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民事2021年09月21日 当番弁護士制度をご存じでしょうか? 執筆者:亀井真紀

 当番弁護士制度は、逮捕された場合に、無料で一度は弁護士と面会できるという制度です。1992年から全国の弁護士会で実施されています。
 例えば、暴行や傷害、交通事故、万引き、横領、覚せい剤・・等々様々な理由やタイミングで逮捕される可能性はどの人にとってもあります。犯罪の嫌疑が常に正しいとは限られず、人間違い、事実関係の間違い等々で身柄拘束されてしまうこともあります。
 逮捕されると警察で取り調べを直ちに受けることが一般的ですが、初めてであっても初めてでなくても気が動転し、何を話したらいいのか、または話さない方がいいのか分からず困惑してしまう方は多くいます。時には自分の認識とは異なる内容の供述調書が作成され、署名しなければ大変なことになると思って署名してしまい、そこから冤罪が生まれるというもっと大変なことになってしまうこともあります。残念ながら過去にそういった冤罪事件が多くありました。
 逮捕されたとしても、何人も自己の意思に反して供述を強要されないという黙秘権(憲法38条1項、刑事訴訟法198条2項)が保障されている以上、警察官の質問に対して何ら話をする義務もなければ、供述調書に署名する義務もありません。しかしながら、味方のいない孤立した取り調べ室で警察官に逆らったら恐ろしい処分をされてしまうと誤解し、署名に応じてしまう方が実際は多いのです。
 当番弁護士制度はそういった捜査の初期段階で間違った対応がなされないよう、何はともあれ弁護士が警察署に駆けつけて、適切なアドバイスをできるようにしたものです。警察署で当番弁護士を呼びたいと言えば、弁護士会から派遣された弁護士がその日のうちに面会に行きます。また、家族や支援者が弁護士会に連絡をして要請することもできます。
 駆けつけた弁護士は、どうして逮捕されたかを本人から聞くなどして、今後の手続き・処分の可能性について説明したり、家族に連絡したりすることができます。また、本人から依頼があれば弁護人として選任してもらい、例えば被害者と早期の示談交渉をしたり、検察官に勾留請求をしないよう求めたりすることもあります。資力のない方は、刑事被疑者援助制度を利用でき、また勾留決定をされてしまった後は当番に駆けつけた弁護士を国選弁護人として選任してもらうこともできます。
 このように当番弁護士制度は、逮捕された人にとっては、運命を左右するかもしれないくらい重要なものですが、実は全国の当番要請率は2019年(令和元年)で僅か28%ほどしかないという統計があります。東京でも30%程度です。勿論、中には知り合いの弁護士に面会に来てもらうので当番は不要という人もいるかもしれませんが、7割以上の方がそうだとはとても思えません。
 2016年(平成28年)の刑事訴訟法等の一部を改正する法律によって、司法警察員は、被疑者を逮捕したとき等において「弁護人を選任することができる旨を告げるに当たっては、被疑者に対し、弁護士、弁護士法人又は弁護士会を指定して弁護人の選任を申し出ることができる旨及びその申出先を教示しなければならない。」とする規定が設けられました。
 2016年(平成28年)には勾留された全事件が被疑者国選の対象になり、それとともに旧法では単に「弁護人の選任を請求することができる旨を告げなければならない」とされていたところ、本改正法により、弁護士や弁護士会を指定した選任申出をすることができるようになったのです。これ自体は弁護人依頼権をより実質化するための前進ではありますが、そもそも逮捕された人が弁護士が何をしてくれるのかを知らなければ意味がありません。いくら選任できる権利があると言われても弁護士は費用がかかると思い、申し出をすること自体躊躇する方もいるはずです。そのためにも、まずは無料で面会に来てくれる当番弁護士制度を明確かつ具体的に警察署、検察庁、裁判所で教示してもらう必要があります。
 また、広く国民にもこの制度を知っておいてもらい、いざという時には自ら又は家族・関係者から弁護士会に連絡をして当番弁護士を要請してもらうことが有用です。
 初期段階からの弁護人依頼権を実質化していくためにも日弁連も弁護士会も当番弁護士制度の周知に向けてまだまだ努力を重ねていかなければと思います。

(2021年9月執筆)

執筆者

亀井 真紀かめい まき

弁護士

略歴・経歴

第二東京弁護士会所属。
平成13年弁護士登録。北海道の紋別ひまわり基金法律事務所(公設事務所)に赴任。
その後、渋谷の桜丘法律事務所(現事務所)に戻り現在に至る。
第二東京弁護士会高齢者・障がい者総合支援センター委員会、日弁連高齢者・障害者権利支援センター委員会等所属。
一般民事・家事、刑事事件のほか、成年後見、ホームロイヤー契約等高齢者、障がい者の事件を多く担当する。

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