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企業法務2021年08月11日 公益通報の実効性確保のための初の本格的改正 ~公益通報者保護法の一部を改正する法律~令和2年6月12日公布 法律第51号 法案の解説と国会審議 執筆者:高澤和也

1.法案の提出と成立

 公益通報者保護法については、平成16年の成立の際、検討条項が定められ、「通報者の範囲」、「通報対象事実の範囲」、「外部通報の要件」等について再検討を行うこととされていた。これを受け、平成22年には、「消費者委員会」に設けられた「公益通報者保護専門調査会」での検討が始められたが、法改正についての合意は得られなかった。
 その後も、消費者庁による実態調査を経て、平成27年に同庁に設置された「公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会」において更なる検討が行われたが、一部項目についての法改正の合意はなされたものの、実際の法改正の実現には国民の議論の喚起が必要とされた。
 平成30年になって、消費者委員会の公益通報者保護専門委員会での検討が再開され、その年末に最終報告書がまとめられており、それが今回の法改正の基となっている(同年12月26日「公益通報者保護専門調査会報告書」)。報告書の内容は、パブリックコメント等を経て法律案に練り上げられ、令和2年の常会(第201回国会)に国会に提出された。
 法案は、衆議院で一部修正された後(検討条項の検討項目の追加)、参議院で可決され、第201回国会中のうちに成立した。

2.法改正の概要

(1) 「公益通報」の範囲の見直し
① “通報者”に次の者を追加する。
・ 退職後1年以内の者
・ 過去1年以内に、派遣労働者・請負事業等の従事者であった者
・ 役員
② 「通報対象事実」に、行政罰(過料)の対象となる規制違反行為を追加する。
③ 通報先について、権限を有する行政機関が通報先として指定した者への通報も公益通報に当たることを明確化する。
(2) “保護の内容”の見直し
  公益通報をした労働者等を保護するための手法として、通報を理由として事業者が被る損害についての賠償責任の免除を追加する。
※ 公益通報をした役員については、a) 公益通報を理由とする不利益取扱いの禁止(解任を除く)、b) 公益通報を理由に解任された場合の損害賠償請求、c) 通報を理由として事業者が被る損害についての賠償責任の免除が定められる。
(3) 内部通報(1号通報)の実効性確保
① 事業者に対し、次の事項を義務付ける。
・ 公益通報対応業務を行う者(刑事罰で担保される守秘義務を負う)を定めること。
・ 内部通報に適切に対応するために必要な体制を整備すること。
※ 中小企業の事業者(常時使用する労働者が300人を超えない事業者)については、努力義務に緩和
② 内閣総理大臣が、①の義務の内容を具体化する指針を定めることとする。
③ ①の義務の履行確保のため、勧告、勧告に従わない場合の公表等の権限を内閣総理大臣に付与する。
(4) 外部通報の実効性確保
① 権限を有する行政機関等への通報(2号通報)について、通報対象事実の真実相当性の要件(真実であると信じるに足りる相当の理由)を満たさない場合でも、通報者が氏名等の一定の事項を記載した書面を提出する形で通報する場合には、保護の対象とする。
※ 役員による通報の場合は、通報対象事実の真実相当性の要件は必須。さらに、原則として、通報対象事実の調査・是正のための措置をとるよう努めたことも要件とされる。
② 行政機関に対し、公益通報に適切に対応するために必要な体制の整備を義務付ける。
※ (3)①の※同様、職員が300人を超えない場合には努力義務
③ 報道機関等への通報(3号通報)について、通報対象事実の真実相当性の要件に加えて求められる“特別の事情”の要件を見直し、次の場合も“特別の事情”として認められることとする。
a) 内部通報をすると、通報者を特定させる事項が事業者内部で漏れると信じるに足りる相当の理由がある場合
b) 財産に対する回復困難又は重大な損害が発生し、又はその窮迫した危険があると信じるに足りる相当の理由がある場合
※ 役員による通報の場合は、“特別の事情”として認められるものの範囲が一部狭められているほか、原則として、通報対象事実の調査・是正のための措置をとるよう努めたことも要件とされる。
(5) 施行期日
 公布日(令和2年6月12日)から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日から施行。

3.国会論議の概要

ここでは、国会での委員会審議の中から今後の解釈運用・将来的な制度改正に関わり得る主な質疑を幾つか紹介することとしたい。なお、紹介する質問と答弁(担当大臣、消費者庁職員の答弁)は、いずれも、発言そのままではなく、趣旨をまとめたものである。
【通報者の追加(2(1)①)関連】
○ 役員については、労働者の場合と異なり“過去に役員であった者”を追加しなかった理由
→ 不利益が加えられることは想定されるものの、実際に不利益な取扱いがされた事例は把握できていないため(第201回国会 参・地方創生及び消費者問題に関する特別委員会会議録第10号 14ページ)
○ 労働者が退職後、再就職先から不利益取扱いをされないよう保護することについての所見
→ 改正後の公益通報者保護法の直接の適用はないものの、労働契約法等の一般法理によって保護されることはあり得る(同上)
○ 退職した労働者について、専門調査会報告書では「期間制限を設けないことが望ましい、退職後3年以内とすることも考えられる」としていたのに「退職後1年以内」に限って追加した理由
→ 事業者による法令順守を早期に実現するためには早期の通報を促す必要。また、実際に退職後の通報を理由として不利益取扱いを受けた事例はほとんどが退職後1年以内であり、長期間経過後の通報は、証拠の散逸等により事業者の適切な対応が困難(同上、第201回国会 衆・消費者問題に関する特別委員会議録第5号 7ページ 等)
○ 継続的な取引関係にある取引先事業者について、保護の対象に含めなかった理由
→ 対象に含めることに積極の立場と慎重な立場の意見の隔たりが大きい。事業者間取引には、基本的に契約自由の原則が妥当。契約解除等について、それが不利益取扱いであるかの判断や公益通報を理由とするかどうかの判断が困難であること、保護の対象とすべき取引先事業者の範囲を画すること等が課題として指摘されている(第201回国会 参・地方創生及び消費者問題に関する特別委員会会議録第10号 19ページ 等)
○ 労働者の家族が通報するケースは、どうなるか
→ 労働者の家族が労働者本人の意思に基づいて代行したと認められる場合には、その労働者が通報したものと言えるため、不利益な取扱いを受けた労働者は保護の対象となり得る。本人の意思とは無関係に通報した場合は、立法事実の蓄積が十分ではなく、消費者委員会の答申でも今後必要に応じ検討するとされたところ。なお、そうした本人の意思とは無関係の通報があっただけで不利益な取扱いを受けた場合は、労働者本人は事業者に不利益となる行為を何も行っていないことから、労働者が不利益取扱いを受ける理由はなく、公益通報者保護法の適用がなかったとしても許されない(第201回国会 衆・消費者問題に関する特別委員会議録第6号 8ページ)
【損害賠償責任の免除(2(2))関連】
○ 通報を基礎づける資料・証拠の収集行為・持ち出しも免責となるのか
→ この免責は、公益通報によって生じた損害についてであって、通報を裏付ける資料の収集行為によって生じた損害まで必ずしも及ぶものではない。資料の収集行為に関する裁判例を整理、分析し、その責任の有無についての実務上の運用の周知を進める取組をまずは進めたい(第201回国会 衆・消費者問題に関する特別委員会議録第5号 14~15ページ)
【内部通報に係る公益通報対応業務を行う者の選定(2(3)①・②)関連】
○ 選定について指針(2(3)②)に定められる内容
→ 公益通報対応業務を行う者の定め方については、個別に担当者を指定することのほか、一定のポストに従事する者を定めるなどの方法が考えられるが、企業の実情に応じて様々考えられ、実務や関係者の意見を踏まえて考え方を示していきたい(第201回国会 参・地方創生及び消費者問題に関する特別委員会会議録第10号 20ページ)
○ 公益通報対象業務について、外部の弁護士事務所等に委託する場合の委託先の選定手続
→ 選定手続について選定基準を公表するなどにより、透明性や客観性を確保することは制度の実効性向上に資する。指摘を踏まえ、選定の在り方について検討(同会議録 15ページ)
※ 事業者の顧問弁護士を通報窓口にすることについて、“通報制度を利用する従業員の立場から中立性等に疑義が生じ得るかどうか判断できることが重要で、通報窓口が顧問弁護士である旨を従業員向けに明示するなどにより、従業員が通報先を選択するに当たっての判断に資する情報を提供することが望ましい”との答弁もあり(第201回国会 衆・消費者問題に関する特別委員会議録第6号 18ページ)
○ 公益通報対応業務を行う者の守秘義務について、「正当な理由なく…漏らしてはならない」とあるが、「正当な理由」を明確化すべき。本人の承諾を正当な理由とする場合には、本人の書面による確認が必要ではないか
→ 「正当な理由」としては、通報者本人の同意がある場合や法令に基づく場合のほか、公益通報に関する調査等を担当する者の間での情報共有等、通報対応に当たって必要な場合などを想定(第201回国会 衆・消費者問題に関する特別委員会議録第5号 12~13ページ)
→ 通報者本人の同意がある場合には、「正当な理由」が認められる。この同意は、必ずしも書面によらなければならないわけではないが、一般的には、口頭では紛争が生じるおそれがあるが、書面ではそのおそれは小さいと考えられている(同会議録 11・12ページ)
○ 公益通報対応業務を行う者の守秘義務違反の罰則について、周辺情報から通報者が推測されてしまった場合には処罰されるのか
→ 周囲の状況から通報等が推知されてしまった場合には漏えいはないので、処罰の対象にはならないと考えられる(第201回国会 衆・消費者問題に関する特別委員会議録第6号 2ページ)
【通報に適切に対応するための体制整備(2(3)①・②、(4)②)関連】
○ どのように事業者や行政機関をフォローしていくか
→ 中小企業団体との連携等を通じた中小企業に向けた説明会の開催、企業規模に応じたモデル内規の作成、行政機関に対しては、特に中小規模の地方公共団体に配慮して、他の地方公共団体の取組事例や広域連携の取組などの紹介を検討していきたい(第201回国会 参・地方創生及び消費者問題に関する特別委員会会議録第10号 15ページ)
○ 1号通報に係る事業者の体制整備に関する指針(2(3)②)の中では、どのような措置を求めていくのか
→ 通報の窓口整備のみならず、窓口に通報があった場合の調査や、情報漏えいなど通報に関する内規の違反者に対する懲戒などのほか、通報者に対する不利益取扱いの禁止や通報者に関する情報漏えいの禁止を社内規程に定め、その規程に基づき適切に運用することを求めることを想定。(同会議録 20ページ)
 通報者の匿名性を確保することは重要であり、指針で明記することを考えている(同会議録 26ページ)
○ 1号通報に係る事業者の体制整備に関する指針(2(3)②)の中で、事業者がどういった措置等を講じたかを通報者に通知することを義務付けるべき〔改正前では、通報者への通知を“努力義務”とする規定があった〕
→ 通報者本人への通知は積極的に行われることが望ましいが、現在努力義務のものを指針に盛り込んで義務とするか否かは、事業者の事務負担の増加に対する懸念あり。関係者の意見を聴きつつ検討する(同会議録 16ページ)
○ 2号通報について、行政機関が講じた措置等を通報者に通知する体制も構築すべき
→ 行政機関の事務負担の増加等により適切な法執行の確保等に支障を来すおそれもあり得る。今後、改正必要な対応を検討(同上)
○ 2号通報に係る体制整備について、職員数が少ない行政機関について努力義務とした理由
→ 法令順守を確保するための部門の恒常的な人員が確保されているとは限らない点は、民間事業者と同じ(同会議録 20ページ)
【2号通報の保護要件追加(2(4)①)関連】
○ 要件を追加した趣旨
→ 真実相当性の要件を判断するのが難しく、通報をちゅうちょする要因となっているとの指摘がされているため。なお、氏名の記載を求めたのは、通報者への聞き取りなど、追加調査を実施できるようにするため(第201回国会 参・地方創生及び消費者問題に関する特別委員会会議録第10号 15ページ 等)
【3号通報の保護要件追加(2(4)③)関連】
○ “内部通報をすると、通報者を特定させる事項が事業者内部で漏れると信じるに足りる相当の理由がある”とは、どのような場合か
→ 例えば、過去に漏えい事案があり、再発防止策が不十分な場合や、体制整備義務に関する指針のうち情報管理に関する定めが遵守されていない場合などが考えられる(第201回国会 衆・消費者問題に関する特別委員会議録第5号 14ページ)
【その他】
○ 公益通報者に対する不利益取扱いについて、行政措置(勧告、事業者名の公表等)を行えるようにする改正を盛り込まなかった理由
→ 不利益取扱いに関する事実認定は、行政機関にとっては非常に困難。事後的な行政措置ではなく、不利益取扱いの事前抑止に資する刑事罰付きの守秘義務を設けることとした(第201回国会 衆・消費者問題に関する特別委員会議録第5号 2ページ 等)
  また、通報に対応するための体制整備として、不利益取扱いを行った者に対して懲戒等をすることを内容とする社内規程を定めることを求める想定(同会議録 10ページ)
○ 役員が外部への通報(2号通報・3号通報)をして保護されるための要件として、“通報対象事実の調査・是正のための措置をとるよう努めたこと”が求められるが、具体的にどのような行動が求められるのか
→ 役員の種類や属性、担当する職務の内容等によって異なる。例えば、事業者の経営陣が主導する不正行為の場合には、監査役への報告等、しかるべき権限を有する者に調査等の対応を求めることでこの措置を履行したことになる場合もあり得る(第201回国会 参・地方創生及び消費者問題に関する特別委員会会議録第10号 20ページ)
※ 組織ぐるみで多くの役員が共謀して不正が行われているようなときであっても、役員としては、社外取締役と連携するなどして調査是正措置に努めることが考えられるとの答弁もあり(第201回国会 衆・消費者問題に関する特別委員会議録第6号 7ページ)
※ 役員が内部での是正措置をとれば事業者内で証拠隠滅等のおそれがある場合について、役員としては本来証拠隠滅等が生じないように注意して調査、是正に当たるべきとの答弁もあり(同会議録 14ページ)
○ 対象法律の限定列挙は必要か
→ 消費者委員会でも、対象法律を広げることについて、どの程度広がるのか不明瞭である、行政機関等の負担増大となるといった意見もあったが、消費者の利益の擁護という法目的にかかわらず範囲を広げてはどうかとの意見もあった。改正後の施行状況等を分析しつつ、必要な対応を検討する(第201回国会 参・地方創生及び消費者問題に関する特別委員会会議録第10号 12~13ページ 等)
○ 2号通報の「権限を有する行政機関」の判断の困難性への対応
→ 権限を有する行政機関の特定が通報者にとって難しい通報事案について通報者に情報提供する等の機能を担う相談窓口を設置(同会議録 15ページ)
※ 消費者庁に「公益通報者保護制度相談ダイヤル(一元的相談窓口)」が設置されている
○ 公益通報と不利益取扱いとの間の因果関係の立証責任に関し、事実上の推定を積極的に行うべきとの議論についての所見
→ 労働法一般に係る裁判実務では、解雇の正当な理由や、配置転換や降格などの不利益取扱いの必要性について事業者が明らかにすることが求められている。このため、実態としては、通報を行った労働者も含めて、不利益取扱いを受けた労働者側の立証の負担が一定程度軽減されていると理解。裁判例を整理するなどの取組を行い、その周知を通じて通報者の事実上の負担が軽減されていくよう努めたい(同会議録 16ページ)
○ 解雇・不利益取扱いが通報から一定期間内に行われた場合は、通報を理由としたものかどうかについての立証責任を事業者に転換すべきではないか
→ 消費者委員会においても、立証責任を転換すると、悪意ある労働者に制度が利用される、無用な争いを避けるために通報者に対する措置を一時的に凍結する等、円滑な労務管理等が阻害されるとの懸念が示され、今後の検討課題とされている。解雇以外の不利益取扱いについては、配転などについて一般に事業者に広い裁量が認められており、実務への影響等について更なる検討が必要(第201回国会 衆・消費者問題に関する特別委員会議録第5号 11ページ)
○ 通報者を探すこと自体が不利益取扱いに当たる可能性
→ 通報者探しが公益通報を理由として行われた場合には不利益な取扱いに該当する可能性は高いものと思われる(第201回国会 参・地方創生及び消費者問題に関する特別委員会会議録第10号 17ページ)

4.今後について

法案の可決の際、衆参両院の内閣委員会で附帯決議がなされており、国会審議で問われた“指針の内容”などについて、明確化・周知が求められている。指針の内容については、消費者庁に設置された「公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会」で検討が進められた後、「指針案」が公表され、パブリックコメントに付された(令和3年5月末まで。https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=235030040&Mode=0)。
上記で紹介した国会審議で示された基本的な考え方・想定がどのようにまとめられているのか、比較しつつ確認いただきたい。
また、衆議院修正は、今後に向けた検討条項に“立証責任の転換”も視野に入れた検討項目を加えるものであったが、そのことからも明らかなように、引き続き検討すべき課題とされた事項が多くあり、それらをめぐる今後の議論にも注目する必要がある。
(2021年7月執筆)

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