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契約2026年04月16日 ライセンス契約③(英文契約書(9)) 執筆者:矢吹遼子

 前回に引き続き、ライセンス契約について実務上留意すべき事項についての第3回目です。

1、品質管理条項(Quality Control)

 品質管理条項は、特に商標ライセンスにおいて極めて重要な意味を持ちます。商標は、単なる標識ではなく、ブランドの使用を通じて蓄積された信用や評判を体現するものであり、企業イメージや商品イメージと密接に結びついています。このため、商標の使用方法や管理体制については、より慎重な対応が求められます。
 ライセンシーが提供する商品やサービスの品質が低下した場合、それは直ちにブランド価値の毀損につながるおそれがあります。そのため、ライセンサーとしては、信頼できる相手方を選定することはもちろん、商品ラインナップ、製造・販売プロセス、品質管理体制、さらには顧客対応に至るまで、一定の関与・統制を及ぼす必要があります。
 このような観点から、ライセンス契約においては、品質基準の設定に加え、ライセンサーによる監督権限を具体的に定めておくことが不可欠です。実務上は、サンプルや製品仕様に関する事前承認権、製造工程や販売状況に関する監査権、定期的な報告義務などを組み合わせて規定することが一般的です。また、品質基準そのものについても、抽象的な義務にとどめるのではなく、可能な限り具体的に明文化しておくことが、後日の紛争予防の観点から有用です。例えば、
“The Licensee shall manufacture and sell the Licensed Products in accordance with the specifications and quality standards set forth in Schedule A”
など、別紙で記載された仕様書は品質基準に適合させるとか、
“The Licensee shall submit samples of the Licensed Products.”
としてサンプルを提出させる等の方法が考えられます。

 米国法の下では、商標権者がライセンシーに対する品質管理を適切に行わない場合、「naked license」と評価され、商標権の効力が否定されるリスクがあるとされています。この点からも、ライセンサーにとって品質管理条項は、単なる契約上の問題にとどまらず、権利維持の観点からも重要な意味を持つといえます。
 他方で、ライセンシーの立場からは、過度に広範なコントロールは事業運営の機動性や効率性を損なう可能性があります。そのため、承認手続の期間や方法の明確化、承認拒否の合理的理由の限定、監査の頻度や範囲の適正化などについて交渉を行い、実務に即したバランスを確保することが重要です。特に、品質基準が曖昧なまま包括的な遵守義務のみが課されている場合には、後に恣意的な契約違反の主張を受けるリスクがあるため、具体性の確保には十分な注意が必要です。

2、表明保証(Representations and Warranties)

 表明保証(Representations and Warranties)および第三者侵害対応に関して、英文契約では、ライセンサーが「知的財産権を適法に保有していること」や「第三者の権利を侵害していないこと」を広く表明保証するケースが多く見られます。
 しかし、このような無限定の表明保証は危険です。例えば、クロスボーダーの取引において、自社の特許が第三者の権利を侵害していないということを確認することは、実際には極めて困難と言わざるを得ません。
 そこで、ライセンサーの責任を軽減する方法としては、①特定の国に限定する、②「知る限り(to the best of its knowledge)」といった限定文言を付す、③十分に調査できるのであれば、対象をその時点で既に登録されている特許権に限る等の方法が考えられます。また、補償(Indemnification)条項において、損害賠償の額を、受領済みのロイヤルティの総額に限る(capを設ける)、間接損害は除く等の方法も考えられます。

 第三者から侵害クレームが提起された場合の対応も、ライセンス契約における重要な論点の一つです。一般に、侵害の主張は、実際に製品の製造・販売等を行っているライセンシーに対して向けられることが多く、ライセンサーの存在が第三者に認識されていないケースも少なくありません。もっとも、契約上は、第三者から侵害の主張があった場合に、ライセンサーがその対応(防御)を担い、あわせて損害が生じたときにはこれを補償するという役割分担とすることが一般的です。そこで、その前提として、ライセンシーが侵害の主張を受けた場合、またはそのおそれが生じた場合には、ライセンシーが速やかにライセンサーへ通知することを義務付けるとともに、防御活動に必要な情報提供や証拠収集への協力を求めるよう規定します。
 さらに重要なのは、防御および交渉の主導権の帰属です。ライセンシーが独自に交渉や訴訟対応を進め、ライセンサーの関与なく和解に至った場合、その内容によっては後にライセンサーに補償請求が及ぶリスクがあります。このため、ライセンサーとしては、防御の主導権を確保する、少なくとも重要な判断(特に和解)については事前承諾を要する仕組みを設けることが重要です。
 また、侵害が認定された場合の是正措置についても、あらかじめ整理しておくことが望まれます。実務上は、①第三者から必要な権利のライセンスを取得することにより継続利用を可能とする、②非侵害となるよう製品や技術を改変する、③契約を終了させ、対価の返金等を行う、といった選択肢が規定されることが一般的です。これらについては、どの措置を優先するか、また最終的な選択権をライセンサー・ライセンシーのいずれに帰属させるかによってリスク配分が大きく異なるため、契約上明確にしておく必要があります。

(2026年3月執筆)

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

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執筆者

矢吹 遼子やぶき りょうこ

弁護士(弁護士法人 本町国際綜合法律事務所)

略歴・経歴

平成21年弁護士登録(大阪弁護士会)。
弁護士法人 本町国際綜合法律事務所所属。
CEDR(Centre for Effective Dispute Resolution)の認可調停人。
契約書(和文・英文)のリーガルチェックや作成等の国際案件、一般民事、家事事件を多く担当する。
薬害肝炎訴訟、全国B型肝炎訴訟、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)薬害訴訟にも参加。

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