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契約2024年11月28日 Non-Disclosure Agreement①(英文契約書(5)) 執筆者:矢吹遼子

 知的財産を保護する方法としては、まず、登録という方法があります。例えば、特許法に基づき登録する場合、その特許発明について独占的な実施が可能となり、会社のブランド力が強化されます。ライセンス収入を得られるというメリットもあります。一方で、特許公報が公開されるため、他社に研究開発の動向を知られる、周辺技術についてヒントを提供してしまう、といったデメリットもあります。このようなデメリットを回避するためのもう一つの方法が、秘匿です。秘匿した場合でも、不正競争防止法によって保護されますが、「営業秘密」に該当することが条件になります(不正競争防止法2条6項、以下「不競法」)。不競法では、特許登録ができないデータやノウハウを保護できますし、公開されている情報から経営戦略を読み取られるということもありません。特許法では、原則として特許出願の日から20年間保護されますが、不競法にはそのような制限はなく半永久的に保護されます(但し、不正行為に対する差止めの消滅時効はあります)。一方で、厳格に管理をしないと流出するおそれがあり、一度流出してしまうと、損害賠償だけで十分な救済を受けられるとは言い難い側面があります。損害の立証や秘密管理性の立証も容易ではありません。

 営業秘密とは、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」をいいます(不競法2条6項)。営業秘密を侵害すると、損害賠償を求められたり、悪質な場合には刑事罰を科されたりします。最近でも、大手回転寿司チェーンの前社長や部長職にあった者による営業秘密の侵害について、執行猶予付きの懲役刑及び罰金刑という刑事罰が科され、その量刑の重さに驚かれた方も少なくないように思います。

 営業秘密の該当性には、①秘密管理性、②有用性、③非公知性、という3つの要件があり、訴訟で争われることが圧倒的に多いのは①秘密管理性です。経済産業省が、平成15年に「営業秘密管理指針」を策定しており(最終改訂:平成31年)、不競法に基づいて差止め等の法的保護を受けるための最低限の水準が示されています。この中で、必要な秘密管理措置の程度として、「営業秘密保有企業の秘密管理意思が秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保される必要がある。」と定められています。すなわち、管理者の主観的な認識では足りないということです。実務的な対応として、営業秘密と一般情報を合理的に区分する、媒体の選択と当該媒体への表示(例えば、紙媒体であれば、ファイルなどに「マル秘」と書く)、当該媒体に接触する者の限定(パスワードを設定する、管理している部屋にはIDをかざさないと入れないようにする等)、営業秘密足る情報の種類・類型のリスト化、秘密保持契約又は誓約書によって守秘義務を明確化するといったことが挙げられています。「営業秘密管理指針」を読むと、肯定例が多く載っているため、わりと認められるという印象を持ってしまいがちですが、実際の裁判例はもちろん肯定例ばかりではありません(それなりに対策が取られていると思いますが、秘密管理性が否定されている例として、東京地裁令和4年12月26日)。
 不競法上の保護に安易に頼らず、NDAを締結して、相手方にも秘密情報の重要性を認識してもらい、厳重に保護する必要があります。ということで、前置きが長くなりましたが、次回は英文契約書のNDAについて見ていきたいと思います。
 なお、経産省の営業秘密のウェブサイトは、実務対応として非常に参考になると思います。営業秘密管理指針で規定されている水準を超え、未然に秘密情報の漏洩を防止するための対策例を紹介するものとして、「秘密情報の保護ハンドブック~企業価値向上に向けて~」も公表されています。是非ご参考になさってください。
営業秘密~営業秘密を守り活用する~ (METI/経済産業省)

(2024年11月執筆)

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

執筆者

矢吹 遼子やぶき りょうこ

弁護士(弁護士法人 本町国際綜合法律事務所)

略歴・経歴

平成21年弁護士登録(大阪弁護士会)。
弁護士法人 本町国際綜合法律事務所所属。
CEDR(Centre for Effective Dispute Resolution)の認可調停人。
契約書(和文・英文)のリーガルチェックや作成等の国際案件、一般民事、家事事件を多く担当する。
薬害肝炎訴訟、全国B型肝炎訴訟、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)薬害訴訟にも参加。

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