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相続・遺言2020年03月17日 相続法制の約40年ぶりの大幅見直し ~民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律・法務局における遺言書の保管等に関する法律~ 平成30年7月13日公布 法律第72号・第73号 法案の解説と国会審議 執筆者:高澤和也

1.法案の提出と成立

相続をめぐっては、高齢化により相続開始時の配偶者の年齢が高くなっていること、少子化により1人の子が取得する財産が増えていること等から、相対的に配偶者の保護の必要性が高まっていると言われてきていた。そうした中、“嫡出でない子の相続分”の見直しが行われたことを契機に、昭和55年以来大きな改正がされてこなかった相続法制について、見直しの動きが本格化した。
具体的には、まず、①法務省内の相続法制ワーキングチームによる検討が行われ、その報告書が取りまとめられた(平成27年1月)。次に、これを踏まえ、②法制審議会への諮問・同審議会での議論が行われた(同審議会からは平成30年2月に答申がなされた。)。
その後、審議会答申に基づいて立案された「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律案」が、平成30年の常会(第196回国会)に提出された(閣法第58号)。
この相続法制の見直しには、配偶者の保護のほか、相続をめぐる紛争の防止など、多様な観点からの改正が盛り込まれたが、特に紛争の防止の観点では、民法自体の見直しに加え、公的機関が遺言書を保管する新制度の整備も行うこととされた。そのための法案が「法務局における遺言書の保管等に関する法律案」であり、同じく平成30年の常会に提出されていた(閣法第59号)。
両法案は、国会で一括して審議され、平成30年7月に成立・公布された。

2.法改正・新法の概要

(1) 配偶者の居住権の保護に関する見直し(令和2年4月1日施行)

① 配偶者居住権の新設
配偶者が相続開始時に居住していた建物について、その配偶者が、終身又は一定期間、無償で使用及び収益をすることができる権利を創設する。
→ 権利発生には、その旨の遺産分割、遺贈又は死因贈与が必要。登記を備えれば、第三者にも対抗可能。
→ 配偶者は、所有者の承諾を得なければ、第三者に使用又は収益させることはできない。
② 配偶者短期居住権の新設
被相続人の意思にかかわらず配偶者の短期的な居住の権利を保護するため、配偶者が相続開始の時に遺産に属する建物に無償で居住していた場合に、遺産分割により建物の帰属が確定する日までの間などの一定期間、その配偶者が無償でその建物を使用できることとする。

(2) 遺産分割等に関する見直し(令和元年7月1日施行)

① 持戻し免除の意思表示推定規定の創設
婚姻期間が20年以上の夫婦について、その一方が他方に居住用不動産の遺贈又は贈与をした場合には、持戻し免除の意思表示(遺贈又は贈与に係る財産の価額を相続分から控除することを要しない旨の意思表示)があったものと推定する規定を設ける。
② 遺産分割前の預貯金の払戻し制度の創設等
葬儀費用等の各種の資金需要への迅速な対応を可能とするため、遺産に属する預貯金債権の一部について、各共同相続人が、遺産分割前に、裁判所の判断を経ることなく行使することができる制度を創設する。
あわせて、預貯金債権の仮分割の仮処分の要件を緩和する。
③ 一部分割の明文化
共同相続人がどのような場合に遺産の一部の分割を行い得るかにつき、明文の規定を設ける。
④ 遺産分割前に遺産に属する財産の処分がされた場合の規律の整備
遺産分割前に、遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人が処分した場合に、その者が処分がなかった場合と比べて利得することのないよう、遺産分割の中で調整を容易にするための規定を設ける。

(3) 遺言制度に関する見直し

① 自筆証書遺言の方式緩和(令和元年1月13日施行)
全文を自書しなければならないとされていた方式について、財産目録を添付する場合には、その目録については自書しなくてよいこととする(目録の各ページへの署名押印は必要)。
② 遺言執行者の権限の明確化(令和元年7月1日施行)
遺言執行者の権限の内容についての紛争を防止するため、遺言施行者の職務が遺言内容の実現にあることを明示するほか、次の改正等を行う。
・ 特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言)による法定相続分を超える権利承継について対抗要件主義を導入すること(下記(5)①)に伴い、遺言執行者が、特定財産承継遺言に係る権利承継に関し、原則として受益相続人のために対抗要件を備える権限を有することを明確化
・ 預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的となっている場合に、遺言執行者が、原則として、預貯金の払戻しや預貯金契約の解約の申入れをする権限を有することを明確化
③ 公的機関における自筆証書遺言の保管制度の創設(法務局における遺言書の保管等に関する法律。令和2年7月10日施行)
・ 遺言者は、法務局に、自筆証書遺言(無封のもの)の保管を申請することができる。
→ 本人確認等の手続を経て、当該遺言書が法務局に保管される。保管されている遺言書については、その画像の記録等も行われる。
→ 法務局に保管されている遺言書については、家裁による検認が不要となる。
→ 遺言者は、その遺言書を保管している法務局に対し、遺言書の閲覧又は返還(保管の申請の撤回)を請求することができる。
※ 保管の申請、閲覧又は返還の請求は、遺言者が自ら法務局に出頭して行う。
・ 上記の手続により遺言書が保管されている遺言者に係る相続人、受遺者、遺言執行者等は、その遺言者の死亡後、法務局に対し、a) その遺言書の画像情報等を用いた証明書の交付、b) その遺言書原本の閲覧を請求することができる。
→ a)の証明書の交付又はb)の閲覧が行われたときは、他の相続人等に対し、遺言書が保管されている旨の通知が行われる。
・ これらのほか、自らが相続人等となっている遺言書が法務局に保管されているかどうかを照会するための手続も整備する。

(4) 遺留分制度に関する見直し(令和元年7月1日施行)

① 金銭債権化等
遺留分に関する権利の行使によって生ずる権利を金銭債権化する。
これに併せて、遺留分権利者から金銭請求を受けた受遺者又は受贈者がすぐに金銭を準備することができない場合に、裁判所が、金銭債務の全部又は一部の支払について相当の期限を許与することができることとする。
② 遺留分算定方法の見直し
遺留分算定の基礎財産の価額に算入する「贈与」の範囲について、原則、次のようにする。
→ 第三者に対する贈与の場合は、相続開始前の1年間にされたものを参入
→ 相続人に対する贈与の場合は、相続開始前の10年間にされたものを参入
③ 遺留分侵害額の算定に関する見直し
遺留分権利者が承継した相続債務について、遺留分侵害額の請求を受けた受遺者又は受贈者が弁済等により消滅させたときは、当該受遺者又は受贈者の請求により、当該債務を遺留分侵害額に加算しないようにすることを可能にする。

(5) 相続の効力等に関する見直し(令和元年7月1日施行)

① 対抗要件主義の適用
相続による法定相続分を超える権利の取得について、それが遺産分割によるものかどうかにかかわらず、登記等の対抗要件を備えなければ第三者に主張することができないこととする。
② 債務の承継に関する規律の整備
債務の承継につき相続分の指定がされた場合について、相続債権者が各共同相続人に対し、法定相続分に応じた権利行使のほか、指定相続分に応じた権利行使を行うことも認めることとする(いったん後者を選ぶと前者を選択することは不可)。
③ 遺言執行者がいる場合における取引の安全等のための規律の整備
・ 相続人がした遺言の執行を妨げる取引行為について、原則無効としつつ、善意の第三者にはその無効を対抗することができないこととする。
・ 相続債権者又は相続人の債権者が、相続財産に対して差押え等の権利行使をしたときは、遺言執行者の有無に関する認識にかかわらず、その権利行使が妨げられない旨を明示する。

(6) 相続人以外の者の貢献に報いるための見直し(令和元年7月1日施行)

相続人以外の被相続人の親族が、無償で被相続人の療養看護等を行った場合には、一定の要件の下で、相続人に対して金銭請求をすることができる制度(「特別の寄与」の制度)を創設する。

3.国会論議の概要

 両法案についての国会での委員会質疑の中から、今後の解釈運用に関わり得る主な質疑を幾つか紹介する。なお、紹介する質問と答弁(法務大臣政務官又は法務省職員の答弁)は、いずれも、発言そのままではなく、趣旨をまとめたものである。

(1) 配偶者居住権(上記2(1)①)に関する論議

○配偶者居住権の対象を法律婚の配偶者に限定した理由
→ 配偶者居住権は基本的には遺産分割等における選択肢を増やす趣旨で創設したもの。事実婚の配偶者は、そもそも相続権を有していないという前提を見直さない限り、配偶者居住権を取得させることはできない。
仮に事実婚の場合にも権利の取得を認めると、事実婚の配偶者に当たるか否かをめぐって紛争が複雑化、長期化するおそれもあると考えられる。(第196回国会参議院法務委員会会議録第19号)
○配偶者居住権の創設により想定される問題点
→ 留意点としては、例えば、配偶者居住権の登記前に居住建物が第三者に譲渡され第三者が登記を具備した場合には、第三者に配偶者居住権の取得を対抗できない。また、配偶者居住権が設定された場合の固定資産税について、通常の必要費に該当するので、配偶者と建物所有者との内部関係では、配偶者の負担となる。(第196回国会衆議院法務委員会議録第19号)
※ その他、建物の修理費用が配偶者の負担となる旨の答弁もあり。
○居住建物の建替えがあった場合の配偶者居住権
→ 居住建物を取り壊して新築する場合には配偶者居住権は消滅。もっとも、居住建物の所有者は、配偶者に対して居住建物を使用及び収益させる義務を負っているので、配偶者の意思に反して取り壊すことはできない。建替えの際に、例えば新築建物に対して借家権を設置することとして建替えに同意してもらう等、様々なことが可能。(第196回国会参議院法務委員会会議録第21号)
○長男が相続した不動産に母親とともに次男が居住する場合の権利の成否
→ 一般的には、次男が占有補助者というような扱いになれば、権利の成否には影響を与えないのではないか。(第196回国会衆議院法務委員会議録第19号)
○店舗兼住宅に居住していた場合の店舗部分の扱い
→ 店の営業も配偶者の生活の一部と考えられ、そういった生活環境の急激な変化を緩和する必要がある。配偶者の居住部分だけではなく、配偶者が無償使用していた全ての部分に及ぶという形で権利を設定することも可能。(第196回国会衆議院法務委員会議録第19号)
○土地収用法による収用の際、配偶者居住権を行使している配偶者が補償の対象となるか
→ そういった対象になるというふうに理解。(第196回国会衆議院法務委員会議録第19号)

(2) 自筆証書遺言の保管制度(上記2(3)③)に関する論議

○申請に対する法務局のチェック方法
→ 民法968条の定める方式に適合するか否かについて外形的な確認を行う。また、出頭した遺言者に自署したことの確認を求める予定。(第196回国会衆議院法務委員会議録第19号)
○遺産分割後に自筆証書遺言が法務局に保管されていたことを知った場合の処理
→ 一般論としては、一律に遺産分割協議の効力が否定されるものではないと考えられる。
もっとも、例えば、相続人が遺言の存在と内容を知っていればそのような遺産分割協議をしなかった蓋然性が高いというようなケースは、錯誤によって遺産分割協議の合意をしたとして、協議が無効となることもあり得ると考えられる。(第196回国会衆議院法務委員会議録第19号)
○遺言書を保管している旨を法務局が積極的に通知する必要性
→ 遺言者の死亡時に通知する仕組みを実現することは重要。最も確実な方法は、戸籍等により死亡の事実を把握し、速やかに通知を行うこと。令和2年以降に、登記簿と戸籍等との連携を目指してシステムを改修することを検討しており、これにあわせて、本制度についても、戸籍等と連携するシステムを設けることを目指したい。(第196回国会衆議院法務委員会議録第19号)

(3) 遺留分に係る金銭債務の支払についての期限の許与

○期限の許与がされる場合の例・「相当の期限」の例
→ 個々のケースにおける裁判所の判断だが、例えば、目的財産が直ちには換価が難しい財産で、受遺者等に十分な資力がない場合が考えられる。期限については、受遺者等の資力や遺贈の目的財産等を売却するなどして資金を調達するのに要する通常の期間などを考慮した上で適切な期間が定められると考えられる。(第196回国会参議院法務委員会会議録第21号)
○分割払が認められるか
→ 期限の許与に関する規定は、明示的に分割払を許容する規定にはなっていない。もっとも、個々のケースにおける裁判所の判断だが、全体のうち一定の額の期限と、残りの額の期限を異ならせる裁判をすることも否定はされていない。(第196回国会参議院法務委員会会議録第21号)

(4) 相続人以外の者の「特別の寄与」(上記2(6))に関する論議

○対象を親族に限った理由
→ 法制審議会で、紛争の複雑化、長期化を懸念する指摘がされており、そのような事態をできる限り防止するためには請求権者の範囲を限定する必要が高いと考えられた。また、この制度は、被相続人と近しい関係にある者が被相続人との間で療養看護等の報酬の契約を締結すること等が類型的に困難であることに鑑み、その保護を目的として創設するものであるから、範囲の限定に合理性があると考えられた。(第196回国会参議院法務委員会会議録第19号など)
※ その他、事実婚や同性婚のパートナーも「特別の寄与」の対象にすべきとの質疑もあった。

(5) その他(審議会の関係部会で途中まで議論されていたテーマに関するもの)

○配偶者の相続分の引上げが行われなかった理由
→ 法制審議会で多くの異論や問題点の指摘があった。特に、高齢者同士の再婚の増加等に照らし、配偶者の相続分を一律に引き上げるのは相当でなく、配偶者の貢献の程度を考慮する必要があるが、それを考慮しようとすると、紛争が過度に複雑化、長期化するとの懸念が示された。他方で、婚姻期間等によって貢献の程度を形式的に判断することについては、婚姻関係が実質的に破綻している場合に相当ではないとの指摘等もされた。パブリックコメントでも反対意見が多数。(第196回国会衆議院法務委員会議録第19号)
○遺産分割に先立って「実質的夫婦共有財産」の精算を求め得る制度が採用されなかった理由
→ 法制審議会の部会で、実質的夫婦共有財産に当たるか否かの判断は必ずしも容易ではなく、このような概念を用いて配偶者の貢献の程度を実質的に考慮しようとすると、紛争が過度に複雑化、長期化するのではないかとの懸念が示された。また、パブリックコメントでも反対意見が多数。(第196回国会参議院法務委員会会議録第19号)

4.今後について

 国会審議では、解釈運用を確認する質疑のほか、将来的な課題を指摘する質疑も多く見受けられた。そのうち、①多様な家族の在り方を尊重する観点からの検討、②遺言書を保管している旨を法務局が積極的に通知する仕組みの構築などについては、衆参両院の委員会において附帯決議が行われている。
 また、附帯決議では、国民生活への影響を懸念し、周知徹底に努めることも求めている。令和2年夏の自筆証書遺言の保管制度の施行に至るまで、十分な広報活動が行われることが期待される。

(2020年2月執筆)

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