契約2025年12月16日 ライセンス契約②(英文契約書(8)) 執筆者:矢吹遼子

前回に引き続き、ライセンス契約について実務上留意すべき事項について解説いたします。
1、ロイヤルティ(Royalty)
ライセンス契約の対価であるロイヤルティの支払いは、典型的には2種類あります。
- ・イニシャル・ロイヤルティ(Initial royalty):契約時に一括の固定額を支払う方法。一括払い(Lump-sum payment)と分割払い(Installment)があります。前者はソフトウェアのライセンスでよくみられる方法です。Initial royaltyは、提供する情報の対価という側面がありますので、ライセンサー(知的財産権の権利者)からすれば一括で払ってもらうのが望ましいです。
- ・ランニング・ロイヤルティ方式(Running royalty):一定期間(例:四半期ごと)の実績に応じ、売上高の○%(料率法)や製品1個あたり○円といった形(従量法)で継続的に支払う方法。実務的には料率法の方が多いように思います。独占的ライセンスを付与する場合には、ミニマム・ロイヤルティ(Minimum royalty)を設定することはよくあります。これは、ロイヤルティの累計額が、ある最低額に満たなくても一定額を支払わせる方法で、契約の相手方であるライセンシーに販売努力を促し、ライセンサーの最低収益を担保するために設けられます。
イニシャル・ロイヤルティとランニング・ロイヤルティを併用することも実務的には良く行われます。
ロイヤルティ条項については、売上基準や控除項目の定義も明確化すべきポイントです。前回コラムで述べたように、ロイヤルティ算定の基礎となる「Net Sales(純売上高)」等の定義は曖昧さを残さないよう注意します。例えば「販売価格」から控除できる項目(税金・関税・輸送費・値引き等)や為替レートの基準日などを契約書上で具体的に定め、将来の紛争予防に努めます。特に英文契約では「customarily and actually allowed(通常かつ実際に許容される)」といった漠然とした表現が使われがちですが、可能であれば数値基準を入れるなどして明確化すると良いでしょう。
2、帳簿保管及び報告(Accounting and Report)
ライセンス契約では、ライセンシーのライセンサーに対する帳簿の保管義務と報告義務を課すのが通常です。これに加え、ライセンサーに閲覧権や監査権を認めるかは、別途問題となります。
ライセンサーの立場からすれば、ライセンシーが契約通りにロイヤルティを支払っているか検証するため、監査権は不可欠です。事前通知さえすればいつでもできるといった形で条項をいれるのが望ましいです。一方で、ライセンシーの立場からすると当然監査などない方が良いので、仮に実施されるとなれば、監査人は弁護士や会計士など守秘義務を負う地位にある者に限定する(あるいは、秘密保持の誓約書を提出させる)、時期・回数・対象範囲をきちんと特定しておくことを考えることになります。
監査の結果、未払いロイヤルティが判明した場合の取扱いも決めることがあります。一般的には、ライセンシーに不足額の支払義務と遅延利息を課し、不足額が一定割合を超えていた場合には監査費用もライセンシー負担とする条項を置くことがあります。
3、改良(Improvements)
ライセンサーが技術改良をした場合に、追加のロイヤルティなしでライセンシーが使用することを認めるという条項を入れることがあります。ただ、重要な改良で、その点に大きな価値がある場合はロイヤルティを加算するということも十分考えられますので、慎重な検討が必要です。
一方、ライセンシーが技術改良をした場合、その改良発明をライセンサーに帰属させるという条項を入れることはできるのでしょうか。これは、公正取引委員会の指針により、不公正な取引方法に該当するとされています。以下でいう「独占的ライセンス」は権利者自身もライセンス地域内で権利を実施しない場合を指しますので、ライセンシーが実施できないような形にすると、やはり不公正な取引方法に該当すると考えられます。
(参考)知的財産権の利用に関する独占禁止法上の指針 第4の5(8)
ライセンサーがライセンシーに対し、ライセンサーの競争品を製造・販売すること又はライセンサーの競争者から競争技術のライセンスを受けることを制限する行為は、ライセンシーによる技術の効率的な利用や円滑な技術取引を妨げ、競争者の取引の機会を排除する効果を持つ。したがって、これらの行為は、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する。
では、非独占的ライセンスであれば常に問題ないのか。クロスボーダー取引の場合は、現地の反トラスト法などを調査する必要があります。
4、販売促進(Promotion)
販売促進という観点から、ライセンサーの利益を確保するための条項を入れることがあります。例えば、“Licensee shall make utmost efforts to promote, market and distribute the Licensed Products” といった条項です。ライセンシーの立場から注意すべきは、努力義務の程度です。“utmost efforts”や“best efforts”といった文言は、日本法上の緩やかな努力義務とは異なり、利用可能なあらゆる手段を用いて、合理的に考えられる限りの最善を尽くすという義務ですので、日本法よりはかなり重い努力義務になります。
では、ここからさらに進んで、ライセンシーに競争品の取扱い禁止を課すことはできるのでしょうか。この点も、上述の公正取引員会の指針に記載があります。
(参考)知的財産権の利用に関する独占禁止法上の指針 第4の4(4)
ライセンサーがライセンシーに対し、ライセンサーの競争品を製造・販売すること又はライセンサーの競争者から競争技術のライセンスを受けることを制限する行為は、ライセンシーによる技術の効率的な利用や円滑な技術取引を妨げ、競争者の取引の機会を排除する効果を持つ。したがって、これらの行為は、公正競争阻害性を有する場合には、不公正な取引方法に該当する。
つまり、競争品の取り扱い禁止は違法となり得ます。アメリカでも判例が蓄積されており、ライセンシーに対して契約製品と競合する製品の製造、使用、販売を禁止する条項はやはり違法になり得ますので、注意が必要です。
(2025年12月執筆)
(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)
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執筆者

矢吹 遼子やぶき りょうこ
弁護士(弁護士法人 本町国際綜合法律事務所)
略歴・経歴
平成21年弁護士登録(大阪弁護士会)。
弁護士法人 本町国際綜合法律事務所所属。
CEDR(Centre for Effective Dispute Resolution)の認可調停人。
契約書(和文・英文)のリーガルチェックや作成等の国際案件、一般民事、家事事件を多く担当する。
薬害肝炎訴訟、全国B型肝炎訴訟、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)薬害訴訟にも参加。
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