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相続・遺言2023年06月15日 本妻側対愛人の子(1) 執筆者:北村明美

 太郎さんから、次のような相談を受けた。
 「おやじの気持ちが、ようやく、母とわが家に帰ってきたようです。30歳くらい年下の愛人にいれ込み、ここ20年間、たびたび愛人とデートし豪華な食事をするなどしていた。
 なんと、子供まで作っていたことが、最近分かり、怒りでいっぱいです。
 なぜ、おやじの気持ちが愛人から離れたかですが、おやじの体調が近年悪くなってきたからではないか。頻尿で、しかも漏らしてしまい、パンツだけではなくベッドまわりやトイレを汚してしまう。母は、おやじをなだめすかして、尿もれ防止パンツを夜だけつけてもらうようになったが、やがては、日中も付けてもらわざるをえなくなった。足元もフラフラするようになった。もう80歳です。
 おやじのスマホを見ると、愛人から「今度、娘のために15万円いるの。お願いします。」「会った時エッチしましょうね。」などというラインがあるが、尿もれ防止パンツをはいたおやじは、どうするのかと失笑してしまう。「別荘と若い愛人の世話は大変だから持つな」というのを誰かから聞いたが、そんな状況だ。
 しかし、そんな事を言って、おやじを笑ってばかりはいられない。
 愛人の子との争族対策を今のうちにやっておかなければと思い、相談に来ました。」

 父上が行っている事業は、すでに、実質的に太郎さんが行っており、会社の株式の贈与も3分の2くらい受けたとのことであった。

 愛人の子が、父上の子かどうかは、未だ認知していないので(父上のスマホの写真を見ると父上と似ているようなところもある。)最終的には、DNA鑑定によることになる。
 父上の子だということになれば、法定相続人となり、平成25年の民法改正により、本妻の子と同等の割合の法定相続分を有することになる。(平成25年9月4日最高裁大法廷決定)
 父上が亡くなった場合、配偶者である本妻と本妻との間の子2人と愛人の子1人が法定相続人となり、愛人の子の法定相続分は6分の1である。

 愛人の子の取得分をできる限り減らしたいというのが、太郎さんや本妻さんの強い願いであった。
 その対策の第1は、遺言を作成してもらう事。遺言によって、愛人の子の権利を遺留分(法定相続分の2分の1)に減少させることができる。
 太郎さんらに対する生前贈与の持戻し免除をその遺言に書いてもらったらどうか。民法903条3項:平成30年の改正前は、「被相続人が前2項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。」であったが、改正後は「遺留分に関する規定に違反しない範囲内で」という文言は記載してない。
 生前に財産を全部、本妻側に贈与してもらい、持戻し免除の意思表示をしてもらっておけば、愛人の子に遺留分すらあげなくてよくなるのだろうか。
 残念ながら、持戻し免除の意思表示をした場合でも、遺留分を侵害することはできず、遺留分を算定するにあたっては、生前贈与分を持ち戻しして計算する必要がある。
 ただし、遺留分を計算する際の生前贈与の持ち戻しは、法定相続人に対する贈与であっても、相続開始前10年間にしたものに限ると、民法が改正された。改正前は、10年間という期間制限がなかったのである。(民法1044条3項)
 生前贈与をはやくしてもらい、父上に10年以上生きていてもらうと、相続財産が減少して、愛人の子の遺留分金額を減らすことができる。
 なお、遺言は、できる限り、公正証書にした方がいい。
 別の事案で、Aさんは自筆遺言書を書いてもらい、Aさんの妻との養子縁組もしてもらって、愛人の子対策をしていたが、父上亡き後、愛人の子から養子縁組無効、遺言無効の訴訟を起こされ、さらには、文書偽造・同行使罪で告訴までされて、長い間苦しんだ。
 そんなことにならないように。
 その他の対策は後日また・・・。

(2023年6月執筆)

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