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民事2020年02月18日 後見人による意思決定支援 執筆者:亀井真紀

 2017年に成年後見制度利用促進基本計画(以下「基本計画」という)が内閣府により策定され、もうすぐ丸3年目を迎えようとしています。5か年計画なので、ちょうど中間年でもあり、各地での中核機関設置の動きが進む等様々な面で変化が見え始めています。

 その中でもホットだなと思うのは後見人に求められる意思決定支援です。後見人等に就任した者が、本人の意思決定支援を行い、後見人等が後見事務を行うにあたって、何を求められているかを適切に把握していこうというものです。基本計画の中でも、後見人等が本人の特性に応じた適切な配慮を行うことができるよう、意思決定支援の在り方についての指針の策定に向けた検討が進められるべきとされています。

 そのため、既に、障害福祉サービスの利用等にあたっての意思決定支援ガイドライン(厚生労働省)、認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(厚生労働省)、 意思決定支援を踏まえた成年後見人等の事務に関するガイドライン(大阪意思決定支援研究会)、成年後見人等の意思決定支援に関するガイドライン(岡山弁護士会)が既に発表されており、実務の間でも関心を呼んでいます。

 もっとも、ふと考えると本人の意思尊重は、元々後見制度の基本理念のひとつであり、前提として意思を引き出す努力をするのは当たり前過ぎることともいえます。成年後見制度が発足し20年になろうとする今、何を今さらと言われてもおかしくありません。実際、民法でも、発足当初から成年後見人等は本人の「生活、療養監護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない」(858条)と規定されているところです。

 では何故、わざわざ基本計画で指針が求められているのか、最近になりホットなのか?といえば、いうまでもなく実際の現場では多くの場合に本人の意思がないがしろにされてきたという現実とそれに対する猛省があるからです。

 例えば、本人の介護計画を立てる際に、後見人、福祉関係者が集まって話し合うという場面はよくありますが、そこに本人がいない、またいたとしても会話しているのは本人以外の者であって本人にどうしたいかを問うことすらほとんどしない・・ということがありました。その前提として、後見人含めて本人をとりまく関係者の中でも、認知症その他障害がある方に色々問うても理解できない、質問の意味が分かったとしても合理的な判断はできないだろうと決めつけてしまっていた可能性があります。

 確かに、後見等の開始がされているということは判断能力が十分ではないということでもあり、実際なかなか意思を確認することが容易ではないことも多々あります。しかし、容易ではない、難しいということはイコール本人の意思決定をする能力がないということではないことを、私達専門職含めて後見業務に関わる者は肝に銘じなければなりません。誰しもが自分の生活環境、これを密接不可分であるお金の使い方等について、こうしたい又はしたくないという考えを持つことができるはずです。意思決定能力があることが出発点なのです。仮に、ある課題(例えば住まいの問題など)について漠然としたものしかなかったとしても、関係者が本人に何故それを考える必要があるのかを説明し、意思決定を促す(意思形成支援)ことが必要です。その上でその意思を示してもらう(意思表明支援)努力も必要です。これらの過程を適切に行うには、とても労力と時間がかかる上に、経験やスキルも求められます。私自身、多くの被後見人等の方と接する中でどういったコミュニケーションをとれば本人に課題の重要性を理解してもらい、また意思を上手に引き出せるか、常に悩んでいるところです。ただ、この過程をひとりで背負う必要はありません。本人をとりまく親族や福祉関係者等と連携して行っていくことが重要でありむしろ求められていることでもあります。後見人は様々な権限を持っていますが、決して万能なスーパーマンではありません。謙虚な姿勢も重要です。

 大事なのは、課題が生じた時だけではなく、就任直後、また時にはその前から、本人は勿論、支援者達とコミュニケーションをとり、本人の特性を知るとともに、関係者で信頼関係を構築することです。それにより、それぞれの専門性を高め合い、足りないところを補充し合えることになります。

 基本計画の議論では、本人を見守る「チーム」、「協力体制」、「地域連携ネットワーク」などがキーワードでよく出てきますが、意思決定支援の場面でもまさにこれらが求められているといえます。

(2020年1月執筆)

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執筆者

亀井 真紀かめい まき

弁護士

略歴・経歴

第二東京弁護士会所属。
平成13年弁護士登録。北海道の紋別ひまわり基金法律事務所(公設事務所)に赴任。
その後、渋谷の桜丘法律事務所(現事務所)に戻り現在に至る。
第二東京弁護士会高齢者・障がい者総合支援センター委員会、日弁連高齢者・障害者権利支援センター委員会等所属。
一般民事・家事、刑事事件のほか、成年後見、ホームロイヤー契約等高齢者、障がい者の事件を多く担当する。

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