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一般2024年09月06日 オリンピック2024パリ大会を振り返る 執筆者:飯田研吾

 8月11日、17日間にわたって開催されたオリンピック2024パリ大会が閉幕した。2大会ぶりの有観客大会ということで盛り上がりを見せていた一方で、スポーツ法に関わる問題・課題の詰まった大会でもあったと思う。そこで本稿では、筆者の興味関心をもとに、オリンピック2024パリ大会を振り返ってみたい。

1.出場辞退の問題

 体操女子日本代表選手が、20歳未満にもかかわらず飲酒・喫煙を行ったことが発覚し、大会開幕直前に出場を辞退した。このような代表選手の行動規範違反に対する処分はどうあるべきか、競技団体や所属先の責任、スポーツ仲裁で争うことができる競技団体の「処分(決定)」という形ではなく、選手の自主的な「辞退」という形をとったことについても検討されるべきであろう。

2.審判の判定の問題

 柔道男子60㎏級の日本選手の試合や、男子バスケットボール、男子バレーボールなど、審判の判定が話題になった。また、審判の判定をきっかけに後述するSNSによる誹謗中傷問題も起きている。判定の正確性をどう担保するのか、一部の競技では、AIやVTR判定が導入されているが、競技によっては面白さが失われてしまうという意見もあり、こうしたテクノロジーをどこまで活用するのがよいのか競技の種類やレベルごとの議論が必要であろう。また、事後的に採点内容が修正され、メダル獲得の有無に影響を与えたケースもあった。このような審判の判定に波及する問題として、審判の判定に対する不服申立て制度の手続面や運用面の整備も必要と思われる。

3.選手や審判に対するSNSによる誹謗中傷

 IOCのアスリート委員会の発表によれば、オリンピック期間中、選手やその関係者に対するインターネットでの誹謗中傷は8500件超であった1。報道で目にするケースとしても、選手に対する誹謗中傷は多かった印象がある。大会期間中、JOCが、SNSで投稿する際にはマナーを守るよう声明2を出すまでに至っている。
 こうした誹謗中傷の問題への対応として、選手村に「マインドゾーン」と呼ばれる、選手の心のケアのための施設が設けられたり、JOCでは、「ウェルフェアオフィサー」という選手のメンタル面をサポートする医療チームが帯同するといったこともなされた。
 一つ気になったのは、競歩の男女混合リレーに出場する選手が個人種目の出場を回避した件や、女子マラソンに出場予定だった選手の棄権についての、競技団体による公表内容である。説明が十分ではなかったために、選手への批判を呼んだ面があることは否めず、競技団体として、選手を守るという視点での公表内容の検討を意識する必要があろう。

4.選手の健康(セーヌ川の水質問題)

 セーヌ川では、過去1世紀にわたって遊泳が禁止されていたが、今大会に向けて浄化対策が実施され、トライアスロン等の競技が実施された。
 しかし、選手の一部には、相次いで体調不良を訴える選手も現れ、トライアスロンなどでセーヌ川を泳いだ選手の約10%が胃腸炎を発症し、過去、2016年のリオ大会や2021年の東京大会が1~3%であったことに比べ高い割合だったというUSOPCの医療責任者の指摘もある3
 因果関係など正確なところはわからないが、選手の健康を第一に考えたときに、このような議論が巻き起こる形でリスクを負って実施する必要があったのか、検証される必要があろう。

5.男女のカテゴリー分けの問題

 ボクシング女子66㎏級のハリフ選手、女子57㎏級のユーティン選手の出場資格の問題が大きな話題となった。IBA(国際ボクシング連盟)は、両選手が過去の世界大会で失格となっていたことなどに触れ両選手を出場させたIOCを非難したが、IOCは、両選手が、女性として生まれ、女性として育てられ、女性のパスポートを持ち、長年女性として競技してきたとして、両選手の出場資格に問題がない旨の声明を出している。
 そもそも男女別のカテゴリー分けが適切といえるのか、公平性をどのように確保するのか、選手の性という高度なプライバシーをどう扱うべきか、などなど、医学、社会学、倫理学、法学といった様々な観点から、今後も議論を続けることが重要である。

6.選手の意見表明

 難民選手団の一人としてブレイキンに出場したアフガニスタン出身のタラシュ選手が、ステージ上で背中から「FREE AFGHAN WOMEN(アフガニスタンの女性を解放せよ)」と書かれた青いケープを取り出し、大きく広げた。IOCは、競技中に政治的スローガンを掲げたとして、同選手を失格処分とした。
 オリンピック憲章のRULE50.2により、選手が政治的な表現を行うことが禁止されているが、スポーツの場における選手の意見表明(抗議活動)に対する考え方は時代とともに変化してきた。オリンピック2020東京大会でもRULE50.2に関するガイドラインが発表され、これに則る形で、人種差別への抗議を示す片膝をつくポーズを行う光景を何度も目にした。パリ大会でも同様にガイドラインが発表されており、選手の意見表明が許される場面や許される表現の内容はある程度明確化されている。
 選手の意見表明について、こうした流れが今後も続くのか、それとも新たな展開が見られるのか、興味深い。

 以上、ここでは問題・課題の紹介にとどまるが、今後、本稿執筆中に行われているパラリンピックも含め、オリンピックパラリンピックという生きた素材をもとに議論が深まることを期待したい。

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

(2024年9月執筆)

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