一般2025年03月24日 こども性暴力防止法の成立とスポーツ界への影響を考える 執筆者:飯田研吾

2024年6月、学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律(通称、「こども性暴力防止法」)が成立した。現在、同法の施行(公布の日である2024年6月26日から起算して2年6月を超えない範囲の日。同法附則第1条。)に向けて、ガイドラインの作成など、こども家庭庁などにより調整が行われている。今回は、同法の成立により、スポーツの現場にどのような変化が生まれるのか、どのような課題があるのか、考えてみたい。
こども性暴力防止法は、学校設置者等(幼稚園や学校、児童福祉施設等)や民間教育保育等事業者(学習塾、放課後児童クラブ、スポーツクラブ等)について教員等による児童対象性暴力等の防止に努め、被害児童等を適切に保護する責務等を定めるものである。その目玉は、教員等や教育保育等従事者のうち子どもと接する一定の業務(支配性・継続性・閉鎖性)に就く者について、その業務に就く際に、性犯罪歴の有無を確認し、犯歴がある場合には、教育・保育等の業務に従事させないなどの防止措置を実施する、というものである(いわゆる日本版DBS制度の創設)。1
では、こども性暴力防止法によりスポーツ界にどのような影響があるのか。
いまだに指導者による暴力・ハラスメントがなくならないスポーツ界において、こども性暴力防止法による日本版DBS制度は、スポーツにおける性暴力の抑止に一定の効果が期待される。
もっとも、スポーツ少年団や総合型地域スポーツクラブ、その他民間のスポーツクラブ(以下、「スポーツクラブ等」)については、民間の教育事業を行う事業者として、同法により当然に義務が課されるのではなく、学校設置者等が講ずべき措置と同等のものを実施する体制が確保されている場合には、参加を申請することにより内閣総理大臣により認定され、認定を受けた後は、認定事業者として義務を負うことになる。つまり、自らの意思で任意にこの制度に参加するかどうかを決め、参加するにあたっては、学校設置者等と同様の情報管理体制や、研修・相談の体制を確保しなければならない。
犯罪歴(前科等)は、高度のプライバシーに係る情報とされ、また、個人情報の保護に関する法律における要配慮個人情報として、その取扱いについて特に配慮を要するものとされていることからすれば、認定事業者となるために必要な情報管理体制としては、相当なレベルが要求されるべきであり(今後、ガイドライン等により示されると考えられる)、それだけの体制を確保できるスポーツクラブ等の事業者が存在するのか、疑問がある。より実効性を持たせるためには、スポーツ界において、こうした情報管理体制等を確保するための支援を行う仕組みも設けるべきであろう。
また、スポーツクラブ等の中で、認定事業者とそうでない事業者とが存在することになり、性犯罪歴を有する指導者は、認定事業者ではないスポーツクラブ等へ流れることが想定される。日本版DBS制度の利用が全てではないものの、認定事業者でないスポーツクラブ等においてどのように指導者の質を確保するか、改めて検討されなければならない。
確認の対象という点においても、日本版DBS制度において確認の対象となる犯罪歴は、痴漢や盗撮等の条例違反を含む、特定の性犯罪に限定されている。安全・安心なスポーツ環境の確保という観点から対応すべき暴言や暴力は、性的なものに限られないことは言うまでもない。また、確認の対象となるのは、特定の性犯罪の“前科”であり、不起訴処分となった場合や、行政上の懲戒処分、民間の独自の懲戒処分については対象とされていない。したがって、この制度によって全ての性犯罪歴が対象となるわけではないことを理解しておくべきである。
以上、こども性暴力防止法のスポーツ界への影響と課題について、筆者一個人の見解として現時点で考えられることを概観した。
上述のとおり、こども性暴力防止法は、事業者による任意とされていること、確認の対象が限定されていることなど、必要十分でないことは明らかである。とりわけ、スポーツ庁を中心に進められている公立中学校の部活動の地域展開(地域移行)により、こども性暴力防止法の義務の対象である学校設置者等から、義務の範囲から外れる地域へと子どものスポーツ環境が移行(展開)する流れの中で、指導者の質の確保という点では、(公財)日本スポーツ協会の公認スポーツ指導者資格など民間の制度がより重要になってくるように思われる 。2また、指導者の処分事例を各NF、競技団体ごとではなく、横断的にデータベース化しておくことの必要性についても、今後、検討される必要があるように思われる(参考として、拙稿「指導者による暴力等の根絶と処分歴」。)。
こども性暴力防止法は、施行後3年を目途として、施行の状況等を勘案しつつ、必要があると認めるときは必要な措置を講ずるとされており(同法附則第6条)、運用状況によって大きく変わる可能性もあることから、スポーツ界として、今後も同法の展開を注視していく必要があろう。
1詳しくは、こども家庭庁のWebサイト(https://www.cfa.go.jp/policies/child-safety/efforts/koseibouhou)を参照されたい。
2(公財)日本スポーツ協会では、こども性暴力防止法の成立を受け、「(公財)日本スポーツ協会における子どもに対する性暴力防止に向けた対応方針」を公表し(https://www.japan-sports.or.jp/Portals/0/data/somu/doc/ProtectingChildren.pdf)、公認スポーツ指導者登録等の諸制度の見直しを行う方針を示している。
(2025年3月執筆)
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