契約2024年01月31日 Distribution Agreement①(英文契約書(3)) 執筆者:矢吹遼子
Distribution Agreementについてレビューをさせて頂く機会がたまにあります。今回は、Distribution Agreementで検討すべき主なポイントについてお話させて頂きます。
Distribution Agreementは、本人(Principal、Supplier)と販売店(Distributor)の間で締結される契約です。販売店は本人から商品を購入し、マージンを乗せて顧客に対して販売します。基本的なことではありますが、Distribution AgreementとAgency Agreementは異なります。後者は代理店契約と呼ばれるもので、代理店(Agent)が、本人の代理人として顧客と売買契約を締結するものです。Distribution Agreementでは、仕入価格と再販売価格の差額が利益になりますが、Agency Agreementの場合は、通常コミッション方式で、販売実績に応じていくらという形で利益が上がります。両者は形式の全く異なる契約ですので(買い取って再販売をするか、代理か)、この形式の違いにより、販売店・代理店としての義務も異なってきます。ですが、Distribution Agreementは「販売代理店契約」「特約店契約」などいろいろな和名で呼ばれるため、混乱される方がいらっしゃるのも事実です。きちんと契約書の中身を見て、どちらを指しているのかを確認する必要があります。
Distribution Agreementでは、まず販売店の権限が独占的(Exclusive)か非独占的か(Non-Exclusive)かを確認します。本人の立場では、独占的契約にした場合に、販売店の売上が予想外に少なかった場合の手当てが必要になります。最低購入数量・金額を決めておいて、達成できなかった場合は差額を補填してもらう、一定期間販売数を達成できなかった場合は、独占権を返上してもらう等の方法があります。また、独占的にした場合に、本人が直接顧客に販売することができるかという問題は、別途検討が必要です。特に英文契約書の場合、記載がないと認められない可能性が十分あるとお考えください。すなわち、本人が自身で販売したいという場合は、契約書に明記しておく必要があります。他にも、販売地域(Territory)、対象商品(Goods)、競争品の取扱い(その販売店で、競合他社の商品を販売することが可能かどうか)について定めておきます。
Distribution Agreementを検討するにあたっては、独占禁止法の理解も必要です。例えば、日本のメーカー(本人)は、海外の販売店(Distributor)の再販売価格を拘束することはできるのでしょうか。これは「再販売価格維持行為」と呼ばれ、価格競争を抑制することになるので、競争阻害効果が大きいと考えられており、正当な理由がない限り、独占禁止法19条、2条9項4号で違法になります。「拘束」にならなければよいのですが、例えば希望小売価格を提示する場合にも、「参考価格」「メーカー希望小売価格」といった非拘束的な文言を用いること、通知文書であくまでも参考であることを明示すること等、いくつかの留意点があります。詳細は、公正取引委員会の「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」に記載されていますので、ご参照ください。
本人が販売店の競争品の取り扱いを制限できるかという点も、独占禁止法上の問題があります。これは一概には違法と言えませんが、既存の競争者の事業活動を阻害したり、参入障壁を高めたりするような場合には、違法になり得ます。公正取引委員会の基準によると、まず、本人が「市場における有力な事業者」である場合に、取引を制限することによって「市場閉鎖効果」が生じる場合には、違法となるとされています。「市場における有力な事業者」であるかどうかは、当該市場におけるシェアが20%を超えることが一応の目安とされています。相当なシェアを有する事業者の場合は、販売店がその事業者から商品を仕入れることが重要になります。その状況で、競合品の取り扱いを制限すると、市場の閉鎖効果が生じてしまう、ということで違法になるというわけです。これは、Distribution Agreementが独占的か、非独占的かという点にもかかわってきます。独占的契約の場合、販売店は強力な権限を付与されることになるので、そうであるならば競合他社の商品は取り扱わないという制限は合理的という考えと親和的です。一方で、非独占的契約の場合は、同じTerritoryの範囲内で、同一の商品を販売する販売店がいるわけですから、そのような状況で競争品の取り扱いを規制されると、やはり市場閉鎖効果が生じ得ます。このように、取引制限の態様や契約形態等を考慮して判断することになります。
海外においては、日本と異なり、販売店や代理店を直接保護する法制度がある国もあります。法律がなくても、判例が蓄積しているところもあります。英文契約の場合、準拠法を日本にしておけば問題ないと思われるかもしれませんが、そうとは限りません。海外の反トラスト法や競争法というものは、公正かつ自由な競争を促すという意味で、公法的な側面も有するものであることから、契約で排除したからといって適用されないとは限らないのです。
ですので、Distribution Agreementは、海外進出をしようとする地域の現地弁護士にもきちんと確認する必要があります。
(2024年1月執筆)
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執筆者
矢吹 遼子やぶき りょうこ
弁護士(弁護士法人 本町国際綜合法律事務所)
略歴・経歴
平成21年弁護士登録(大阪弁護士会)。
弁護士法人 本町国際綜合法律事務所所属。
CEDR(Centre for Effective Dispute Resolution)の認可調停人。
契約書(和文・英文)のリーガルチェックや作成等の国際案件、一般民事、家事事件を多く担当する。
薬害肝炎訴訟、全国B型肝炎訴訟、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)薬害訴訟にも参加。
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