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契約2023年10月13日 英文契約書特有の英語(英文契約書(2)) 執筆者:矢吹遼子

 英文契約書を読み解くには、英語と法律の双方を理解している必要がある。英語が理解できても、英米法の法律の考え方が前提としてないと心許ないであろうし、英米法の考え方を理解していても、英文契約書特有の英語の使い方に慣れていないと、全文を読むには時間もかかり、意味を捉え違える可能性もある。今回は、英文契約書特有の英語の表現についていくつか例を挙げてみたい。

 日常英会話との違いという点で、まず挙げるべきは、助動詞の使い方である。日常生活ではあまり使わない“shall” 。しかし、英文契約書では最頻出助動詞である 。これは、義務を示すときに使われ、「~しなければならない」という意味で用いられる 。また、“may”は日常的には、「~かもしれない」、すなわち推量で使うことが多いが、英文契約書では権利を示すときに使われ、「~することができる」という意味で用いられる 。ややこしいのは、“will”で、「~する」で用いられることもあれば、「~しなければならない」で用いられることもあり、“shall”と混在しているときは、解釈に要注意である 。

 次に、例えば、“herein”,“hereto”,“hereunder”,“thereafter”のように、“here”や“there”と前置詞がセットになっている単語が多用される。“here”は概ね“this agreement”に置き換えることができ、さほど難しくない。一方、“there”は“this”,“that”,“it”に置き換えることができ、その文脈においてそれ以前に出ている文言を指す。慣れるまでは、これは何を指すのかと一旦立ち止まって考えることになる。

 英文契約書の中には、フレーズとして多用されるものが多数ある。“including, but not limited to”,“including without limitation”,“without prejudice to”,“subject to”,“jointly and severally”,“notwithstanding”などなど。ここでは意味の記載は割愛させて頂くが、英文契約書に関する書籍にある程度は記載されているし、契約書を何通も見る中で、何度も遭遇する用語を都度ストックしていくと、自然と身についていくように思われる。

 また、同義語の反復も多用される。例えば、前文では“by and between”という表現を、仲裁条項では“with regard to and in connection with”という表現によく出くわす。前者は、「~の間で」、後者は「~に関して」と訳せば足り、andの前後を別々に訳す必要はない。こういった表現もストックしていくのをお勧めする。

 最後にラテン語の多用も挙げておきたい。“bona fide”,“in lieu of”,“proviso”,“per anum”など。同義語が反復されたり、ラテン語が多用されたりするのは、英文契約書の歴史に遡る。英国はノルマン人によって征服 されているが、ノルマン人がフランス語とラテン語を話していたことから、その名残でラテン語がよく使われており、英語しか話せないアングロサクソン族とノルマン人が円滑に意思疎通が行えるように、ラテン語由来の表現やフランス語由来の表現と英語表現を反復して用いるようになったと言われている。ちなみに、必ず出てくる不可抗力条項“force majeure”はフランス語である。

 このような、ちょっとした英文契約書特有の表現を理解しているだけでも、とてつもなく長い英文契約書が随分読みやすいものになる。

(2023年10月執筆)

執筆者

矢吹 遼子やぶき りょうこ

弁護士(弁護士法人 本町国際綜合法律事務所)

略歴・経歴

平成21年弁護士登録(大阪弁護士会)。
弁護士法人 本町国際綜合法律事務所所属。
CEDR(Centre for Effective Dispute Resolution)の認可調停人。
契約書(和文・英文)のリーガルチェックや作成等の国際案件、一般民事、家事事件を多く担当する。
薬害肝炎訴訟、全国B型肝炎訴訟、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)薬害訴訟にも参加。

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