カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

一般2018年03月01日 民泊の法制度化による規制 法案の解説と国会審議 執筆者:高澤和也

住宅宿泊事業法(法律第65号 平成29年6月16日公布)
旅館業法の一部を改正する法律(法律第84号 平成29年12月15日公布)

1.法案の提出と成立

いわゆる民泊サービスが急速に広まる中、東京オリンピック・パラリンピックの開催等に伴う宿泊需要への対応や、空き家対策などのためにこれを活用する一方、不適切なサービスに対する規制を強化する必要があるとされ、新たな枠組み作りが求められていた。
これまで、民泊を反復継続して有償で行う場合には、旅館業法の許可が必要であったが、実態上許可を受けない違法な民泊も行われていた。この点、国家戦略特区において、先行して、一定の規律をかけつつ同法の許可なしで営業を行い得る仕組み(特区民泊)が採られてきたこと等を踏まえ、政府の「規制改革会議」と、観光庁・厚生労働省が事務局となる「『民泊サービス』のあり方に関する検討会」において、新たな枠組みの検討が行われた。
その結果、民泊サービスにつき“適切な規制をかけつつ活用するための仕組み”として「住宅宿泊事業法」の法案が、また、“不適切なサービスに対する規制の強化”をするとともに、“旅館業の規制について民泊サービスへの規制とのバランスを図る”観点のものとして「旅館業法の一部を改正する法律」の法案が、それぞれ取りまとめられ、平成29年の通常国会(第193回国会)に提出された。
住宅宿泊事業法案については、同国会中に成立したが、旅館業法の改正法案については、次の第194回国会に継続し、衆議院の解散に伴って一旦廃案となった。その後、総選挙後の特別国会(第195回国会)に改めて提出され、成立した。いずれも、平成30年6月15日に施行される。

2.住宅宿泊事業法の概要

(1) 民泊サービスの届出制の創設
① 住宅宿泊事業(一定の「住宅」で、旅館業の許可なしに行われる有償の宿泊事業で、年間宿泊提供日数が180日を超えないもの※1)について、「届出」※2により適法に営業を行うことができる制度を創設
※1 日数の上限については、地域の実情に応じて条例で短縮することが可能
※2 届出先は、原則、都道府県(都道府県と協議の上、保健所設置市(政令市、中核市等)又は特別区が届出を受け付ける場合がある)
② 住宅宿泊事業のうち「家主居住型」のものは、その事業者に次の措置を義務付け
→ (a) 衛生確保措置、(b) 災害時の安全確保措置、(c) 利用方法・交通手段についての外国語での説明等、(d) 宿泊者名簿の備付け等、(e) 騒音防止等のための説明、(f) 苦情対応
→ (g) 宿泊契約の仲介を委託する場合には、旅行業法の登録を受けた旅行業者又は「住宅宿泊仲介業者」(下記(3)①の登録を受けた者)に委託
→ (h) 標識の掲示、(i) 年間宿泊提供日数の報告
③ 住宅宿泊事業のうち「家主不在型」のものは、その事業者に対し、②(a)~(f)の措置を「住宅宿泊管理業者」(下記(2)①の登録を受けた者)に委託することを義務付け(残りの②の措置は、住宅宿泊事業者自らが実施)
④ 都道府県知事(又は保健所設置市・特別区)は、住宅宿泊事業者に係る監督を実施
→ 報告徴収・立入検査、業務改善命令・業務停止命令、事業廃止命令が可能
(2) 住宅宿泊管理業の登録制の創設
① 住宅宿泊管理業(家主不在型の住宅宿泊事業者から委託を受け、(1)②(a)~(f)の措置等を実施)を有料で営もうとする者に対し、国土交通大臣の登録を受けることを義務付け
② 住宅宿泊管理業者には、(1)②(a)~(f)の措置の代行、委託元の住宅宿泊事業者に対する委託契約の内容の説明などを義務付け、誇大広告等を禁止
③ 国土交通大臣は、住宅宿泊管理業者に係る監督を実施
→ 報告徴収・立入検査、業務改善命令・業務停止命令、登録取消しが可能
(3) 住宅宿泊仲介業の登録制の創設
① 住宅宿泊仲介業(旅行業の登録を受けずに、有料で、住宅宿泊事業者と宿泊者との間の宿泊契約の締結を仲介)を営もうとする者に対し、観光庁長官の登録を受けることを義務付け
※ 日本に事務所等のない外国業者も登録制の対象
② 住宅宿泊仲介業者に対し、業務約款の届出・掲示、仲介手数料の公示、宿泊者への契約内容の説明などを義務付け
③ 観光庁長官は、住宅宿泊仲介業者に係る監督を実施
→ 報告徴収・立入検査、業務改善命令・業務停止命令(外国業者には「命令」でなく「請求」)、登録取消しが可能
(4) 罰則の整備
① 住宅宿泊管理業を未登録で営んだ者についての罰則を整備
※ 住宅宿泊事業を(1)の届出をせずに営んだ者は「旅館業法」、住宅宿泊仲介業を未登録で営んだ者は「旅行業法」の罰則で処罰
② その他、虚偽届出、不正登録、(1)④・(2)③・(3)③の命令の違反等につき罰則を整備

3.旅館業法の一部を改正する法律の概要

(1) 無許可営業その他旅館業法の違反に対する罰則の強化
→ 無許可営業(住宅宿泊事業を2(1)の届出をせずに営んだ場合も含まれる)
現在:6月以下の懲役又は3万円以下の罰金
改正:罰金の上限を100万円に引き上げ、6月以下の懲役と併科可能にする
→ 宿泊者名簿の備付け義務の違反、不当な宿泊拒否、報告徴収・立入検査の拒否など
現在:2万円以下の罰金
改正:罰金の上限を50万円に引き上げる
(2) 無許可営業者に対する都道府県知事等による行政取締の権限の整備
→ 緊急時の命令権限と、その前提となる報告徴収・立入検査の権限を整備
(3) 「ホテル営業」と「旅館営業」の営業種別の統合
→ 両者を区別することの合理性が薄れてきているとの指摘を受け、「旅館・ホテル営業」として一本化(併せて、政令の見直しにより、構造設備の基準の緩和を行う)
(4) 旅館業の許可の欠格要件の追加
→ 暴力団排除規定等、住宅宿泊事業者の欠格要件として住宅宿泊事業法に規定された内容と同じ内容の規定を整備

4.国会論議の概要

両法案について、今後の解釈運用に関わり得る主な質疑を幾つか紹介する。なお、紹介する質問と答弁(関係省庁の答弁)は、いずれも、発言そのままではなく、趣旨をまとめたものである。
【住宅宿泊事業の対象となり得る「住宅」の範囲(2(1)①)関連】
○ 「住宅」は、「人の居住の用に供されていると認められる」ことが要件。具体例如何
→ 生活の本拠たる住宅で短期的な宿泊事業を行うものは、対象となる
→ 空き家は、宿泊に適した状態に管理がなされていない場合は対象とならない。適切な維持管理をしながら入居者の募集をしているもの等は、対象となり得る
入居者の募集の有無は、事業の届出の際、チラシ等を出させることで確認する予定
→ 入居者の募集がされない民泊専用マンション等は、対象外。賃貸・分譲が目的の新築マンション等で、真摯に募集を行ったが借り手や買手が付かず一時的に民泊に用いられるようなものは、対象になり得る
→ その他、別荘など、生活の本拠ではないがこれに準ずるものとして所有者が随時使用している施設で、短期的な事業を行うことは、想定される
【年間宿泊提供日数の制限(2(1)①)関連】
○ いわゆる時間貸しは可能か
→ 風俗営業等、趣旨とは異なる形で用いられるおそれが高く、認めていない。宿泊者の滞在が短時間となった場合でも、1泊とカウントし、翌日まで客を入れることはできない
○ 日数を短縮する条例を定める際、一定区域では日数をゼロとし、住宅宿泊事業が実施できないようにすることは可能か
→ 一定区域での事業の実施を全て制限することは、法の目的に合わず、適切でない
【宿泊者名簿の備付け義務(2(1)②(d))関連】
○ 「家主不在型」の場合に、名簿に記載する際の本人確認(旅券の確認)を直接対面せずに行う余地
→ 住宅宿泊管理業者が近隣ホテルや24時間営業の店舗に本人確認を再委託する方法のほか、カメラを用いた映像で確認する等のICTによる方法が想定されており、ガイドラインで示す予定
<参考>“住宅の鍵開け”についても、“ランダムに変更されるナンバーキーを電子メール等で送付して電子錠の解錠を行うような方法も想定されている”との答弁あり
○ 連泊者の本人確認をどう行うか
→ 定期的な巡回や清掃の機会に、出入りする者が本人かどうかを含め、状況確認する予定。また、観光庁に設置予定の苦情受付窓口で違法を把握した場合には、指導監督を行う
【住宅宿泊仲介業の登録義務を負う者(2(3)①)関連】
○ ホームステイが有料で行われる場合、その仲介をする留学支援事業は、登録が必要か
→ 有料のホームステイは、報酬性・事業性を持つ可能性あり。ホストファミリーが住宅宿泊事業として行う場合に、その仲介事業を報酬を得て行うときは、既に旅行業法の登録を受けていないのであれば、住宅宿泊仲介業者の登録が必要
【その他】
○ マンションの管理規約の改正により住宅宿泊事業を制限する手法についての周知の方法等
→ 国交省で作成・公表している標準管理規約につき、民泊を許容する場合の改正例と、禁止をする場合の改正例を示している
<参考> http://www.mlit.go.jp/report/press/house06_hh_000146.html
→ 管理規約上に禁止するか否かが明定されていない場合は、事業の届出の際に、管理組合として禁止の方針が決定されていない旨を確認することとしている
○ 住宅宿泊事業につき、旅館業の宿泊拒否制限(旅館業法5条)と同様の規律を課さない理由
→ 女性の民泊提供者が宿泊者を女性に限定する、静謐の保持のために宿泊者の年齢をある程度制限する、苦情処理等の義務の遵守のため自ら理解・説明できる外国語を母国語とする旅行者に限定するなど、民泊提供者の裁量を認めることも適当であると考えられるため
○ 既存の国家戦略特区の特区民泊の扱い
→ 法案で創設する制度とは、要件に違いがあり、異なる特性があることから、併存させる
○ 食事の提供付きで住宅宿泊事業を行う場合に、食品衛生法の許可が必要か
→ 食品衛生法の許可は、都道府県等の自治事務。都道府県等には、弾力的な運用をするよう助言を行った過去の例を踏まえ、技術的助言を行うことを検討

5.今後について

国会審議では、4で紹介したもののほか、住宅宿泊事業者の義務違反の取締り体制への懸念等も示されており、委員会における法案可決の際、行政による監督体制の充実等を求める附帯決議が行われている(住宅宿泊事業法案については衆参両院の国土交通委員会で、旅館業法の一部を改正する法律案については参院の厚生労働委員会で、それぞれ決議が行われている)。また、“旅館業の規制について民泊サービスへの規制とのバランスを図る”観点から、課税面で民泊だけ優遇されることにならないか等の質疑もあり、関連制度の更なる見直し議論の可能性が注目される。
なお、施行に向けて、「住宅宿泊事業法施行要領(ガイドライン)」が取りまとめられ、公表されているので、参照されたい。
http://www.mlit.go.jp/kankocho/news06_000344.html
また、両法律の制定に先立ち、政令以下のレベルで、旅館業法上の簡易宿所営業等の基準の見直しもされているので、こちらも、参照されたい。
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000126024.pdf

関連カテゴリから探す

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索