民事2025年07月14日 預託金返還請求訴訟について(4) 強制執行免脱をはかったBカントリー経営会社に、正義が勝った!! 執筆者:北村明美

ここからが大変でした。
1.Aさんは、再度、C社やB社などに対して、詐害行為取消請求及び不法行為に基づく損害賠償請求訴訟などを提起せざるをえなかった。
手をこまねいていては「B社はAさんに対し、預託金850万円と遅延損害金を支払え」という勝訴判決は、絵に描いた餅になってしまう。
詐害行為取消請求制度は、債務者(B社)が債権者(預託金返還請求をするAさん)を害することを認識しつつ、自己の財産を売買する等して、減少させた場合に、債権者が裁判上その行為を取り消して、債権者に正当な弁済を得させる一般担保の確保を目的としている。
平成29年民法改正後の詐害行為取消請求は、受益者(C社)に対しては、被告を受益者としなければならない。改正後は、条項が追加され要件が明確になったが、相当の対価を得てした財産の処分などは、改正前より改正後の方が、債権者にとって不利になったと感じられる。
2.さて、本件であるが、B社に対する勝訴判決に基づいてC社を第三債務者として差押えをした時、C社からは「差押債権はあるが、貸付債権等と相殺予定のため、弁済の意思はない」という陳述書が届いていたので、「相殺」を都合のよいように使って、預託金を返還しないで済むようなスキームであろうということは予想できた。
受益者C社がなした「相殺」が債務者(B社)の処分行為と言えるのかが争点となった。C社もB社も、相殺は、C社がなしたもので、B社がなしたものではなく、B社の処分行為とはいえないから詐害行為ではないと主張する。C社は、相殺するたびに、B社に対して内容証明郵便を送付し、C社が相殺したという証拠としていた。
この訴訟の中で、C社代理人弁護士は、「C社とB社との間には、C社の都合で、C社がいつでも相殺出来る旨の黙示の合意がある・・・」と主張した。さらに、「平成✕年✕月✕日から平成✕年✕月✕日までNカード(クレジット会社)からの6件のC社入金分については、債権者から差押がなされたので、C社は平成✕年✕月✕日付貸金の期限を喪失させ、いずれも、各対当額で相殺した。」
「平成✕年✕月✕日分から現在に至るまでの全てのクレジット入金分に対する相殺は、C社が次の差押を想定して予め全てについて相殺し続けているものであり・・・」と主張した。C社代理人弁護士は、堂々と債権者からの差押がなされると、支払わなくてもよいようにするため、相殺し続けていると主張しているのだ。
債権者というのは、ほとんどの場合、預託金返還請求をする会員である。すなわち、債権者(=預託金返還請求権者)の差押を妨害し、実効性をなくす意図を明らかにしているのである。この強制執行妨害・免脱の意図は、C社だけでなくB社も、共謀して有しているものである。
このような強制執行妨害・免脱を、法治国家である日本の裁判所が許してはいけないのである。
C社が、C社の都合で、いつでも相殺できるという合意をした時点においても、平成✕年においても、C社の代表取締役もB社の代表取締役も、同一人物のD氏なのである。C社がなした相殺は、B社も了解し、いや了解どころか、共謀・共同して行ったというのが実態であった。
3.名古屋地方裁判所民事第4部の裁判官は、「改正前民法424条又は民法424条所定の詐害行為と認められる」と判示して、預託金全額と遅延損害金をC社に支払うよう命じて下さった。
だが、これでBカントリーの預託金返還問題はすべて解決したわけではない。
Aさんではない方(Yさんとしよう)が、C社とB社に対して、預託金返還請求をしたが、任意に支払わなかったのである。そのため、また、同様の訴訟提起をしなくてはならないのである。
(2025年6月執筆)
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執筆者

北村 明美きたむら あけみ
弁護士
略歴・経歴
名古屋大学理学部物理学科卒業
コンピューターソフトウェア会社などに勤務
1985年弁護士登録(愛知県弁護士会所属)
著書・論文
「女の遺産相続」(NTT出版)
「葬送の自由と自然葬」(凱風社・共著)など
「医療事故紛争の上手な対処法」(民事法研究会・共著)
「証券取引法の仲介制度の運用上の問題点」(商事法務 ・1285)
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