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相続・遺言2022年03月28日 相続法が変わった(7) 最終回 執筆者:北村明美

1.相続法が変わったをテーマに6回にわたり書かせていただいた。
法律が変わるということは、ニーズがあったからである。
今回の相続法の改定は、次のようなニーズに答えたものといえる。
 第1に、法律上の配偶者のさらなる地位の強化
 第2に、自筆証明遺言の推進
 第3に、遺留分の争いの簡便な解決をめざす

 第1のうち、配偶者居住権の創設は、平成25年の婚外子の相続分を実子のそれと同じにする民法改正が、片手落ちとならないようにしたものといわれている。
 かつて、衆議院議員の選挙の際、後援会の女性部(婦人部)の大会をみたことがある。皆、年かさであるが、元気で活力にあふれた、正妻の方達であった。夫が先立った元正妻の方もおられた。その政治家の妻はもちろん法律上の妻であり、政治家が東京へ行っている間、地元の後援会活動をし、選挙の時には、地元になかなか戻ってこれない夫に代わって、選挙活動をしたりする。こういう正妻達が与党に票を入れているから一種の圧力団体となるのであろう。女性を味方にしないと選挙には勝てないという説もあるからだ。また、政治家や社長さん達には婚外子がいることが少なくなかったから、正妻たちが声をあげたのだろうか。
 第3の、遺留分の争いの簡便な解決をめざしたいというニーズは、裁判所からのものではないだろうか。
 以前から、地方裁判所では事件が減少している。事件が増加傾向なのは、家庭裁判所の離婚事件と遺産分割事件だという。
 そのため、最高裁判所は、裁判官の数を減らそうとしている。
 司法試験の合格者数を減らさないと、裁判官が減少した分、弁護士数は増え、過当競争はますます激化してしまうと弁護士の切実な声がある。
 遺言をどんどん作成してもらい、遺産分割の争いより遺留分の争いにしてもらった方が、争点が少なくなり裁判所としては楽なのだろう。
 しかも、今回の改定で、遺留分はお金でしか請求できず、10年以上前の贈与は法定相続人に対するものであっても持ち戻さないとなったからだ。
 相続法が変わる前から、家庭裁判所の遺産分割担当の裁判官は、遺産か否かに争いがあれば地方裁判所でやって下さいと述べる。法定相続人の一人が、被相続人の財産を着服横領したか否かに争いがある場合も地方裁判所へどうぞと言う。結局、地方裁判所で白か黒かの決着をつけるまで、遺産分割協議の調停や審判はお休みとなってしまうのだ。当事者が地方裁判所で裁判をする労力と時間に思いをはせ、ためいきをついたなら、担当裁判官は和解の気運を引き出すのである。

2.相続法がどう変わろうと、平等をうたってくれている日本国憲法があろうと、女性軽視や家制度の後継ぎという観念が、日本の人達に根付いているのはなぜだろうか。
 平成8年に被相続人が亡くなり、6人の兄弟姉妹の間で、今だに遺産分割協議が成立しておらず、家庭裁判所の審判になっている事件がある。
 被相続人は専業農家ではなく事業をやっていたわけでもない。家督相続して家を残さなければならないような由緒ある家でもない。
 それにも関わらず、「後継ぎに相続分を譲る姉2人は女のかがみだ」「後継ぎの男に畑・山林を相続させるべきだ」などと声高に主張し続ける相続人達がいる。
 家督相続の時代はとうに終わったのである。経済力が弱い女性こそ自分の権利を獲得しよう。法的に認められた権利を主張しても、何ら恥じることはない。
 この日本において、家制度を真に解体するには、戸籍を個人単位とすることからはじめるしかないのだろうか。
 女性軽視や女性蔑視を払拭するには、女性が経済力をつけるしかないのだろう。

(2022年3月執筆)

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