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労働基準2022年03月11日 今だからこそ、駐在員の労務管理について考えるべき(1) 執筆者:大川恒星


 新型コロナウイルス感染症が世界で猛威をふるってから、早くも2年。コロナ禍は、企業における感染症対策、テレワーク、従業員の休業など、さまざまな労働問題を浮き彫りにしました。その中でも、日本企業における(海外)駐在員の労務管理について、連載形式で取り上げます。

 昨年7月に日本に復帰するまでの間、約2年間、アメリカ、インドネシアに海外留学・研修をしていた私にとっても、身近なテーマです。現地では、コロナ禍の中で奔走する駐在員の方々と触れ合う機会に恵まれました。「日本の本社(出向元の親会社)からはほとんど連絡がない」といった不安の声や、「家族には帰国してもらうが、自分は残る。会社のことを考えると、この国を離れるわけにはいかない」といった悲壮な決意表明。一方で、コロナ禍の中、日本を離れて海外にいること自体、不謹慎である。日本に一時帰国しようものなら、バッシングを受けてしまう。そんな世の中の風潮でした。しかし、駐在員の多くは、必ずしも自ら好き好んで海外にいたわけではなく、自身が所属する日本企業からの派遣です。コロナ禍の中、東南アジアの一国に海外出向命令を下された私の知人もいます。

 少子高齢化・人口減少が進み、労働人口不足・国内市場の縮小が課題の日本、成長するアジア諸国、社会経済の国際化によって、これまで以上に、日本企業は海外と関わらざるを得ない状況です。おのずと、アフターコロナの世界では、駐在員の海外派遣は増えていくだろうと予想されます。今だからこそ、駐在員の労務管理について考えるべきです。

 ただし補足すると、コロナ禍で一時帰国した駐在員が、日本からリモートで現地の従業員を指揮監督することで現地の運営を行う、という「越境テレワーク」の可能性が示されたため、アフターコロナの世界でも、駐在員の海外派遣に伴う多額のコストを考慮して、今後は、なるべく日本からのリモートで対応をし、現地採用を増やすなど、駐在員の海外派遣を控える、という動きも出てくるのではないでしょうか(このような越境テレワークについては、どのような法的根拠(雇用?業務委託?)に基づいて行うのか、現地の就労許可は必要になるのか、どの国の法令が適用されるのか、日本でPE(恒久的施設)認定されて課税を受けるのか、といった法務・税務の問題が出てきます。)。

 前置きが長くなりましたが、この初稿では、駐在員の労務管理を論じるにあたって、まずは、「駐在員とは何か」について整理することにします。

 駐在員を定義した法令はないものの、「自身が所属する日本国内の企業から、海外の子会社や関連会社に、(在籍)出向又は転籍し(海外支店への配置転換の場合も)、現地で働く従業員」を指すのが一般的で、多くの場合、数年以内での復帰が予定されています。また、海外出張者を駐在員と呼ぶことは少ないのではないかと思います。なお、海外進出の形態として、現地法人の設立と比較して(一般的に法人格を持たない)駐在員事務所の設立が挙げられますが、駐在員事務所で働く者だけが駐在員になるわけでもありません。

 この点、駐在員は、通常、「海外派遣者」として労災保険の特別加入制度の対象となります。海外拠点に所属して現地で働く以上、原則労災保険の給付を受けられないところ、特別に労災保険の加入を認める制度です。この制度のもと、「海外派遣者」とは、海外の事業場に所属して、その事業場の使用者の指揮に従って勤務する労働者とされていますので、以下で述べる「海外出張者」との区別を踏まえて、駐在員を定義する際に参考になります。

 一方で、この制度のもと、「海外出張者」であれば、引き続き、労災保険の給付を受けられます。「海外出張者」とは、単に労働の提供の場が海外にあるにすぎず、国内の事業場に所属し、その事業場の使用者の指揮に従って勤務する労働者とされています。商談、市場調査、現地での突発的なトラブル対処等が海外出張の例に挙げられ、比較的短期間の場合が多いといえます。まとめると、労災保険の給付の可否が海外派遣者と海外出張者のいずれに当たるのかによって判断されるわけです。

 また、駐在員と比較される「現地採用」(ゲンサイと略して言われることも)とは、海外企業で採用された従業員を指します。たとえ日系企業であっても、もっぱら現地企業に採用されて現地で働くわけですから、現地の労働法が適用されます。

 以上、駐在員の基本的な概念を整理しましたので、今後は、「駐在員の海外派遣を命じることはできるのか」「日本の労働法令が適用されるのか(準拠法の問題)」「駐在員の安全管理」といったテーマで、具体的な事例をもとにそれぞれ取り上げたいと思います。

(2022年2月執筆)

執筆者

大川 恒星おおかわ こうじ

弁護士・ニューヨーク州弁護士(弁護士法人淀屋橋・山上合同)

略歴・経歴

大阪府出身
私立灘高校、京都大学法学部・法科大学院卒業

2014年12月   司法修習修了(第67期)、弁護士登録(大阪弁護士会)
2015年1月   弁護士法人淀屋橋・山上合同にて執務開始
2020年5月  UCLA School of Law LL.M.卒業
2020年11月~  AKHH法律事務所(ジャカルタ)にて研修(~同年7月)
2021年7月   ニューヨーク州弁護士登録
2022年4月   龍谷大学法学部 非常勤講師(裁判と人権)

<主な著作>
「Q&A 感染症リスクと企業労務対応」(共編著)ぎょうせい(2020年)
「インドネシア雇用創出オムニバス法の概要と日本企業への影響」旬刊経理情報(2021年4月)

<主な講演>
・2021年7月 在大阪インドネシア共和国総領事館主催・ジェトロ大阪本部共催 ウェビナー「インドネシアへの関西企業投資誘致フォーラム ―コロナ禍におけるインドネシアの現状と投資の可能性について」
・2019年2月 全国社会保険労務士会連合会近畿地域協議会・2018年度労務管理研修会「働き方改革関連法の実務的対応」

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