の立場からすれば、いくら弁護士といえども自身の人生に関わる重大なことを本当に委ねて大丈夫なのか、また難しい用語の多い契約について理解できているのか不安になるのは当然のことです。しっかりしている段階だからこそ、じっくり検討していくプロセスは、本人の意思尊重の観点からとても重要です。
 上記のケースはまだまだ一部の例に過ぎません。基本的に判断能力が低下してから利用する法定後見(成年後見、保佐、補助)とは異なり、ホームロイヤー契約のいいところはご本人の希望で諸々カスタマイズしていくことができる点です。人生を最後まで自身の納得のいく形で全うするためのツールのひとつとして弁護士の活用を考えて頂ければ幸いです。
(2020年9月執筆)

執筆者

亀井 真紀かめい まき

弁護士

略歴・経歴

第二東京弁護士会所属。
平成13年弁護士登録。北海道の紋別ひまわり基金法律事務所(公設事務所)に赴任。
その後、渋谷の桜丘法律事務所(現事務所)に戻り現在に至る。
第二東京弁護士会高齢者・障がい者総合支援センター委員会、日弁連高齢者・障害者権利支援センター委員会等所属。
一般民事・家事、刑事事件のほか、成年後見、ホームロイヤー契約等高齢者、障がい者の事件を多く担当する。

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