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家族2021年08月27日 再び合憲 夫婦別姓 最高裁判決 執筆者:矢吹遼子

 令和3年6月、最高裁判所は、再び、夫婦同氏制を定める民法750条の規定を合憲と判断しました。個人の雑感として、多数意見は予想していた内容でした。しかし、ここ数年の世論の高まりもあり、もしかすると、と淡い期待も抱いていました。今回の判決理由は、「民法750条の規定が憲法24条に違反するものでないことは、平成27年の大法廷判決の趣旨に徴して明らか」と述べ、非常に簡素な内容になっています。一方で、補足意見、意見、反対意見が詳細に述べられており、今回の判決の意義はむしろこちらにあると言っても良いくらい示唆に富んだ意見になっています。
 なお、選択的夫婦別姓問題は、その性質上、単なる法的な評価の問題だけではなく、政治的なイデオロギーの対立という側面を含み、本稿は選択的夫婦別姓に賛同する立場からの意見であることを予め述べておきます。

 本件の判決は15名の裁判官のうち、11名が合憲、4名が違憲と判断しました。合憲派11名のうち、3名は多数意見への「補足意見」を付しています。違憲派4名のうち、1名は結論においては多数意見と同じと考えて「意見」を付し、3名は「反対意見」を述べています。
 多数意見と違憲派の意見の相違点の一つは、夫婦同氏という制度が婚姻に対する直接的な制約になっているかどうかという点です。補足意見は、民法739条1項の届出婚主義や戸籍法74条1号の婚姻後に夫婦が称する氏を婚姻届の必要的記載事項としていることを挙げ、夫婦同氏は法律婚の内容及び成立の仕組みとして組み込まれているものであり、「婚姻の効力から導かれた間接的な制約と評すべき」としています。
 しかし、果たしてそうでしょうか。婚姻はしたいが、そのためにはアイデンティティの本質と言ってもよい自身の氏を変える必要がある。自身の氏を変えない限りは婚姻できないという事態が、「間接的な制約」なのか。上記はあまりに技巧的な評価手法ではないかと思わざるを得ません。
 「反対意見」を述べた宮崎裕子裁判官、宇賀克也裁判官、「意見」を述べた三浦守裁判官は、氏に関する人格的利益の重要性について詳細に論じています。そして、夫婦同氏制は、婚姻をするについての意思決定と同時に、人格的利益の喪失を受け入れる意思決定を求めることであるから、婚姻についての意思決定が自由かつ平等な意思決定であるとは到底いえない旨述べています。三浦裁判官の意見から引用すると、「婚姻の際に氏の変更を望まない当事者にとって、その氏の維持に係る人格的利益を放棄しなければ婚姻をすることができないことは、法制度の内容に意に沿わないところがあるか否かの問題ではなく、重要な法的利益を失うか否かの問題である。これは、婚姻をするかどうかについての自由な意思決定を制約するといわざるを得ない。この制約は、法律上の要件により、夫婦が称する氏を定めない婚姻の成立を否定するものであって、夫婦同氏制が意図する直接的な制約といってよい」。まさにそのとおりだと思います。

 相違点の二つ目は、国会の立法裁量をどこまで認めるかという点です。補足意見は、平成27年大法廷判決以降の女性の有業率の上昇、共働き世帯数の増加、選択的夫婦別氏制の導入についての国民の意識の変化についても触れながら、しかし、「夫婦の氏に関する法制度の構築は、子の氏や戸籍の編製の在り方等を規律する関連制度の構築を含め、国会の合理的な立法裁量に委ねられているのである。」と述べ、国会の広範な立法裁量を尊重しています。
 一方、違憲派は、このような広範な立法裁量を認めていません。三浦裁判官は、婚姻の自由を「個人の尊厳に基礎を置き、当事者の自律的な意思決定に対する不合理な制約を許さないことを中核とする」ものとして、これに対する制約の合理性の問題は、憲法上の保障に関する法的な問題であり、「民主主義的なプロセスに委ねるのがふさわしいというべき問題ではない。」と述べています。宮崎、宇賀裁判官も公共の福祉の観点から合理性があるならば、不当な国家介入とはいえないという表現をしています。その上で、いずれの裁判官も、家族形態の多様化をキーワードに、違憲の判断を導いています。
 家族の制度に関する問題は、本来国会で議論すべきこと、というのは一般論としてはそうでしょう。ただ、多数意見と、違憲派の違いは、どれだけ個人の権利に目を向けているかというところにあります。単に選択的夫婦別姓に賛成か反対かという制度設計の議論ではなく、氏を変更しなければ婚姻ができないという婚姻の自由に対する侵害について救済を求めている人たちが実際にいるということが議論の出発点ではないでしょうか。そして、婚姻前の氏というアイデンティティを持ち続けることも婚姻の自由も最大限に保障されるべきではないか、いずれかを諦めなければならない夫婦同氏制は不当な制約ではないかというのがあるべき判断の道筋だと思います。三浦裁判官の意見は、家族の一体性への考慮や、通称使用による不利益の緩和等、選択的夫婦別姓反対派の主張について触れ、夫婦同氏制の定着の歴史的な経緯や国際的な動向についても敷衍し、非常に説得的です。また、「夫婦同氏制の『定着』は、こうして、それぞれの時代に、少なくない個人の痛みの上に成り立ってきたということもできる。」「夫婦同氏制は、現実の問題として、明らかに女性に不利益を与える効果を伴っており、」等述べておられ、従前十分な権利保護がなされてこなかった者に目を向けた温かみのある意見だと感じました。
 補足意見も、立法裁量の問題と単純に切り捨てているわけではなく、最後に「国会において、この問題をめぐる国民の様々な意見や社会の状況の変化等を十分に踏まえた真摯な議論がされることを期待するものである。」と結んでおり、遅々として議論が進まない国会の態度を暗に批判しているようにも読めます。

 冒頭でも述べたように、夫婦別姓問題はイデオロギーの問題を含むことが不可避であり、判断する裁判官が誰かという偶然に左右されるところも少なくないように思います。ただ、今回の判決は、丁寧に論じられた違憲派の意見が説得的だと感じました。国民の間で議論が進み、判決に対しても批判が加えられるようになれば、違憲判決が出る日もそう遠くないように思います。

(2021年8月執筆)

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執筆者

矢吹 遼子やぶき りょうこ

弁護士(弁護士法人 本町国際綜合法律事務所)

略歴・経歴

平成21年弁護士登録(大阪弁護士会)。
弁護士法人 本町国際綜合法律事務所所属。
CEDR(Centre for Effective Dispute Resolution)の認可調停人。
契約書(和文・英文)のリーガルチェックや作成等の国際案件、一般民事、家事事件を多く担当する。
薬害肝炎訴訟、全国B型肝炎訴訟、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)薬害訴訟にも参加。

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