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一般2025年05月20日 落雷事故を防ぐために 執筆者:堀田裕二

1 2025年4月10日、奈良市にある学校のグラウンドに雷が落ち、サッカー部の活動をしていた生徒6人が病院に搬送され、うち2人が意識不明(うち1人はその後意識回復)の状態となるという事故が発生した。

2 屋外でのスポーツ活動において、落雷による事故は以前から起こっており、これに対して競技団体などがガイドラインを発出するなどの対応を行っている。落雷による事故は防ぐことが一番であることはもちろんであるが、不幸にも発生してしまった場合、指導者などがその責任を問われることがある。

3 この点、落雷に関して指導者及び試合の主催者の責任を問われた事件として、高槻落雷事件がある。
 1996年8月12日から15日まで、翌年の国体を控えたプレ大会として、大阪府の高槻市立南大樋運動広場にて高槻市体育協会主催のサッカー大会「第10回高槻ユース・サッカー・サマー・フェスティバル」が開催された。全国から62チームが参加し、高知県の土佐高等学校もこれに参加した。
 そして、同年8月13日16時30分頃、第2試合が開催された直後、土佐高校のA君が頭部に落雷を受けるという事故が発生した。A君は心肺停止・意識不明の重体で搬送され、その後加療を行ったが、視力障害、両下肢機能全廃、両上肢機能の著しい障害等の重大な障害が残った。これについて、A君及びその家族は、1999年3月29日、高知地方裁判所に、学校法人土佐高等学校、高槻市体育協会等を被告とする損害賠償請求訴訟を提起した。

4 この点、高知地方裁判所及び高松高等裁判所は、落雷の予見可能性を否定してA君の請求を棄却するという判決を行った 1
 これに対し、最高裁判所は、控訴審判決を破棄して高松高等裁判所に差し戻すという判決を行った2 。そして、差し戻し審である高松高等裁判所は、引率教諭と大会主催者の予見義務と結果回避可能性を認め、約3億円の損害賠償を認めた 3
 ここでは、引率教諭の落雷の予見可能性について、事故当時の各種文献などを挙げた上、上空の大部分が明るくなりつつあったとしても、試合が行われた運動広場の南西方向の上空に黒く固まった暗雲が立ち込め、雷鳴が聞こえ、雲の間で放電が起きるのが目撃されていたという状況では、その雷鳴が大きな音ではなかったとしても、落雷事故発生の危険が迫っていることを具体的に予見可能であったとした。
 さらに、そのような場合の結果回避可能性について、運動広場のコンクリート製柱を中心とした半径8メートルの円内で、かつ、柱から2メートル程度以上離した部分が避雷のための保護範囲となるため、そこに生徒らを退避させることができたとして、結果回避可能性も認めた。

5 この判決がスポーツにおける落雷事故のリーディングケースとなり、以後スポーツ指導者としては、落雷に関する各種文献を前提とした予見可能性と結果回避可能性が求められることになり、各競技団体においてもガイドライン等が作成されるようになった。
 日本サッカー協会においても、「サッカー活動中における落雷事故防止対策について」と題するガイドラインを策定し、注意喚起を図っている 。
 上記ガイドラインでは、「①危険・兆候が確認されたら公式戦・練習にかかわらず躊躇なく中止すること。②周辺で雷注意報・兆候がある場合、専門的なウェブサイトで常時天候情報を確認すること。」を原則とし、ネットや目視での気象情報の確認方法、避難場所の確認、中断からの再開基準、雷に打たれた時の対応を示している。

6 今回の事故は、暗くなった直後に落雷があったとされており、上記ガイドラインからすれば避けられた事故かどうかは詳細な調査の結果を待たなければ判断できない。
 しかし、今後も、屋外でのスポーツを行う上では、避けることができた事故を避けるために、スポーツ指導者としては、上記裁判例が示しているような、指導者として知るべき知見を身につけ、ガイドラインに従った行動をとることが求められている。

1 高知地裁平成15年6月30日判決、高松高裁平成16年10月29日判決
2 最高裁平成18年3月13日第二小法廷判決
3 高松高裁平成20年9月17日判決
4 https://www.jfa.jp/documents/pdf/other/rakurai.pdf

(2025年5月執筆)

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

執筆者

堀田 裕二ほった ゆうじ

弁護士/アスカ法律事務所パートナー

略歴・経歴

【経歴】
平成17年10月 大阪弁護士会登録 アスカ法律事務所入所
平成23年 1月 アスカ法律事務所 パートナー

公益財団法人日本スポーツ仲裁機構 スポーツ仲裁人・調停人候補者
一般社団法人奈良県サッカー協会 常務理事
OCA大阪デザイン&IT専門学校eスポーツ学科 講師
日本スポーツ法学会理事・事務局長
大阪弁護士会スポーツ・エンターテインメント法実務研究会世話役
日本スポーツ協会スポーツ少年団協力弁護士等

【主な取扱い分野】
インターネット、コンピュータに関連する法律問題
スポーツ(eスポーツ含む)・ファッションビジネスに関連する法律問題

【書籍】
「eスポーツの法律問題Q&A」 (共著・eスポーツ問題研究会編)民事法研究会
「スポーツの法律相談」 (共著・菅原哲朗・森川貞夫・浦川道太郎・望月浩一郎 監修)青林書院
「発信者情報開示請求の手引」 (共著・電子商取引問題研究会編)民事法研究会
「スポーツガバナンス実践ガイドブック」 (共著・スポーツにおけるグッドガバナンス研究会編)民事法研究会
「スポーツ界の不思議 20問20問」 (共著・桂充弘編)かもがわ出版
「Q&A スポーツの法律問題(第4版)」 (共著・スポーツ問題研究会編)民事法研究会

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