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相続・遺言2021年06月17日 相続法が変わった(5) 相続税法改正 配偶者居住権(改正民法1028条~1041条) 執筆者:北村明美

1.2か月前に夫を亡くした恵子さんが相談に来られた。遺産は、大きい自宅(時価1億円以上)と預貯金など約4000万円。相続人は、妻である恵子さんと息子の2名だ。
 「私は、自宅の土地建物の全部をもらい、預貯金を2名で2分の1ずつにしようと思っていたんです。ところが、息子が『配偶者居住権』を使うと、相続税が安くなるから、それを使おうと言ってきました。なんか釈然としなくて・・・。配偶者居住権というのも聞きなれないし、どうしたらいいですか。」
といって、息子がくれた週刊誌の「スクープ 税理士が色めき立った『相続税法改正』の盲点。『配偶者居住権』を使うだけで税金がこんなに安くなった」のページを見せてくれた。
 配偶者居住権は、残された配偶者が、仲の悪い実子や前妻の子や愛人の子らと争っても、それまで夫婦で住んできた住居にそのまま住み続けられるようにするために、創設されたものである。しかし、立法趣旨とは別のメリット、すなわち、相続税が少なくなるというメリットが脚光を浴び、ざわついているのである。
 簡単に言えばこうだ。
 自宅の建物は、ⓐ配偶者居住権とⓑ居住建物の所有権に分けられる。自宅の敷地は、ⓒ配偶者の敷地利用権とⓓ所有権に分けられる。遺産分割などで、配偶者である恵子さんが、ⓐとⓒを取得し、息子がⓑとⓓを取得したとする。恵子さんが亡くなった場合の第二次相続において、恵子さんのⓐとⓒは消滅してゼロと評価されるので、遺産の額はその分減少し、相続税も減少するわけである。
 あくまでも、息子の節税対策であって、恵子さんにとっては節税にはならない。配偶者である恵子さんは、1億6000万円まで、相続税はゼロとなる配偶者控除があるからだ。また、法定相続分以内を相続するのであれば、10億円であろうと100億円であろうと配偶者に相続税はかからないからだ。(相続税法第19条の2第1項)

2.配偶者居住権とは、残された配偶者が被相続人死亡時に住んでいた被相続人所有建物(もしくは、被相続人と配偶者の共有建物)を、自分が死ぬまで、または、一定の期間、無償で使用及び収益をする権利である。
 要件は、次のとおりである。配偶者居住権の相続税評価額などは、国税局のホームページをみるとよい。
(1)被相続人の法律上の配偶者であること(内縁の妻や事実婚はだめ)。(2)配偶者が、被相続人の所有建物に、被相続人死亡時に居住していたこと。(3)遺産分割、遺贈、死因贈与、家庭裁判所の審判により取得したこと。(4)改正法施行の2020(令和2)年4月1日以降に、被相続人が亡くなっていること。

3.恵子さん「私が死ぬまでの配偶者居住権を設定した後に、途中で自宅を売って条件の良い施設に入りたいと思った時、どうなりますか」
「所有権を持っている息子の同意がないと売れませんよ。売却代金も、息子さんの方が所有者だから、恵子さんより多くとっていくことになりますね。」
恵子さん「息子とまたもめそうね。私が死んだら、私の財産は全部息子に行くのに。節税節税という息子がちょっとうざいわ。」

4.恵子さんは、まだ恵まれている。
 亡夫の遺産が自宅だけで、預貯金はほとんどない幸子さんは、法定相続分を要求している前妻の子どもさんらに対し、自分の方から、配偶者居住権の提案をするしかないと考えている。

5.夫の方が配偶者居住権を取得しようとすることは、きわめてまれだ。それは、夫は自宅の敷地や住居について所有権を持っていることが多いからである。嫁にでた女性に独立した経済力のないことが、相続問題にも反映される。
 また、最高裁判決によって、平成25年、婚外子の相続分を実子のそれと同じにする民法改正をした。片手落ちにならないよう、法律婚の妻の居住権を守るため、配偶者居住権を創設したといわれている。

(2021年6月執筆)

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