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一般2022年01月11日 テレビのない生活(法苑195号) 法苑 執筆者:中西達也

一 我が家からテレビがなくなった
 我が家は、私、妻、長女、長男、二男の五人家族です。
 そんな我が家にはテレビがありません。子どもたちが小さいときにはテレビはあり、「おかあさんといっしょ」などの子ども番組を一緒に見ていました。しかし、子どもたちがテレビばかりに夢中になり、まさに根っこが生えたようにテレビの前に座り続けるようになりました。このことに業を煮やした妻が、アナログ放送が廃止された二〇一一年(平成二三年)七月を境に「テレビがなくなった」ことにすると私に宣言し、私もこれを同意したということがきっかけでテレビのない生活が始まりました。子どもたちが、小四、小三、小一のときでした。
 最初、妻は、アナログ放送最終日の午前零時まで子どもたちを起こしておき、テレビが映らなくなる様子を見せようとまで考えていたようですが、ある事情により、これは実現できませんでした。
 さて、テレビがなくなったという親の言葉を子どもたちが信用するのかとの疑問をお持ちになるかもしれません。私も同じ気持ちでした。しかし、近所の友だちの家に遊びに行くこともなかったからでしょうか、「砂嵐」しか映らないテレビを見て、二男は意外と簡単にテレビがなくなったと思ったようです。しかし、テレビの画面は「砂嵐」とはいえ、「砂嵐」の奥で何か映像が映っているような、何か声が聞こえるような
状態になっていましたので、長女は疑いを持っていたようですが……。

二 DVDデッキまでなくなった
 さて、テレビがなくなったといっても、DVDがあると言わんばかりに、子どもたちはDVDを見るようになりました。これではテレビがDVDに変わっただけです。ただし、子どもたちが見ているDVDは、私が誕生日のプレゼント等に買ったものですから、DVDの禁止を宣言することには躊躇がありました。しかし、妻は特段躊躇することもなく(?)、DVDドライブのコードをはさみで切ってしまいました。これには私もびっくりしましたが、コードを切った後ではどうしようもなく、我が家はテレビもDVDもない生活となりました。
 テレビがなくなったときにはそんなに騒がなかった子どもたちも、DVDを見ることができなくなったときにはひとしきり騒ぎましたが、いつの間にか収まってしまいました。

三 親の嘘がばれた
 ところが、祖母(私の実母)宅に遊びに行った二男が、祖母宅のテレビが映っていることに気が付いたのです。祖母も我が家の事情を知っていましたので、「ケーブルテレビ」=特別なテレビだから映るんだと説明をして、二男を納得させたようです。
 学校に行けばテレビ番組が話題になることもあるでしょうし、街に行けば電気屋にテレビが何台も置いてあって、今まで通りの番組が放送されていますので、親の嘘なんてすぐにばれてしまうと思っていました。しかし、意外や意外、数か月間はテレビがなくなったと信じていたようです。
 しかし、こんな嘘がいつまでも通用するはずがありません。何がきっかけかは忘れましたが、テレビが存在していることがばれてしまいました。ところが、子どもたちは特に騒ぐでもなく、嘘をついていたなという顔をしたくらいでした。おそらく、サンタさんにディズニーのDVDを頼んだのに、枕元のプレゼントがたこ焼き器であったということなどを経験している子どもたちにとっては、またまた親が碌でもないことをしでかしたという程度のことだったのかもしれません。

四 子どもたちもさるもの
 私はできるだけ自宅で仕事をしないようにしています。特に、子どもたちが小さいときには、休日は、子どもたちと何かをして過ごすようにしていました。とはいえ、自宅で仕事をせざるを得ないこともあり得ることから、事務所で使っていた古いノートパソコンを自宅に持って帰っていました。誰から教えてもらったのか、もしかすると私がソフトをインストールするところを見ていたのかもしれませんが、子どもたちはノートパソコンでDVDを見ることができることを発見したのです。当然、我慢などできるはずもなく、親がいない隙にDVDを見ていたのです。それを知ったときに、腹が立つよりも、テレビがなければDVDくらい見たいよなと思ったことを覚えています。それとともに、なんともまあ知恵が働くものだと感心したことも覚えています。
 とはいえ、これを許していると自宅からノートパソコンまで消えてしまうことになりかねず、DVDを見るときには、親の了承を得るというルールを決めました。

五 テレビのない生活
 テレビがあったときは、私がニュースを見たいということもあり、テレビを見ながらの食事でした。当然ながら、さほどの会話もなく、淡々と食べていたように思います。
 しかし、テレビがなくなると、子どもたちが学校での出来事をいろいろと話してくれるようになりました。もしかすると、それまでも話してくれていたのかもしれませんが、私が聞いていなかっただけかもしれません。
 また、子どもたちが新聞を読むようになりました。内容が難しいだろうと、小学生新聞を取るようになると、その傾向は一層でした。新聞を読んでわからないことがあると、私に聞くようになりました。私にもわからないことを聞くこともありましたが、「わからない。」と答えることは親の沽券に関わると思い、「今は忙しい。」と誤魔化して、こっそりと調べたことも懐かしい思い出です。
 野球シーズンには、何故かヤクルトファンの子どもたちは、ラジオの野球中継を聞いていました。これはこれで、想像力たくましく中継を聞いていたようで、端から見ていても楽しそうでした。
 さらには、休日には一緒に出掛けたり、庭の草抜きや洗車なども積極的に手伝ったりしてくれるようになりました。一緒にいろんなことをしているときには、取り留めもない話をしていたように思います。
 今でも、子どもたちとの会話は多い方だと思います。これは、テレビがなかったことによる良い影響だろうと思います。

六 そして現在
 極めて原始的・昭和的な生活をしてきた我が家ですが、長女がロータリークラブの交換学生に応募したいとの希望があり、選考の結果、高校一年の夏から一年間アメリカに派遣されることとなりました。
 長女はアメリカでNetflixを利用していたようで、帰国後、「英語を忘れないようにするため」との口実で、家族でNetflixに加入することになりました。当初、Netflixのことを知らなかった私は悩んだのですが、「好きな映画を見ることができるで」と、今から思えば当たり前の言葉にコロッと引っかかり了承することにしました。
 とはいえ、今でも、食事の際には、見た映画を話題に盛り上がったり、皆が部屋に引きこもったりすることもなく、暇なときには何となく台所に集まるというような生活です。

七 最後に
 原稿依頼があったときには、鉄道旅行のことでも書こうかと考えていましたが、他人の生活を垣間見る機会はあまりないのではと思い、あえて我が家の変わった生活について書いてみました。
 皆様には何の役にも立たない内容ですが、こんな生活を楽しんでいる家族もいるんだと思っていただければ幸甚です。

(弁護士)

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