行政・財政2025年02月13日 普通財産の貸付制度 4 執筆者:髙松佑維

1.はじめに
前回の記事では、行政財産の使用許可制度と普通財産の貸付制度における法的性質の違いを踏まえて、両制度の違いが結果に与える影響の一例や、事案検討にあたって「当該財産を取り巻くこれまでの経緯・経過」が大変重要という内容を紹介しました。
今回は、経緯等の重要性や普通財産の貸付が身近に発生する場合をイメージできるよう、普通財産が関係した他の一事例を取り上げてみたいと思います。
今回は、経緯等の重要性や普通財産の貸付が身近に発生する場合をイメージできるよう、普通財産が関係した他の一事例を取り上げてみたいと思います。
2.普通財産貸付料に関する事例
(1)事案の概要
普通財産を国が取得する契機の一つに、相続税納付の際の物納があります。東京地方裁判所平成25年2月28日判決の裁判例は、「相続税の物納によって生じた普通財産貸付の際の貸付料」をめぐって争われた事例です。
紛争対象となった土地(以下「本件土地」といいます。)は原告の父親がもともと所有していたもので、原告は本件土地上の建物(賃貸マンション)の所有者でした。その後、原告の父親に関する相続が発生した際、原告を含めた各相続人が共同で本件土地を国へ物納したため、本件土地は国有財産(普通財産)となりました。
物納後、原告は建物所有を維持するため国から本件土地を借り受ける必要が生じたものの、実際の貸付契約の場面において、双方の想定する貸付料に大きな隔たりがありました。
原告は、物納前に徴税担当の国税局の担当官に対して物納後の貸付料について照会し、その回答結果(おおむね年額540万円程度)等を踏まえて、本件土地の物納を決めましたが、一方で、普通財産となった後に本件土地を管理して貸付契約を担当する財務局は、普通財産貸付事務処理要領に基づいて業者へ不動産鑑定を依頼し、その鑑定結果に基づいて決定した貸付料(年額2970万7000円)を原告へ提示していました。
原告は自らも不動産鑑定を依頼し、その結果(年額1550万円)をもって国に対し貸付料の再考を求めたものの、調停を経ても貸付料の合意ができず、やむなく提示された貸付料額に相当する“使用相当損害金額”を支払っていましたが、当該提示貸付料が適正額を大幅に上回るものだったとして、被告(国)に対し損害賠償ないし不当利得返還を求めました。
紛争対象となった土地(以下「本件土地」といいます。)は原告の父親がもともと所有していたもので、原告は本件土地上の建物(賃貸マンション)の所有者でした。その後、原告の父親に関する相続が発生した際、原告を含めた各相続人が共同で本件土地を国へ物納したため、本件土地は国有財産(普通財産)となりました。
物納後、原告は建物所有を維持するため国から本件土地を借り受ける必要が生じたものの、実際の貸付契約の場面において、双方の想定する貸付料に大きな隔たりがありました。
原告は、物納前に徴税担当の国税局の担当官に対して物納後の貸付料について照会し、その回答結果(おおむね年額540万円程度)等を踏まえて、本件土地の物納を決めましたが、一方で、普通財産となった後に本件土地を管理して貸付契約を担当する財務局は、普通財産貸付事務処理要領に基づいて業者へ不動産鑑定を依頼し、その鑑定結果に基づいて決定した貸付料(年額2970万7000円)を原告へ提示していました。
原告は自らも不動産鑑定を依頼し、その結果(年額1550万円)をもって国に対し貸付料の再考を求めたものの、調停を経ても貸付料の合意ができず、やむなく提示された貸付料額に相当する“使用相当損害金額”を支払っていましたが、当該提示貸付料が適正額を大幅に上回るものだったとして、被告(国)に対し損害賠償ないし不当利得返還を求めました。
(2)裁判所の検討・判断
裁判では本件土地の適正な貸付料の額等が主要な争点になり、裁判所が実施した不動産鑑定結果も踏まえて、裁判所は以下の内容に着目しました。
まず、本件土地を被告が収納する際、被告が判断した「本件土地の評価額」です。被告は、収納後に原告へ賃貸マンション所有目的で本件土地を貸し付ける(普通財産貸付契約を行う)予定で、これを内容とする借地権(普通借地権)設定を前提として、路線価図の定める借地権割合(70%)に基づき、借地権の付された土地所有権(いわゆる「底地」(30%))の評価で、本件土地の物納を受けていました。
また、①実際には本件で原告被告間に権利金授受がないものの、底地(30%)としての評価で物納がされた経緯から、「“借地権設定の対価として一定の権利金の授受が行われた結果、上記の借地権割合が決定された”と擬制すること」が鑑定の前提条件となっていること、②被告の定める普通財産貸付事務要領には、新規貸付けの場合は借地権利金を徴するとされ、その権利金の算定は算定基準により相続税評価額に借地権割合を乗じる方法により求めるとされていること、③被告の定める普通財産貸付料算定基準には、借地権利金を徴した場合の基礎価格は、相続税評価額から借地権価格(路線価図に記載されている借地権割合を乗じた額)を控除した価格とするとされていること、④民間の取引において、借地権設定の権利金の授受がされた場合には、更地価格から当該権利金を控除した価格を基準として支払地代が決められることが一般的なこと、⑤本件の賃貸借関係は、観念的には、原告が自己借地権を設定した上で底地部分のみを物納したことにより発生したとみられるものであり、土地の完全所有権を有する所有者が借主のために権利金の授受なく新規に借地権設定をした場合と同等の地代が発生するということはできず、むしろ①の内容が擬制されるということは、権利金と同価の“既存の借地権”を取得したのと経済的にみて同等のものというべきこと等にも着目し、裁判所は各鑑定結果の妥当性の分析を行いました。
他にも、当該賃貸マンションの状況(1階の店舗部分を除いて居住用建物)、原告一族がこれまで他の土地を自用底地として物納した際に発生した地代の状況(対象土地の公租公課と地代を比較した場合の割合が、本件土地のみ突出して高かった)等も踏まえて検討を行った結果、裁判所は、裁判所鑑定結果等のように底地価格をもって基礎価格とするのが相当とし(被告鑑定結果は更地価格を基礎価格としていました)、裁判所鑑定結果(本件物納時の新規貸付料として年額1500万円、貸付料改定予定時点の継続貸付料として年額1440万円)に対する被告主張を退け、同鑑定結果に不合理な点はない一方、被告鑑定結果は採用できないとして、原告の不当利得返還請求を認めました。
まず、本件土地を被告が収納する際、被告が判断した「本件土地の評価額」です。被告は、収納後に原告へ賃貸マンション所有目的で本件土地を貸し付ける(普通財産貸付契約を行う)予定で、これを内容とする借地権(普通借地権)設定を前提として、路線価図の定める借地権割合(70%)に基づき、借地権の付された土地所有権(いわゆる「底地」(30%))の評価で、本件土地の物納を受けていました。
また、①実際には本件で原告被告間に権利金授受がないものの、底地(30%)としての評価で物納がされた経緯から、「“借地権設定の対価として一定の権利金の授受が行われた結果、上記の借地権割合が決定された”と擬制すること」が鑑定の前提条件となっていること、②被告の定める普通財産貸付事務要領には、新規貸付けの場合は借地権利金を徴するとされ、その権利金の算定は算定基準により相続税評価額に借地権割合を乗じる方法により求めるとされていること、③被告の定める普通財産貸付料算定基準には、借地権利金を徴した場合の基礎価格は、相続税評価額から借地権価格(路線価図に記載されている借地権割合を乗じた額)を控除した価格とするとされていること、④民間の取引において、借地権設定の権利金の授受がされた場合には、更地価格から当該権利金を控除した価格を基準として支払地代が決められることが一般的なこと、⑤本件の賃貸借関係は、観念的には、原告が自己借地権を設定した上で底地部分のみを物納したことにより発生したとみられるものであり、土地の完全所有権を有する所有者が借主のために権利金の授受なく新規に借地権設定をした場合と同等の地代が発生するということはできず、むしろ①の内容が擬制されるということは、権利金と同価の“既存の借地権”を取得したのと経済的にみて同等のものというべきこと等にも着目し、裁判所は各鑑定結果の妥当性の分析を行いました。
他にも、当該賃貸マンションの状況(1階の店舗部分を除いて居住用建物)、原告一族がこれまで他の土地を自用底地として物納した際に発生した地代の状況(対象土地の公租公課と地代を比較した場合の割合が、本件土地のみ突出して高かった)等も踏まえて検討を行った結果、裁判所は、裁判所鑑定結果等のように底地価格をもって基礎価格とするのが相当とし(被告鑑定結果は更地価格を基礎価格としていました)、裁判所鑑定結果(本件物納時の新規貸付料として年額1500万円、貸付料改定予定時点の継続貸付料として年額1440万円)に対する被告主張を退け、同鑑定結果に不合理な点はない一方、被告鑑定結果は採用できないとして、原告の不当利得返還請求を認めました。
(3)まとめ
上記事例では、「底地の評価で物納がされたこと」等の経緯・各状況が分析過程において着目されており、やはり貸付事例の事案検討では、対象財産のこれまでの経緯・経過・状況といった要素が重要ポイントになることがよくわかります。
この事例のように物納を契機として、思わぬ形で普通財産貸付契約の当事者となる場合もあったりします。当事者となった場面では、いずれの側の当事者においても「自らの主張の前提としている内容が対象財産のこれまでの経緯や状況と整合しているのか」といった視点も意識すると、より説得的な主張ができるでしょう。
この事例のように物納を契機として、思わぬ形で普通財産貸付契約の当事者となる場合もあったりします。当事者となった場面では、いずれの側の当事者においても「自らの主張の前提としている内容が対象財産のこれまでの経緯や状況と整合しているのか」といった視点も意識すると、より説得的な主張ができるでしょう。
(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)
(2025年2月執筆)
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執筆者

髙松 佑維たかまつ ゆうい
弁護士
略歴・経歴
早稲田大学高等学院 卒業
早稲田大学法学部 卒業
国土交通省 入省
司法試験予備試験 合格
司法試験 合格
弁護士登録(東京弁護士会)
惺和法律事務所
大学卒業後、約7年半、国土交通省の航空局に勤務。
国土交通省本省やパイロット養成機関の航空大学校などに配属され、予算要求・予算執行・国有財産業務などに従事。
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