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人事労務2022年06月07日 男性の育休取得は広がるか 執筆者:矢吹遼子

 令和3年6月に育児介護休業法が改正され、本年4月1日から段階的に施行されています。改正の内容は、厚生労働省のHPで細部にわたって記載されていますので、詳細には立ち入りませんが、感想を述べたいと思います。

 今回の改正のメインは、男性の育休取得の促進です。「産後パパ育休」(出生時育児休業)を創設し、育休を取得しやすい雇用環境の整備義務が事業主に課されています。

 私は、今回の改正は、制度としてはよくできていると感じました。例えば、産後パパ育休の申出期限は、原則として休業の2週間前までとされていますが、例外的に1か月前にすることも可能です。しかし、その例外要件をクリアするには、育休を取得しやすい雇用環境の整備を具体的に労使協定で定めた上で、実施する必要があり、これは詳細をご確認頂ければお分かりになると思いますが、結構厳しい要件です(改正法9条の3第3~5項、規則21条の7)。休業中の就業に関しても、労使協定を締結している場合に限り、労働者が合意した範囲で可能となっています。労使協定で締結してしまえば何でもありになるのではと思いきや、就業可能日や時間については細かい制限があり、形だけのものになることはそれなりに防がれています(改正法9条の5第2~5項)。

 男性の育休は制度としては、さほど悪くない、むしろ良いと思うのです。ですが、厚生労働省の雇用均等基本調査(2020年)によると、女性の育休取得は81.6%であるのに対し、男性はわずか12.7%。2019年が7.5%でしたので、伸びてはいるのですが、それでもまだ約1割。しかも、このうち28.3%は育休期間が5日未満だったそうです。「未満」ということは1、2日ということもあるということですね。制度が整っていても、あまりにも育休取得率が低い日本。

 周囲の男性から話を聞いていて思うのは、やはり、制度設計云々よりも、大半の企業では、育休を取得できる風土が醸成されていないということです。トップ自身が育休を取得するような会社であれば、それは社員に伝染して、育休取得率も高くなるでしょう。ただ、帝国データバンクによると、日本の社長の年齢は、年々高齢化しており、2021年12月時点の全国の社長の平均年齢は60.3歳。年齢が全てではありませんが、トップダウンで男性の育休促進を進めるのは限界があるように思います。そうなると物が言える社員が、率先して育休を取り、横に縦に育休取得を促進していくというボトムアップでいくしかないのでしょう。一人でも多くの男性社員に育休を取ってもらうという地道な草の根運動です。

 翻って、弁護士業界はどうなのか。弁護士は自営業が多く、その場合は法律上の産休・育休の対象にはなりません。ですが、私自身が実際にどれだけ休めたかという観点から考えると、事務所の規模の問題や、依頼者との関係性、事件の継続性から、しっかり休んで育児に専念するというマインドになかなかなれませんでした。組織に属する男性ならなおさらだろうと思うと、複雑な胸中にはなります。

 いっそのことフランスのように父親の育休取得を義務づけるというのも一案ではと思うのですが、育休取得率が極めて低い日本で、あまりにもドラスティックなことをするとかえってうまくいかなくなるのでしょうね。同年代の男性には、育児の大変さ、それを超える、子どもの成長にずっと関わることができる喜びを伝えて、草の根活動に貢献していきたいと思います。

(2022年5月執筆)

記事の元となった書籍

執筆者

矢吹 遼子やぶき りょうこ

弁護士(弁護士法人 本町国際綜合法律事務所)

略歴・経歴

平成21年弁護士登録(大阪弁護士会)。
弁護士法人 本町国際綜合法律事務所所属。
CEDR(Centre for Effective Dispute Resolution)の認可調停人。
契約書(和文・英文)のリーガルチェックや作成等の国際案件、一般民事、家事事件を多く担当する。
薬害肝炎訴訟、全国B型肝炎訴訟、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)薬害訴訟にも参加。

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