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労働基準2023年12月22日 「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書の公表 執筆者:大川恒星

 本年10月20日、厚生労働省が、「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書を公表しました 。1「新しい時代の働き方とは何ぞや」と興味を持たれた方がおられるかもしれません。
 報告書の公表時には、「新型コロナウイルス感染症等の影響による生活様式の変化など、働く人の働き方に対する意識等が個別・多様化している背景を踏まえ、働き方や職業キャリアに関するニーズ等を把握しつつ、新しい時代を見据えた労働基準関係法制度の課題を整理することを目的として、厚生労働省の「新しい時代の働き方に関する研究会」〔中略〕において検討が行われてきた」と紹介されています。ちなみに、同研究会の構成員は、大学教授や民間企業の人事責任者となっています。
 報告書を読み解くことで、我々が直面する「新しい時代とは何か」、また、「新しい時代に即して、どのように労働基準法制を設計すべきか」が見えてきます。企業の人事担当者のみならず、「働く人」であれば、関心を持たずにはいられない内容です。
 まず、報告書は、冒頭、企業へのヒアリングや労働者へのアンケート調査を踏まえて、「企業を取り巻く環境」や「労働市場」の変化、「働く人の意識」や「個人と組織の関係性」の変化を「新しい時代」と位置付けています。
 「企業を取り巻く環境」や「労働市場」の変化については、特に目新しい内容はありません。グローバル化・デジタル化の進展によって国際競争が激化し、不確実性が増していること、ChatGPT等の生成AIの発展など、新技術の進化がビジネス環境を大きく変えていること、労働人口の減少やDXの進展による労働需要(必要なスキル・人材)の変化が見られることについて触れられており、よくニュースで見聞きする内容です。
 一方で、「働く人の意識」や「個人と組織の関係性」の変化については、雇用契約の当事者である「労働者」にとどまらず、フリーランスを含む「働く人」全体において、仕事に対する価値観や生活スタイルに応じて働く「場所」、「時間」、「就業形態」を選択できる働き方を求める人が増加していることや、「企業は雇用形態にとらわれず柔軟な働き方を提供し、能力を伸ばせる環境を作り、働く人は自発的に働き方やキャリアを選択し、能力を発揮して成果を上げる」という働く人と企業の関係性の変化と、このような関係性を形成・維持する上での労使間の密なコミュニケーションの重要性について、触れられています。これもよくニュースで見聞きする内容といえばそれまでですし、肌感覚でこのような変化を感じている人は少なくないと思いますが、このように厚生労働省がはっきりと述べると、確信めいたものに感じられます。上記の労働者へのアンケート調査でも、好きな時間に働く、好きな場所で働く、といった自由な働き方を希望する人は、この6年の間に20~30 代社員で増加傾向にある、そして、その傾向は、特に20 代前半に顕著であるとのことであり、近い将来、働く人の意識が大きく変化することを予感させます。
 次に、報告書は、以下のとおり、「新しい時代」における労働基準法制の課題を浮き彫りにします。すなわち、工場で働く労働者を念頭に置いた、従来の労働基準法制における「労働者」、「事業場」という基本的概念を形式的に適用し続けることの妥当性について検証が必要となります。
 ■ 従来の労働基準法制における「労働者」の枠に収まらない形で働く人の増加
   ・・・フリーランスの出現など/フリーランスをどのように保護するのか
 ■ 従来の労働基準法制における「事業場」の枠に収まらない形で事業活動を行う企業の増加
   ・・・リモートワークの普及など/どのように事業場外における労働時間管理や健康管理を行うのか
 そして、情報技術の発達により、企業は、働く人の事業場外における活動を相当程度把握できるようになってきているとも指摘します。
 さらに、報告書は、このような「新しい時代」における労働基準法制の課題の解消に向けて、心身の健康を維持できるよう、労働者を「守る」視点と、働く人の働き方やキャリア形成の希望を叶え、より良い職業生活を送ることができるよう、労働者を「支える」視点という二つの視点を提示します。このように、「新しい時代」における働き方の多様性を真正面から認めた上で、どうすれば、より良い労働基準法制となるのかを検討している点に特徴があります。
 その中では、企業による健康状態の把握・管理が難しくなってしまうことを踏まえて、働く人が自ら健康管理の面でも自己管理能力(セルフマネジメント力)が求められること、累次の制度改正によって全体として複雑となった労働基準法制をシンプルで分かりやすく実効的な制度とすること、日本全体の労働者数約6,000万人に比してわずか約3,000人の労働基準監督官という量的課題を意識した効果的・効率的な監督指導体制の構築(さらに、物理的な場所としての事業場のみに依拠しない監督指導や、フリーランスを含む働く人すべてを念頭に入れた監督指導についての検討)など、示唆に富んだ課題の解決の方向性が示されています。
 そして、最後は、政府への提言とともに、「企業に期待すること」や「働く人に期待すること」で締めくくられています。
 報告書でいう「新しい時代」の到来を受けて、従前にも増して、速やかに労働基準法制の今後の在り方について検討すべきであると、行政や立法に対して喫緊の課題が示された報告書と言えます。我々としては、今後、従来の労働基準法制に対して、どのような影響や変更がなされるのかを注視していく必要があるのだろうと思います。
(2023年12月執筆)

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執筆者

大川 恒星おおかわ こうじ

弁護士・ニューヨーク州弁護士(弁護士法人淀屋橋・山上合同)

略歴・経歴

大阪府出身
私立灘高校、京都大学法学部・法科大学院卒業

2014年12月   司法修習修了(第67期)、弁護士登録(大阪弁護士会)
2015年1月   弁護士法人淀屋橋・山上合同にて執務開始
2020年5月  UCLA School of Law LL.M.卒業
2020年11月~  AKHH法律事務所(ジャカルタ)にて研修(~同年7月)
2021年7月   ニューヨーク州弁護士登録
2022年4月   龍谷大学法学部 非常勤講師(裁判と人権)

<主な著作>
「Q&A 感染症リスクと企業労務対応」(共編著)ぎょうせい(2020年)
「インドネシア雇用創出オムニバス法の概要と日本企業への影響」旬刊経理情報(2021年4月)

<主な講演>
・2021年7月 在大阪インドネシア共和国総領事館主催・ジェトロ大阪本部共催 ウェビナー「インドネシアへの関西企業投資誘致フォーラム ―コロナ禍におけるインドネシアの現状と投資の可能性について」
・2019年2月 全国社会保険労務士会連合会近畿地域協議会・2018年度労務管理研修会「働き方改革関連法の実務的対応」

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