契約2024年01月17日 日本代表の法務 ~選手に日本代表招集応諾義務があるのか 執筆者:松本泰介

2023年は、野球のワールドベースボールクラシック(WBC)、サッカー女子ワールドカップ、バスケットボールワールドカップ、ラグビーワールドカップなど、注目される国際大会が目白押しの年でした。一方で、国際大会に出場する日本代表をめぐっては、国内地上波放送の有無や、選手の日本代表招集辞退など、いろいろな課題があることも浮き彫りになってきました。
そこで、今回は、選手の日本代表招集問題に関して、選手に一般的な日本代表招集応諾義務があるのか、解説してみたいと思います。
1. 中央競技団体の規程
まず、中央競技団体はよく日本代表に招集する選手を発表していますが、中央競技団体には、そもそもどのような権限があるのでしょうか。
中央競技団体の規程を見てみると、例えば、日本サッカー協会(JFA)では、基本規則第2条に、JFAに登録する選手は、「本協会・・・の指示、指令、命令、決定・・・を遵守する義務を負う」と定められています。Jリーグに所属するプロサッカー選手が締結している選手契約書第2条には、選手の履行義務として、「協会から、各カテゴリーの日本代表選手に選出された場合のトレーニング、合宿および試合への参加」が定められています。もっとも、海外リーグに所属するプロサッカー選手はこのような選手契約を締結しておらず、また、このような規程が一切ない中央競技団体も数多く存在します。
となると、Jリーグに所属するサッカー選手のように明確な規定がある場合を除き、中央競技団体はこれに基づき、日本代表選手を招集することはできないのでしょうか。一般的には、日本代表に選出されることは非常に名誉なことであり、日本代表の強化のために、選手が日本代表招集に応諾するのは当然という理解ではないでしょうか。
2. 日本代表事業のおかれた状況
昨今の中央競技団体が行っている日本代表事業は、単なる日本代表の選出のための競技会の実施や、国際大会への派遣だけでなく、統轄する競技の普及、振興に必要となる費用を稼ぐための収益事業となっています。このために、中央競技団体は、日本代表というコンテンツを利用して入場料収入やスポンサー収入などの獲得を目指しています。
このように日本代表事業は収益事業となっており、収益事業に選手が稼働を求められるのであれば、日本代表候補選手であったとしても、それは「労働」であるため、前提として、雇用契約や委託契約などの合意、すなわち選手の同意が必要になるでしょう。
また、選手からすれば、日本代表選出のために、「労働」ではなく、競技会に「自主的」に参加している場合も考えられるでしょう。ただ、この場合は、あくまで競技会に「自主的」に参加しているに過ぎないのだから、選手が日本代表に選出されることを強制的に強いることはできません。
いずれにしろ、日本代表事業への選手の参加については、選手の意思次第ということになります。
3. 選手は日本代表招集応諾義務があるのか
当たり前かもしれませんが、選手が日本代表に招集される場合、招集に応諾しなければならない法律上の義務はありません。前述のような招集応諾義務を定める規定があったとしても、それは選手の真摯な同意か、あるいは労働組合との誠実交渉を経た労使協約に基づく必要があるでしょう。このような規定もない場合、選手に日本代表招集応諾を法的に義務付けるのは難しいでしょう。
実際、競技団体によっては、既に日本代表事業への参加を選手の任意に委ねている組織もあります。とはいえ、日本代表事業をより大規模な事業にして、今後の普及・振興事業を行っていくためには、日本代表事業に可能な限り参加できるよう、選手のメリットを踏まえ選手の出場条件などを検討していく必要があるでしょう。日本代表事業の見直しが求められています。
(2023年12月執筆)
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執筆者

松本 泰介まつもと たいすけ
早稲田大学スポーツ科学学術院教授・博士、弁護士
略歴・経歴
専門分野はスポーツ法、スポーツガバナンスなど。
主な経歴は、日本プロ野球選手会監事、日本プロサッカー選手会執行理事、日本スポーツ仲裁機構スポーツ団体のガバナンスに関する協力者会議委員、早稲田大学競技スポーツセンター副所長、早稲田大学スポーツビジネス研究所(RISB)研究員など。
主な著作に、「スポーツビジネスロー」(大修館書店)、「代表選手選考とスポーツ仲裁」(大修館書店)、「標準テキスト・スポーツ法学」(エイデル研究所刊。編集委員)、「理事その他役職員のためのガバナンスガイドブック」(日本スポーツ仲裁機構刊。共著)、「トラブルのないスポーツ団体運営のために ガバナンスガイドブック」(日本スポーツ仲裁機構刊。共著)など。
その他経歴、肩書などは、https://wasedasportslaw.amebaownd.com/参照。
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