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家族2025年07月03日 重婚にまつわる諸々 執筆者:政岡史郎

 先日、以下のような違和感のある戸籍(除籍)を目にしました。

*戸籍の記載を簡略化しています。
*戸籍内の氏名は仮名です。

 これは、南野明(A)を筆頭者とする戸籍です。
 その妻が道子(B)なのですが、上記のどこに違和感があるでしょうか。
 南野明(A)と道子(B)が昭和37年に婚姻したのですが、道子の欄を見ると、道子(B)は平成20年に離婚しています。しかし、その時に離婚した配偶者は明(A)ではなく、木村一郎(C)という人間なのです。そして、その5年後に道子(B)の配偶者は死亡したことになっており、それは明(A)の死亡日時と一緒です。
 つまり、道子(B)目線でいうと、昭和37年に明(A)と結婚し、平成20年には配偶者の一郎(C)と離婚し、平成25年に配偶者である明(A)が死亡したという事実経緯です。道子(B)が明(A)と離婚したという記載はありませんし、そもそも、仮に明(A)と離婚したら道子(B)は明(A)の戸籍から除籍されているはずです。
 一瞬、戸籍の記載上の混乱かと思いましたが、そういう訳でもなさそうなので、役所で戸籍の追跡調査をしました。

 原戸籍が届いたので確認すると、珍しいことに「重婚」であったことが分かりました。
 「重婚」は戸籍上の婚姻が重複している状態です。例えば、「夫が戦地で死亡したものとされ妻が再婚したが、実は夫が生きていて外地から復員した」というのは、戸籍上で夫は死亡とされており、事実上では夫とされる者が二人存在するものの戸籍上の婚姻は一つなので「重婚」ではありません。
 婚姻届を出す際は役所に戸籍も提出しますので、既に婚姻している人が「重婚」することは普通ありえません。
 しかし、『届け出された離婚が後に無効とされたものの、無効とされる前に再婚していた場合』には、後日になって「重婚」状態になります。
 今回も、明(A)と道子(B)が協議離婚届を提出して戸籍上は離婚が成立し、いったんは道子(B)が除籍され、その後、道子(B)は一郎(C)と直ぐに婚姻しました。ところが、その後に明(A)と道子(B)の協議離婚が無効と判断され、その結果、明(A)と道子(B)の婚姻が復活して道子(B)は明(A)の戸籍に再び記載され、他方、一郎(C)を筆頭とする戸籍には妻として道子(B)の戸籍は残り続け、結果、婚姻が同時期に重なる「重婚」になったのです。
 離婚が無効になるパターンとしては、勝手に配偶者の署名押印をして離婚届を役所に出してしまうとか、離婚する意思が無いのに書かされた(二度と浮気しない約束の証として作成)とか、精神疾患で正常な判断能力が無い時に書いてしまったが届出がなされた時点では正気に戻っていて離婚の意思がなかった等が考えられます。
 なお、離婚届を無断で作成して役所に提出したら有印私文書偽造・同行使(刑法159条1項、161条1項)、公正証書原本不実記載罪(刑法157条1項)などの犯罪となりますし、故意に「重婚」したら重婚罪(刑法184条)の犯罪ともなります。
 ちなみに、「重婚」の期間中に妻が懐胎したら、理論上は両方の戸籍上の夫に父性推定(民法772条)が働くと思いますから子の真の父親を定めるには裁判所手続きが必要になるでしょう。

 役所に離婚届が提出され、形式的な不備が無く受理されてしまった場合には、無効とするには法的手続きが必要となります(まずは、家庭裁判所で調停・審判を行ない、調停が成立しなければ訴訟)。その結果、離婚が無効と判断された場合には、無効と主張する側が審判等の確定後一か月以内に役所に申請をして、戸籍上の離婚を無効としなければなりません(あくまで当事者の申請が必要です)。
 ただ、前婚が復活したとしても、自動的に後婚が取り消されるわけではないので、「重婚」状態を回避するには、後婚の「婚姻取り消し」も求め、別途、家庭裁判所に調停を申し立てなければなりません。
 そのため、前婚の離婚無効の調停を申し立てる際に、後婚の婚姻取り消しの調停も申し立てておくことがベターとなります(離婚無効は配偶者のみを相手方とする調停で、婚姻取り消しは配偶者とその婚姻相手を相手方とする調停です)。

 今回の場合も、明(A)が離婚無効の手続きをする際(もしくは無効が確定した後)に道子(B)と一郎(C)の婚姻の取消手続きをしていれば良かったのですが、その動きは何故か無かったようで、10年以上経過するまで戸籍上は「重婚」が継続していました。そして、後日、道子(B)と一郎(C)は離婚したのですが、その離婚の事実が、明(A)を筆頭とする戸籍の道子(B)の欄に記載されたようで、それが違和感の正体でした。
 実務でもあまり出会わない「重婚」ですが、戸籍を見ながら「重婚」が生じる関係者の人生模様などを色々と想像するきっかけになりました。

(2025年6月執筆)

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

執筆者

政岡 史郎まさおか しろう

弁護士

略歴・経歴

  H7  早稲田大学卒業、小田急不動産(株)入社
  H13 同社退社
  H17 司法試験合格
  H19 弁護士登録・虎ノ門総合法律事務所入所
  H25 エータ法律事務所パートナー弁護士就任

「ある日、突然詐欺にあったら、どうする・どうなる」(明日香出版社 共著)
「内容証明の文例全集」(自由国民社 共著)
「労働審判・示談・あっせん・調停・訴訟の手続きがわかる」(自由国民社 共著)
「自己破産・個人再生のことならこの一冊」(自由国民社 校閲協力)

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