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契約2023年01月27日 契約書に対する認識(英文契約書(1)) 執筆者:矢吹遼子

 海外取引の契約書をレビューさせて頂くことがよくある。
 日本企業から提示している契約書はまず薄い。雛形をほとんど変えずに使用しているのではないかと思われるものもあるし、入るべき条項が入っていなかったり、文言が不明確であったりということもよくある。つい先日も、「契約当事者の力関係が一見ほぼ対等に見えるのに、どうして管轄と準拠法だけこんなに不利になっているのだろう」という契約書や、「十分起こりうる債務不履行形態なのに、どうして違約金条項がこんなに不明確なんだろう」という契約書に遭遇した。
 一方で、外国企業から提案される契約書は、通常、分量が厚く、字も細かい。これをきちんと読むのは大変だ、と十分な検討もせず署名してしまうのも理解はできる。中身も、これでもかというくらい日本企業に責任が押し付けられていたり、そんな事態が起こりうるだろうかと首をかしげたくなるような事態にまで言及していたり、それが英文契約書独特の表現も相俟って、なかなか読み進めにくいものではある。

 これは、契約の背景にある日本法と英米法の違い、そして、企業文化の違いによるものである。日本企業はしっかりした法務部がある大企業を除き、契約書をさほど重視していない。これは、これから海外企業と取引を始めるという希望溢れるときに、紛争という事態を想定したくないという日本の企業文化によるものかと思われる。日本企業同士の契約書では、通常、最後に、誠実協議条項(紛争が起きた場合には、誠実に協議して解決しましょうという条項)が入っているが、これは日本企業のスタンスをよく示したものである。
 一方で、外国企業は、紛争が起こった場合に、誠実に協議し、互いに譲歩して解決するなどということは想定していない。不明確な文言で訴訟になると弁護士費用も高い。英米法には、Parol Evidence Ruleと呼ばれる法則があり、契約書をもって最終的に合意に至った場合には、その契約書と矛盾する以前のやり取りは全て排除される。だからこそ、あらゆるリスクを想定し、それに備えて契約書に微に入り細に入り書き込んでおく。

 今はAIで契約書のレビューができるようになっており、導入している企業も増えているようであるが、これのみに頼るのは賛同できない。契約書のレビューというのは、想像力を最大限に働かせる業務である。会社の業種、提供するサービスや物、その他取引の実態に照らし、どんな争いが起こりうるかをとことん考え尽くす。AIは、業種に応じてある程度定型化されたリスクを提示することはできても、その会社特有に起こりうる紛争を想起することまではできない。そこはやはり弁護士の仕事である。
 そうは言っても、紛争が起こってもいないのに、契約を締結する度、安くない手数料を支払って弁護士にレビューを依頼するというのは二の足を踏まれるであろう。その結果、弁護士である私たちは、紛争ぼっ発後に契約書を拝見して、「締結する前に来てもらえていたならば・・」とやるせない気持ちになるのである。

(2023年1月執筆)

執筆者

矢吹 遼子やぶき りょうこ

弁護士(弁護士法人 本町国際綜合法律事務所)

略歴・経歴

平成21年弁護士登録(大阪弁護士会)。
弁護士法人 本町国際綜合法律事務所所属。
CEDR(Centre for Effective Dispute Resolution)の認可調停人。
契約書(和文・英文)のリーガルチェックや作成等の国際案件、一般民事、家事事件を多く担当する。
薬害肝炎訴訟、全国B型肝炎訴訟、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)薬害訴訟にも参加。

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