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その他2010年09月01日 日本の公証人制度 日本人弁護士が見た中国 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者:菅原哲朗

はじめに

 中国関連コラム 日本人弁護士が見た中国 「大連市の公証人役場」(2009年3月4日掲載)を見た読者から編集部宛に日本の公証制度についても良く知りたいので補足して欲しいとの要望がありました。本来の中国コラムの範囲を超えますが、中国の方でも日本の法制度が理解出来るように概要をお伝えします。

1 遺言と公正証書
(1)会社の顧問弁護士は、自筆の遺言書が書けない80歳過ぎの社長の妻やご家族から将来の企業内紛争を防ぐために、社長の意思に沿った遺言を頼まれることが多い。もちろん遺言をなすのは高齢者の社長本人であり、遺言意思能力の有無が重要だ。その場合、相続された株式による会社支配関係を揺るがせないためにも、かつ遺言文言に疑義が生じないように公正証書遺言を作ることが望ましい。そこで、病気療養中の高齢者の場合は公証人に出張を依頼し、病院や自宅にまでご足労をお願いする。
 参考に私の担当した案件を紹介する。
 衰えたりといえども頭脳はまだまだ明晰だが言葉が不自由な高齢者の遺言者には、何度となく時間をかけて顧問弁護士が本人と筆談を交え相談して案文を作成する。これを前提に、公証人は介護ベットから近親者を排除して短時間に、しかし丁寧に遺言意思を確認していく。
 公証人は書記を伴いあらかじめ作成した公正証書遺言を各条文毎に読み上げ、遺言が本人の意思に基づくものか、否か、確認していく。老社長は顧問弁護士の顔は分かっても、公証人の顔を初めて見るので、互いの顔を見比べつつなかなか意思確認がスムーズに進行しない。公証人が、噛んで含めるように、丁寧に条文内容を説明して、三度にわたり、読み上げ個別の条文に老社長は頷いていく。しかし、納得した遺言者が、「これで遺言書面を作成しますね。」と言うと、頷かない。裁判官出身の公証人は慎重である。言葉が不自由で記憶力が弱い、家族は半分意思の能力が弱いと話すが、公証人は、「間違いない本人の頭脳はしっかりしている、遺言する意思能力はある。」「しかし、現時点では本人に遺言を作る意思がないと判断せざるを得ない」となった。
 結論として、病室内で遺言公正証書を作ることを公証人は断念した。

(2)高齢者の遺言案件に立ち会っていた私は、中国と日本の公証人の違いはここだと納得した。事実を確定し、これを公証するのが公証人の職務だ。日本の公証人は言葉が不自由な寝たきり老人であっても、決して家族の情実に流されることはない。ましてや経済的な利害打算は全くない。あくまで法の下に厳格である。
 中国の司法制度は、改革開放政策の大号令のもと、外資を導入すべくこれまで多くの法律を立法してきており、先進資本主義国と法律の形式には遜色はない。
 問題は、常に法律の運用である。三権分立制をとり、司法権の独立が憲法上保障されている日本の裁判所と異なり、中央集権国家体制である中国では、北京・上海以外の都市には露骨な「司法における地方保護主義」がなくならない。法治国家を標榜しても司法権の独立のない中国では構造的に人治主義が壟断し、訴訟当事者が地元企業であると裁判官は外資企業より地元を有利に扱い恣意的な裁判をするのだ、と中国人律師も語る。まさに地方行政と利害が重なる不正義な裁判を駆逐することは、法律家の質の問題も絡み解決が困難な問題だ。

2 日本の公証人
(1)公証人制度は1908年に立法された「公証人法」(明治41年法律第53号)で定めている。公証人は法務大臣が任命し、公証人法5条で職務専念義務が課されて弁護士業務との兼職が出来ないため、法曹経験30年以上の裁判官・検察官・法務省公務員出身者がほとんどだ。公証人は国家公務員法上の公務員ではないが、法務大臣の監督(公証人法74条1項)を受けて公証行為という国の公務をなすので実質的意義における公務員として刑法の文書偽造罪や国家賠償法の適用を受け、守秘義務(公証人法4条)がある。
 日弁連の資料によると2009(平成21)年6月現在で、公証人の数は506名で、公証役場は全国297ヶ所である。ちなみにアメリカでは署名認証の簡易な法律資格として約400万人の公証人がいると言われている。韓国の公証人法は1961年に制定され、さらに1982年の簡易紛争処理特例法ができて弁護士が法務法人の構成員資格で公証人兼業ができるため、弁護士の公証人が約92%を占めている。

(2)公証人役場を利用し、将来の紛争や訴訟を前提に権利義務関係の明確な証拠を残すために、形式的な証明力をもつ公証業務のうち市民が良く使うのは「公正証書」「認証」「確定日付」だ。
 公正証書は、民法969条の公正証書遺言作成なり、私製の土地建物の売買・賃貸借契約や任意後見人契約などの契約文面を公正証書にしておくのが主だが、金銭債務の場合は、確定判決と同一の強制執行力をもつ「強制執行認諾文言付きの金銭消費貸借契約公正証書」をよく作る。何故なら公正証書で執行証書を作成しておけば、相手方の債務不履行に対して、裁判所に訴訟を起こさなくても、直ちに財産に強制執行できるからだ。
 認証は、一般法人・公益法人や株式会社等の定款認証やインターネット電子公証(2007(平成19)年4月1日施行)が良く使われるが、1998(平成10)年1月1日施行の「宣誓認証」が訴訟に向けて役立つ一つの制度だ。裁判所に書面の真実性の担保を得た証拠として提出するため、公証人の面前で偽証過料の制裁の下、文書の記載内容が真実であることを宣誓のうえ、署名あるいは記名捺印をする。
 また「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(平成13年法律第31号)に基づく保護命令申立手続きで宣誓認証の利用がある。
 確定日付は、公証役場に「確定日付印」が備え付けられ民法467条や民法施行法4条以下に規定されている。郵便法に基づく内容証明郵便による配達証明日付と同じで、遡った日付の偽装を防止するため、「確定日付印」の捺印が私製書面の作成日を証明し、その時点で文書が明確に存在していたことを証明する。

(2010年8月執筆)

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