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厚生・労働2024年06月19日 大麻草から製造された医薬品の施用等の可能化・大麻等の不正な施用の禁止等に係る抜本改正 ~大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律~ 令和5年12月13日公布 法律第84号 法案の解説と国会審議 執筆者:木村歩

1.法案の提出と成立

大麻規制の在り方については、社会状況の変化や国際的な動向などを踏まえ、厚生労働省「大麻等の薬物対策のあり方検討会」において議論が行われ、令和3年6月25日に「大麻等の薬物対策のあり方検討会とりまとめ~今後の大麻等の薬物対策のあり方に関する基本的な方向について~」が取りまとめられた。
その中で、成分に着目した規制や大麻から製造された医薬品の施用に関する見直し、大麻の「使用」に対する罰則等についての記述が盛り込まれ、これらについて検討作業を進め、法改正等に取り組むこととされた(※1)
その後、厚生労働省「大麻規制のあり方に関する大麻規制検討小委員会」において更なる検討が行われ、令和4年9月29日には「大麻規制のあり方に関する大麻規制検討小委員会 議論のとりまとめ」が取りまとめられ、大麻取締法と麻薬及び向精神薬取締法の改正に向けた基本的な方向性が示された(※2)
これらを踏まえ、令和5年の秋の臨時国会に法案が提出され(第212回国会閣法第7号)、衆・参の審議を経て、第212回国会中のうちに原案どおり可決され、成立した。

(※1)「大麻等の薬物対策のあり方検討会とりまとめ ~今後の大麻等の薬物対策のあり方に関する基本的な方向について~」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000796820.pdf)を基に作成

(※2)「大麻規制のあり方に関する大麻規制検討小委員会議論のとりまとめ」(厚生労働省)
(https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001002508.pdf)を基に作成

2.法律の概要

(1)大麻草から製造された医薬品の施用等の可能化
  大麻から製造された医薬品の施用・受施用等を禁止する規定及びこれらに係る罰則を大麻取締法から削除した上で、大麻等を麻薬及び向精神薬取締法上の「麻薬」に位置付けることで、大麻草から製造された医薬品の施用等を可能とする。
(2)大麻等の施用等の禁止に関する規定・罰則の整備
① 大麻等を麻薬及び向精神薬取締法上の「麻薬」に位置付けることで、大麻等の不正な施用についても、他の麻薬と同様に、同法の禁止規定及び罰則を適用する。
  なお、大麻の不正な所持、譲渡し、譲受け、輸入等については、大麻取締法に規制及び罰則があったが、これらの規定を削除し、他の麻薬と同様に、「麻薬」として麻薬及び向精神薬取締法の規制及び罰則を適用する(これに伴い、法定刑も引上げ)。
② 大麻草由来製品に微量に残留するTHCの残留限度値を設定することとし、濫用による保健衛生上の危害が発生しない量として政令で定める量以下のTHC(デルタ9)を含有する物であって、THC(デルタ9)以外の麻薬を含有しないものを、麻薬から除外する。
③ 化学的変化(代謝を除く。)により容易に麻薬及び向精神薬取締法別表第一に掲げる成分を生成するものとして政令で定めるものについては、麻薬とみなして、麻薬及び向精神薬取締法の規定を適用する旨の規定を設ける。
(3)大麻草の栽培に関する規制に関する規定の整備
① 大麻取締法の題名を「大麻草の栽培の規制に関する法律」に改正する。
② 「大麻草栽培者」とは、「大麻草採取栽培者」及び「大麻草研究栽培者」をいうこととする。
③ 「大麻草採取栽培者」の免許として、「第一種大麻草採取栽培者」(都道府県知事の免許)と「第二種大麻草採取栽培者」(厚生労働大臣の免許)の区分を設ける。
  大麻草の製品の原材料として栽培する場合には「第一種大麻草採取栽培者」の免許を、医薬品の原料として栽培する場合には「第二種大麻草採取栽培者」の免許を要することとする。
④ 「第一種大麻草採取栽培者」については、THC(デルタ9)の含有量が政令で定める基準値以下の大麻草から採取した種子等を利用して栽培しなければならないこととし、違反した場合の罰則を設けるなど所要の規制を設ける。
⑤ 大麻草栽培者が、大麻草の加工(大麻草の成分の抽出等を含む。)をする場合や発芽可能な大麻草の種子を輸入する場合等について、所要の規制を設ける。
⑥ 大麻草の研究栽培を行う場合には、「大麻草栽培研究者」の免許(厚生労働大臣の免許)を要することとする。

(※1)「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律案の概要」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/content/001159661.pdf)を基に作成
(※2)「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律案要綱」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/content/001159662.pdf)を基に作成

3.国会論議の概要

 ここでは、国会での委員会審議の中から今後の解釈運用に関わり得る主な質疑を幾つか紹介することとしたい。なお、紹介する質問と答弁(厚生労働大臣、厚生労働省職員の答弁)は、いずれも、発言そのままではなく、趣旨をまとめたものである。
○総論
→ 今回の改正法案では、大麻草から製造された医薬品の施用等を可能とするために禁止規定を削除するとともに、麻薬及び向精神薬取締法における麻薬と位置付けることによって、流通規制の下でその施用や製造等を可能とすることとしている。
  また、国内で大麻事犯の検挙人員が増加している状況も踏まえ、他の規制薬物と同様に、大麻等を麻薬及び向精神薬取締法の麻薬に位置づけ、不正な施用に係る禁止規定や罰則規定を適用するもの。
  さらに、大麻草採取栽培者の免許制度の見直しを行い、大麻草に由来する製品の原材料を採取する目的の栽培と医薬品原料を採取する目的の栽培の免許区分を設けるとともに、大麻草由来製品の原材料とする目的での栽培について、安全性確保のために、有害成分が基準値以下の大麻草から採取した種子等を利用して栽培しなければならないこととするなど、所要の規制を設けることとしている。

※第212回国会・衆議院・厚生労働委員会・会議録第3号・令和5年11月10日・2ページを基に作成

○大麻取締法制定時に大麻の使用罪がなかった理由について
→ 他の薬物規制と異なり大麻に使用罪が設けられていなかった理由は必ずしも明らかではないが、まず、栽培農家が大麻草を刈る作業を行う際に、大気中に大麻の成分が飛散し、それを吸引して麻酔いという症状を呈する場合を考慮したことが一つの一因とされている。
  また、1948年の大麻取締法の制定当時は、大麻の乱用実態がなく、大麻草の栽培を免許制とすることで不正な取引を防ぐことができると考えられていたことも背景にあると認識している。
  しかし、今回の制度改正に向けて、栽培農家に対して作業後の尿検査を実施したところ、いわゆる麻酔いは生じていないということが確認された。また、昨今、我が国の薬物事犯における大麻事犯の検挙人員が増加傾向にあって、若年層の大麻乱用の拡大が顕著であることなど、現在は大麻乱用期にあると認識している。

※第212回国会・衆議院・厚生労働委員会・会議録第3号・令和5年11月10日・27ページを基に作成

○大麻の有害性に関する報告・研究成果について
→ 大麻を使用することによる短期的な悪影響としては、意識障害、認知障害、知覚障害、情緒又は行動障害、車の運転における障害、交通事故によるけがのリスクの高まりなどの報告や研究成果がある。
  定期的に大麻を使用することによる悪影響としては、大麻に対する依存のほか、青少年期や成人後の若い時期に連用する場合には、学校中退、認識機能障害、その他の薬物の違法使用、抑うつ症状などのリスクが高まるといった報告や研究成果がある。

※第212回国会・衆議院・厚生労働委員会・会議録第3号・令和5年11月10日・3ページを基に作成

○大麻取締法違反として検挙者数の推移について
→ 大麻事犯の検挙人員は、令和3年まで8年連続で増加している状況。令和4年の検挙人員は5546人で、令和3年と比べると若干減少したものの、依然として高水準にある。また、検挙人員中、30歳未満の割合が69.2%を占めるなど、若年層の大麻乱用の拡大が顕著。現在は大麻乱用期にあると考えている。
  これには様々な要因が影響していると思われるが、その一つとして、大麻に有害性はないといった誤った情報がインターネット等で流布され、主に若年層による安易な乱用につながっているものと考えている。

※第212回国会・衆議院・厚生労働委員会・会議録第3号・令和5年11月10日・3ページを基に作成

○大麻の施用罪に係る検査・判断基準について
→ 尿検査では、尿中の大麻成分の代謝物であるTHC―COOHの濃度を基準に判断をし、陽性になった場合に施用罪を適用する。
  尿中の大麻成分の代謝物濃度の基準については、研究報告の内容や、海外のガイドラインなどを参考に今後検討を進めていく。捜査に支障を来すおそれがあることから、具体的な数値を今の時点では示すことはできない。

※第212回国会・衆議院・厚生労働委員会・会議録第3号・令和5年11月10日・29ページを基に作成

→ 薬物の尿中排せつの量や期間というのは、摂取量や体内動態などの個人差によって変動することが知られている。これまでも、各鑑識機関においては、大麻以外の違法薬物について、一定の科学的根拠に基づき個人差による変動の幅を考慮した判断基準を設定した上で、尿を用いた鑑定をしてきている。今回の大麻の施用についても同様に、こうした科学的根拠に基づいた判断基準を設定して、適切に対応していきたい。

※第212回国会・衆議院・厚生労働委員会・会議録第3号・令和5年11月10日・29ページを基に作成

○大麻の施用罪と受動喫煙について
→ 大麻の意図せぬ受動喫煙については、大麻の喫煙者に比べて、一般に受動喫煙では、尿中に現れるTHC代謝物の濃度は低く、測定時の濃度により喫煙者と受動喫煙の区別は可能であるとされている。尿の鑑定により得られたTHC代謝物の濃度から、意図的に行われた不正な施用を立証することは可能と考えている。

※第212回国会・参議院・厚生労働委員会・会議録第5号・令和5年12月5日・8ページを基に作成

○大麻の施用罪に係る国外犯について
→ 麻薬関係法令において施用罪に国外犯処罰規定は適用されないため、海外で大麻を吸引しても、日本の麻薬及び向精神薬取締法の適用はされない。
  また、改正法案による大麻施用罪創設後も、大麻を海外で吸引して帰国した人については、大麻を所持していなければ、仮に尿から大麻の代謝物が検出されても、直近で海外への渡航歴があり、国内での施用を裏づける証拠がない限り、立件されることはない。
  ただし、大麻の所持や譲受け等の行為については国外犯規定が適用されるため、当該各行為が滞在国において合法でない場合は各罰則が適用される可能性がある。
  なお、現行法でも麻薬や覚醒剤には施用罪が設けられているが、海外から帰国した施用に関わる取締り上の問題は、現時点では生じていない。

※第212回国会・衆議院・厚生労働委員会・会議録第3号・令和5年11月10日・29ページを基に作成

○大麻から製造された医薬品について
→ 欧米諸国では、難治性てんかんの治療薬等として、従来の治療で十分な効果が得られない患者に対しても臨床的な効果が得られており、承認・利用されていると承知。
  我が国では、エピディオレックスという難治性てんかんの治療薬の治験が進められており、令和4年12月には最初の被験者への投与が開始された。この治験の結果も踏まえ、早ければ令和6年後半にも医薬品としての承認申請が行われるものと考えている。
  しかし、現行の大麻取締法では、大麻から製造された医薬品の施用等が禁止されており、こうした医薬品を利用することができないことから、早急に改正が必要であると認識。

※第212回国会・衆議院・厚生労働委員会・会議録第3号・令和5年11月10日・2ページを基に作成

→ 海外では、ほかにも、大麻草由来のサティベックスや合成成分由来のマリノールといったTHC含有量が高い医薬品が承認をされており、HIVの治療や多発性硬化症、がんの疼痛緩和等の治療薬の一つとして使用されている。
  今回の改正によって、これらの医薬品についても、国内での医療ニーズがあれば日本でも開発、導入することが可能となる。

※第212回国会・参議院・厚生労働委員会・会議録第5号・令和5年12月5日・12ページを基に作成

〇“医薬用大麻解禁”と言われていることについて
→ 海外で、大麻たばこの吸煙のように、大麻草を医療用途で直接施用等する場合もあることは承知しているが、今回の改正法案による大麻草の医療用途の利用方法としては、あくまでも大麻草の成分を抽出して製剤化した医薬品であって、医薬品医療機器等法に基づく承認を得たものの利用を想定している。医療用として承認を得ていないような大麻の葉の吸煙は想定していない。

※第212回国会・衆議院・厚生労働委員会・会議録第3号・令和5年11月10日・27ページを基に作成

○大麻草の栽培免許や栽培管理の基準等の明確化について
→ 産業利用のための大麻草の栽培免許については、従来どおり都道府県知事による免許となっており、各都道府県の実情に応じて実施される自治事務となっている。一方で、これまで大麻草の栽培免許について国から基準等は示していなかった。
  改正法案が成立すれば、安全性確保のため、有害成分テトラヒドロカンナビノールの濃度が基準値以下の大麻草の種子を入手すべきことが全国一律の免許基準として法律に定められるほかに、各都道府県で免許基準を設定することになることから、その際には、栽培地域の市町村との連携や栽培地の管理等の要件を設定することとし、適正な運用ができるよう、厚生労働省において、免許や栽培に関する基準等を技術的助言として示す予定。

※第212回国会・衆議院・厚生労働委員会・会議録第3号・令和5年11月10日・5ページを基に作成

○有害成分が基準値以下の大麻草の種子等を用いた栽培について
→ 今回の改正法案では、有害成分が基準値以下の大麻草の種子等を用いて栽培しなければならないこととしている。基準値については、0.2%のような海外の事例等を参考に決定する。

※第212回国会・衆議院・厚生労働委員会・会議録第3号・令和5年11月10日・49ページを基に作成

○大麻草の栽培に関する罪の国外犯について
→ 改正後も、大麻草の栽培に関する罪については、引き続き国外犯規定が適用される。
  国外犯の規定については、その行為が行われた当該外国においてもその国の法令に違反する行為であると同時に、当該行為が我が国で行われたとしたならば我が国の法令にも違反する場合に、各罰則が適用されるものと承知。
  国によって大麻草の栽培に関する規制は異なるため一概に答えることは困難だが、大麻草の栽培行為が滞在国において合法でない場合は各罰則が適用される可能性がある。

※第212回国会・衆議院・厚生労働委員会・会議録第3号・令和5年11月10日・49ページを基に作成

○部位規制から成分規制への変更について
→ 今回の改正法案では、大麻草の形状を有するものは大麻として、大麻草の形状を有しないものについては有害成分であるTHCに着目をして、残留限度値以下のTHCを含有するものを除き、規制を行うもの。
  一方で、大麻草の葉、花穂、花については、一般的に有害成分であるTHCが残留限度値以上に含まれているものであり、かつ、低THCの大麻草であっても麻薬からは除外をしていないため、それらを用いた製品は、通常、麻薬たる大麻として規制対象になる。
  その上で、大麻草の形状を有するものの解釈については法案成立後に示した上で、製品として流通可能かどうかといったものは個々の製品ごとに判断をすることになると考えている。

※第212回国会・衆議院・厚生労働委員会・会議録第3号・令和5年11月10日・38ページを基に作成

○CBD製品・THC残留限度値の検査について
→ CBDは、THCとは異なり、有害な精神作用を有しない成分である。麻薬として規制されるものではないことから、改正法案の成立後も、CBD製品は、事業者の責任において必要な検査を受けて、THCが残留限度値以下であることを確認、担保することとしている。
  その上で、市場に流通するCBD製品の安全性を担保するため、行政としては、CBD製品を買い上げて、THCの残留限度値を満たしているかの調査を行うこととしている。仮に限度値を超える製品が見つかった場合には、事業者に対して製品の回収等の指示を行うこととしている。

※第212回国会・衆議院・厚生労働委員会・会議録第3号・令和5年11月10日・7ページを基に作成

→ 事業者が検査機関に検査を依頼した場合には、どの検査機関でも同じ検査結果が得られるようにする必要があるため、THCの含有量に係る統一的な検査方法を国で定めて公表することとしている。今後、海外の事例も参考にしつつ、専門家の意見を伺いながら、公布の日から1年以内の法律施行日までに公表をする予定。
  また、検査機関については、例えば食品であれば食品衛生法に基づく既存の登録検査機関等に、麻薬研究者免許を取得した上で実施をしてもらうことを想定しているが、検査事業者を登録制や指定制にするということは考えていない。国が定めた検査方法を実施できる海外検査事業者を排除することも考えていない。

※第212回国会・衆議院・厚生労働委員会・会議録第3号・令和5年11月10日・39ページを基に作成

○CBDの化粧品について
→ 化粧品に配合できる成分は、化粧品基準により定められており、医薬品の成分は化粧品に配合してはならないこととされた上で、個別に配合制限成分としてポジティブリストに掲げられたものに限って、掲げられた最大配合量の範囲で配合するということが認められている。
  化学合成由来のCBDを配合する化粧品は現在でも市場流通をしているところ、それ自体は、今般の改正法による改正後も、この取扱いは直ちには変わらない
  今後、この改正法によって、CBDを有効成分とする医薬品が我が国で承認された場合には、この化粧品基準を改正し、一定量以下のCBD成分をポジティブリストに位置づけた上で市場に流通をさせるということになると考えている。

※第212回国会・衆議院・厚生労働委員会・会議録第3号・令和5年11月10日・40ページを基に作成

○CBD製品の輸入について
→ 現在、CBD製品の輸入に当たっては、関東信越厚生局麻薬取締部において、CBD成分が大麻草の規制部位から採取されたものではないといったこと等の確認を行った上で、大麻に該当しないものとして輸入を認めているところ。
  今回の改正法案では、CBDなどの大麻草の成分を抽出したものについては、部位による規制から成分による規制へと変更になる。どの部位から採取したものかの確認は不要となるので、今後は、CBDに含有されるTHCが残留限度値以下であることを確認するという形になる。

※第212回国会・衆議院・厚生労働委員会・会議録第3号・令和5年11月10日・40ページを基に作成

○残留基準値を超えたCBD製品を知らずに流通させてしまった場合について
→ 限度値を超えるTHCは、麻薬及び向精神薬取締法で指定する麻薬に該当するため、麻薬譲渡罪等が適用される可能性はある。ただ、犯罪の成否については、収集された証拠に基づき個別に判断されるべき事柄であるため一概に答えることは困難だが、一般論として言えば、麻薬の譲渡罪等は故意犯であるため、故意にTHCを譲渡等したと認められない場合には、麻薬の譲渡罪等は成立しないものと考えている。

※第212回国会・参議院・厚生労働委員会・会議録第5号・令和5年12月5日・19ページを基に作成

○残留基準値を超えたCBD製品を消費者が知らずに購入してしまった場合について
→ 残留基準値を超えたCBD製品が見付かった場合には、法律違反状態を解消するために事業者に対して製品の回収等を行わせるということとしているが、消費者については、事業者への返却又は保健所等に相談をするようにと指導を行うこととしている。
  麻薬の取扱い資格を持たない者が麻薬を所持するということになると、麻薬及び向精神薬取締法上の麻薬所持罪が適用される可能性はある。しかし、個別に判断されるべき事柄であるため一概に答えることは困難だが、一般論として言えば、麻薬の所持罪は故意犯であるため、故意にTHCを所持したと認められない場合には、麻薬の所持罪は成立しないものと考えている。

※第212回国会・参議院・厚生労働委員会・会議録第5号・令和5年12月5日・19ページを基に作成

4.その後について

 本法は、原則として、公布後1年以内で政令で定める日から施行される。
 法案の可決の際、衆・参の委員会においてなされた附帯決議には、上記で取り上げたような国会での質疑に関係する項目が盛り込まれたほか、大麻の不正な施用をした者の相談の体制整備(※1)、大麻を含む薬物依存症者に対する社会復帰等の支援(※2)、大麻を不正に施用した若者等の治療や回復、更生等(※3)、違法薬物の使用等に関する相談(※4)に関する項目も盛り込まれた。
 現在、この法律の施行に係る関係政令等の制定作業が行われており、その案についてパブリックコメントが行われている(※5)。今後、どのような内容のものとなるか、注目される。

(※1)「大麻の不正な施用に対する罰則の適用について、不正施用の背景には社会的孤立等の事情が多く見られ、犯罪者として差別されることで不正施用について周囲の者に一層相談しづらくなる旨の指摘があること、必ずしも知識不足ではなく人間関係のプレッシャーから拒否できずに薬物使用に至ることもあること等の指摘があることを踏まえ、教育プログラム、治療プログラム、就労支援プログラム等への自発的な参加等を促し、大麻不正施用者が安心して相談できる体制整備等について検討すること」
(※2)「我が国の薬物乱用対策は、違法薬物に手を出さない一次予防に重きが置かれた結果、薬物依存症者に対する差別を助長しているのではないかとの指摘があることを踏まえ、今後の対策に当たっては、一次予防のみならず、違法薬物を使用してしまった者の早期発見及び早期介入並びに早期治療を行う二次予防、薬物依存症者に対する再発防止や社会復帰等を支援する三次予防についても配慮して実施すること。また、啓発が薬物依存症者への偏見を助長し、本人やその家族の孤立を招いているとの指摘があることを踏まえ、これらの者に配慮した啓発方法の検討を行うこと」
(※3)「本改正に当たっては、大麻を不正に施用した若者等を治療や回復、更生につなげるとの考え方も踏まえた法運用を行うこと。この際、社会復帰の妨げとなることへの懸念も踏まえて関係機関は適切に対応すること」
(※4)「医療機関・相談支援機関・大学等教育機関には、違法薬物の使用等に関する相談について、守秘義務等があることを前提に、本人やその家族等が、直ちに捜査機関に通報されるといった不安を抱くことなく安心して相談できるよう、引き続き利用しやすい相談支援体制が整備拡充されるよう周知すること。また、薬物依存症の治療や違法薬物の使用等に関して相談できる機関を分かりやすい形で幅広く周知すること」

(※1~※4)出典:「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(案)」(附帯決議案提出者)(第212回国会・参議院・厚生労働委員会・会議録第5号・令和5年12月5日)

(※5)参考:
①「大麻草の栽培の規制に関する法律施行令案に関する御意見の募集について」(e-Govパブリックコメント)(https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495240035&Mode=0)(令和6年6月4日に利用)
②「第一種大麻草採取栽培者免許申請の審査に当たっての考え方(案)に関する御意見の募集について」(e-Govパブリックコメント)(https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495240038&Mode=0)(令和6年6月4日に利用)
③「「大麻由来製品に含まれるΔ9-THC の標準的な分析法(案)」に関する御意見の募集について」(e-Govパブリックコメント)(https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495240037&Mode=0)(令和6年6月4日に利用)
④「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備に関する政令案に関する御意見の募集について」(e-Govパブリックコメント)(https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495240036&Mode=0)(令和6年6月4日に利用)
⑤「「第二種大麻草採取栽培者免許申請の審査に当たっての考え方(案)」及び「大麻草研究栽培者免許申請の審査に当たっての考え方(案)」に関する御意見の募集について」(e-Govパブリックコメント)(https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=
495240039&Mode=0)(令和6年6月4日に利用)

(2024年6月執筆)
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