労働基準2024年09月02日 契約済みのフリーランスにもフリーランス法は適用されるの? 執筆者:大川恒星
令和5年4月28日、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)(令和5年法律第25号)(以下「フリーランス法」といいます。)が可決成立し、同年5月12日に公布され、令和6年11月1日に施行されます。
フリーランス法の概要については、内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省が連名で発刊したパンフレット「ここからはじめるフリーランス・事業者間取引適正化等法」に図解付きで分かり易く解説されていますので、その解説に委ねることとし、本稿では取り上げません。なお、このパンフレットは、厚生労働省ウェブサイト「フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ1 」で確認することができます。
ところで、フリーランス法の効力が発生するのが令和6年11月1日となるのは分かったものの、「契約済みのフリーランスにもフリーランス法は適用されるのか?」という疑問をお持ちの方は少なくないと思います。そこで、本稿では、この点に絞って解説したいと思います。
フリーランス法の具体的な適用関係については、第1条の法の目的に規定される「取引の適正化」と「就業環境の整備」の2つの観点から定められた「発注事業者が守るべき義務」と「禁止行為」の規制ごとに検討する必要があります。
1 取引条件の明示の義務(第3条)、期日における報酬支払義務(第4条)
取引条件の明示の義務(第3条)と期日における報酬支払義務(第4条)については、それぞれの条文を確認すると、「業務を委託した場合」に適用されることが分かります。
そして、フリーランス法の解釈ガイドライン「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方(令和6年5月31日公正取引委員会・厚生労働省)」第2部の第1の1(1)は、「業務を委託した場合」について、次のとおり説明しています(なお、点線は筆者が付したものです。)。
「業務委託をした場合」とは、業務委託事業者と特定受託事業者との間で、業務委託をすることについて合意した場合をいう。
なお、業務委託事業者と特定受託事業者の間で、一定期間にわたって同種の業務委託を複数行う場合において、個々の業務委託ごとに同様の内容を取り決める手間を省く観点から、あらかじめ個々の業務委託に一定期間共通して適用される事項(以下「共通事項」という。)を取り決めることがある。この場合において「業務委託をした場合」とは、当該共通事項を取り決めた場合ではなく、後に個々の業務委託をすることについて合意した場合をいう。
なお、業務委託事業者と特定受託事業者の間で、一定期間にわたって同種の業務委託を複数行う場合において、個々の業務委託ごとに同様の内容を取り決める手間を省く観点から、あらかじめ個々の業務委託に一定期間共通して適用される事項(以下「共通事項」という。)を取り決めることがある。この場合において「業務委託をした場合」とは、当該共通事項を取り決めた場合ではなく、後に個々の業務委託をすることについて合意した場合をいう。
すなわち、発注事業者(第3条においては業務委託事業者、第4条においては特定業務委託事業者)とフリーランス(特定受託事業者)との間で業務委託をすることについて合意した場合が「業務委託をした場合」に当たります。また、あらかじめ個々の業務委託に一定期間共通して適用される事項を取り決めた、いわゆる「基本契約」を締結している場合には、基本契約を締結した場合ではなく、基本契約に即して個々の業務委託をすることについて合意した場合が「業務を委託した場合」に当たります。
すると、取引条件の明示の義務(第3条)と期日における報酬支払義務(第4条)については、このように業務委託をすることについて合意した時点が、施行日である令和6年11月1日以降であれば、フリーランス法の適用があるわけです。したがって、「契約済みのフリーランス」についても、仮に基本契約が施行日前に締結されていたとしても、施行日後に基本契約に即して個々の業務委託をすることについて合意した場合には、フリーランス法が適用されます。
さらに、フリーランス法の施行に伴い整備する関係政令等の整備のために行われたパブリックコメント(国の行政機関が、政令や省令等を決めようとする際に、あらかじめその案を公表し、広く国民から意見、情報を募集する手続/以下「パブコメ」といいます。)の中で、次のとおり、留意すべき解説がなされています(なお、点線は筆者が付したものです。)。
「『特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令(案)』等に対する意見の概要及びそれに対する考え方2 」2-1-4
本法は令和6年11月1日から施行されるところ、本法の規定は本法の施行後に行われた業務委託が対象となりますので、本法の施行前に行われた業務の委託については、3条通知による明示を行う必要はありません。
一方、本法の施行前に行われた業務の委託について、本法施行後に契約の更新(自動更新の場合を含みます。)が行われた場合には、新たな業務委託が行われたものと考えますので、3条通知による明示を行う必要があります。この場合において、施行前に行われた業務の委託に係る契約書等に3条通知により明示すべき事項が全て記載されており、当該契約書等が書面又は電磁的方法によって交付されている場合には、契約の更新に当たって明示事項に該当する定めに変更がないときには、新たに3条通知により明示する必要はありません。ただし、業務委託事業者は、トラブル防止の観点から、特定受託事業者に対し、従前の契約書等の条項と明示事項との対応関係を明確にすることが求められます。
本法は令和6年11月1日から施行されるところ、本法の規定は本法の施行後に行われた業務委託が対象となりますので、本法の施行前に行われた業務の委託については、3条通知による明示を行う必要はありません。
一方、本法の施行前に行われた業務の委託について、本法施行後に契約の更新(自動更新の場合を含みます。)が行われた場合には、新たな業務委託が行われたものと考えますので、3条通知による明示を行う必要があります。この場合において、施行前に行われた業務の委託に係る契約書等に3条通知により明示すべき事項が全て記載されており、当該契約書等が書面又は電磁的方法によって交付されている場合には、契約の更新に当たって明示事項に該当する定めに変更がないときには、新たに3条通知により明示する必要はありません。ただし、業務委託事業者は、トラブル防止の観点から、特定受託事業者に対し、従前の契約書等の条項と明示事項との対応関係を明確にすることが求められます。
すなわち、「契約済みのフリーランス」について、施行日(令和6年11月1日)後に、自動更新(「期間満了の3か月前までに、契約当事者のいずれからも契約を終了する旨の申出がなされない場合は、同一条件にてさらに1年間延長されるものとする」といった定め)を含めて契約の更新が行われた場合には、更新時からフリーランス法が適用されます。
2 受領拒否等の禁止(第5条)、育児介護等と業務の両立に対する配慮(第13条)、中途解除等の事前予告・理由開示(第16条)
一定の期間以上の業務委託である場合(契約の更新により一定の期間以上の期間継続して行うこととなる業務委託も含む。)は、組織たる発注事業者(特定業務委託事業者)には、受領拒否等の禁止(第5条)、育児介護等と業務の両立に対する配慮(第13条)、中途解除等の事前予告・理由開示(第16条)という各義務も課されています。
第5条については、1か月以上、第13条と第16条については、6か月以上の期間の業務委託が対象となります。
単一の業務委託又は(単一の)基本契約の締結による場合には、1か月以上又は6か月以上の期間の単一の業務委託又は(単一の)基本契約の締結が行われた時点が、施行日である令和6年11月1日以降であれば、フリーランス法の適用があると考えられます。
一方で、契約の更新により、1か月以上又は6か月以上の期間継続して行うこととなる業務委託についても上記の定めが適用されることから、施行日前の業務委託の期間と施行日後に更新された業務委託の期間を合わせることで、施行日後に1か月以上又は6か月以上の期間となる場合に、フリーランス法の適用があるのか否かが問題となります。
この点、フリーランス法の関係下位法令や指針・ガイドライン・通達やパブコメには、この問題について明確な回答は記載されていません。
もっとも、フリーランス法第5条には、「特定業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託(政令で定める期間以上の期間行うもの(当該業務委託に係る契約の更新により当該政令で定める期間以上継続して行うこととなるものを含む。)に限る。以下この条において同じ。)をした場合」と規定されているところ(第13条や第16条にも同様の規定があります。)、法文を文字通り素直に解釈すれば、施行日後に業務委託の更新が行われた場合に、施行日前の業務委託の期間と施行日後に更新された業務委託の期間を合わせることで、施行日後に1か月以上又は6か月以上の期間となる場合についても、フリーランス法の適用があるように思われます。ただし、第13条と第16条の適用について東京労働局の雇用環境・均等部に電話で問い合わせたところ(第13条と第16条は厚生労働省・労働局の管轄となりますが、第5条は公正取引委員会の管轄となります。)、令和6年8月15日時点の東京労働局の回答としては、「施行日前の業務委託の期間は含まない」とのことでした。また、第5条の適用について、公正取引委員会のフリーランス取引適正化室に電話で問い合わせたところ、同日時点の回答として、東京労働局と同様の回答(施行日後の更新時点をもって業務委託の期間の始期と考える。)を得ました。今後、厚生労働省や公正取引委員会によって統一的な解釈が示される可能性がありますが、組織たる発注事業者(特定業務委託事業者)においては、施行日前の業務委託の期間も含まれる可能性を考慮に入れて、施行日前の業務委託の期間と施行日後に更新された業務委託の期間を合わせることで、施行日後に1か月以上又は6か月以上の期間となる場合にはフリーランス法の適用があることを前提に対応することが無難といえます。
3 募集情報の的確表示義務(第12条)
募集情報の的確表示義務(第12条)については、広告等により募集情報を提供するときの定めですので、この募集情報の提供が施行日である令和6年11月1日以降に行われる場合には、フリーランス法の適用があると考えられます。
4 ハラスメント対策に係る体制整備義務(第14条)
ハラスメント対策に係る体制整備義務(第14条)については、その適用対象となる業務委託にフリーランス法の適用があることが前提となっていますので、上記1の考え方が当てはまり、業務委託をすることについて合意した時点が、施行日である令和6年11月1日以降であれば、フリーランス法の適用があるように思われます。ただし、東京労働局の雇用環境・均等部に電話で問い合わせたところ(第14条は厚生労働省・労働局の管轄となります。)、令和6年8月15日時点の東京労働局の回答としては、施行日前に業務委託の締結が行われた場合であっても、施行日後に業務委託の行為が行われている限り、第14条の適用がある、とのことでした。今後、厚生労働省によって統一的な解釈が示される可能性がありますが、組織たる発注事業者(特定業務委託事業者)においては、施行日前に業務委託の締結が行われた場合であっても、施行日後に業務委託の行為が行われている限り、第14条の適用があることを前提に対応することが無難といえます。
5 最後に
本稿では、「契約済みのフリーランスにもフリーランス法は適用されるのか?」という疑問に対して、上記のとおり、一部の論点については、今後、厚生労働省や公正取引委員会によって統一的な解釈が示される可能性もありますが、あくまでも本稿執筆時点の情報をもとに踏み込んだ解説を試みました。皆様のご参考になれば幸いです。
(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)
(2024年8月執筆)
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執筆者
大川 恒星おおかわ こうじ
弁護士・ニューヨーク州弁護士(弁護士法人淀屋橋・山上合同)
略歴・経歴
大阪府出身
私立灘高校、京都大学法学部・法科大学院卒業
2014年12月 司法修習修了(第67期)、弁護士登録(大阪弁護士会)
2015年1月 弁護士法人淀屋橋・山上合同にて執務開始
2020年5月 UCLA School of Law LL.M.卒業
2020年11月~ AKHH法律事務所(ジャカルタ)にて研修(~同年7月)
2021年7月 ニューヨーク州弁護士登録
2022年4月 龍谷大学法学部 非常勤講師(裁判と人権)
<主な著作>
「Q&A 感染症リスクと企業労務対応」(共編著)ぎょうせい(2020年)
「インドネシア雇用創出オムニバス法の概要と日本企業への影響」旬刊経理情報(2021年4月)
<主な講演>
・2021年7月 在大阪インドネシア共和国総領事館主催・ジェトロ大阪本部共催 ウェビナー「インドネシアへの関西企業投資誘致フォーラム ―コロナ禍におけるインドネシアの現状と投資の可能性について」
・2019年2月 全国社会保険労務士会連合会近畿地域協議会・2018年度労務管理研修会「働き方改革関連法の実務的対応」
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