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相続・遺言2020年04月02日 抜本的な解決が難しい土地所有権問題の行方 執筆者:日置雅晴

 近年、所有者が不明の土地が急増し、様々な公共事業における土地の活用や相隣関係の解決が困難になりつつあることが指摘され、その対策として矢継ぎ早に法改正が進められてきている。
 2018年6月に「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」が、2019年5月に「表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律」が制定され、さらには2020年の通常国会には土地基本法の改正などが上がっている。今後も、土地基本法の改正を踏まえて、実務的な法改正が続く予定である。
 所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法は、一定の条件に該当する所有者が不明の土地について、一定の公共的利用を簡易な手続きで可能にする制度を中心としつつ、所有者を特定するために税務などの一定の行政情報の利用を認めたりするものである。
 表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律は、おもに登記事務の観点から、これまで権利者に任されていた土地登記について、法務局の登記官が積極的に関与して所有者を明確にすること、それでも特定できない場合財産管理制度を適用できるようにするものである。
 これらの法改正により、従前解決困難だった一部の問題は解決できるようになる場合もあるが、少子高齢化による人口減少や家族関係の希薄化、経済の縮小による不動産価値の大幅な喪失などの進む速度に比べれば、その効果は限定的であり、問題の拡大を食い止められる状況には至っていない。
 ここでは、日本の土地所有権とそれに関連する制度の根本的な問題のいくつかを改めて考えてみることとする。

1 強すぎる土地所有権制度と不十分な登記制度
 土地の私有を認める国でも、その社会的な影響の大きさを踏まえて、土地利用には都市計画的な強い規制が課せられるとともに、土地の利用管理についての公共的な制約や義務が課せられている国は多い。しかし日本では、土地に関する公共的コントロールが弱い一方原則として土地利用は自由とされ、それが多くの乱開発や農地や山林の放置を引き起こしてきた。この強い私権は、土地の経済的価値が大きい都市部であっても、経済的価値が極めて小さいあるいはマイナスと言われている地方の土地や農地・山林などでも全く同じとされている。この点の抜本的見直しがないと、土地問題の解決は難しい。
 他方で土地の所有関係を公的に担うのが不動産登記制度であるが、日本では登記は権利移転に必須ではなく、対抗要件とされ、真の所有者の状況と一致しない。相続や売買により権利が移転しても、新たな権利者が登記手続きをとらない限り登記に反映されることはない。また、行政情報システムの遅れから、全国的な登記情報と住民票や戸籍あるいは法人登記の情報とリアルタイムのリンクができていないので、登記名義人の現状を追跡すること自体困難であり、現代に必要な情報システムとは言いがたい。登記システムの刷新も早急に求められている。

2 相続制度
 所有者不明土地発生の大きな原因の一つが相続制度である。
 戦後相続制度が改正され、戦前の家督相続制度(原則一人だけが遺産を相続する)から、均分相続制度となり、これが不動産の細分化や歴史的建築物の喪失を招くとともに、相続を重ねるたびに相続人が増え、解決困難な問題を生み出している。
 家族・親子のあり方が大きく変わってきているのに、なぜ一定の範囲のものに当然に遺産が移転するのかという点は家族問題の根本に関わることでもあり手が付けられていないが、これもまた抜本的な議論が必要だ。
 最近明治初期の登記のままになっていた土地の相続を巡る事案を処理したが、さぞかし相続人捜しが大変かと思ったものの、戦前の相続は全部家督相続であり、相続関係が細分化されることはなく、比較的簡単に処理ができた。封建的な制度として家督相続は廃止されたが、遺産の細分化を防ぐという点からは一定の再評価をすべきかもしれない。

3 区分所有制度によるマンションの放置
 都市部において土地所有と相続の問題が一番特徴的に現れるのが、区分所有による共同住宅である。
 基本的に、建て替え等は多数決により行えるが、所有者が不明の住戸があった場合、登記の処理などが困難となり、建て替えが困難になる。戸建て住宅でも同様の問題があるが、共同住宅の場合、権利者が多数になるので、その中に一住戸でも所有者不明問題があれば、区分所有者全員に影響が及ぶこととなりリスクは極めて大きくなるし、他方で建物の規模が大きくなるから社会に与える影響も著しく大きくなる。
 また日常の管理に関しても一住戸でも管理放置が発生すると、給排水システムや設備の維持ができなくなる可能性があり、その影響は直ちに居住者全員に及びかねない。
 マンションの大量供給が始まってから半世紀を経て、建物も居住者も老朽化している物件が増大し、その再生は極めて重要な問題となりつつある。
 区分所有法の改正などで、多数決要件の緩和や、多数決で処理できる事項の拡大など少しずつやれることは広がっているが、根本的な解決にはほど遠い状態でありながら、区分所有によるマンションは供給が続いている。この仕組みもまた抜本的な改革が求められている。

 今回の土地基本法の改正を巡っては、土地の適正な「管理」という概念が提唱され、土地所有者等の土地の適正な「利用」「管理」に関する責務の明記がなされる予定であり、今後はこの土地基本法の理念の元、具体的な法改正がさらに進むと考えられるが、上記で指摘したような本質的な問題解決に踏み込んだ議論と制度改正に至ることができるかは注視していく必要がある。

(2020年3月執筆)

執筆者

日置 雅晴ひおき まさはる

弁護士

略歴・経歴

略歴
1956年6月 三重県生まれ
1980年3月 東京大学法学部卒業
1982年4月 司法習修終了34期、弁護士登録
1992年5月 日置雅晴法律事務所開設
2002年4月 キーストーン法律事務所開設
2005年4月 立教大学法科大学院講師
2008年1月 神楽坂キーストーン法律事務所開設
2009年4月 早稲田大学大学院法務研究科教授

著書その他
借地・借家の裁判例(有斐閣)
臨床スポーツ医学(文光堂) 連載:スポーツ事故の法律問題
パドマガ(建築知識) 連載:パドマガ法律相談室
日経アーキテクチャー(日経BP社) 連載:法務
市民参加のまちづくり(学芸出版 共著)
インターネット護身術(毎日コミュニケーションズ 共著)
市民のためのまちづくりガイド(学芸出版 共著)
スポーツの法律相談(青林書院 共著)
ケースブック環境法(日本評論社 共著・2005年)
日本の風景計画(学芸出版社 共著・2003年)
自治体都市計画の最前線(学芸出版社 共著・2007年)
設計監理トラブル判例50選、契約敷地トラブル判例50選(日経BP社 共著・2007年)
新・環境法入門(法律文化社・2008年)
成熟社会における開発・建築規制のあり方(日本建築学会 共著・2013年)
建築生産と法制度(日本建築学会 共著・2018年)
行政不服審査法の実務と書式(日本弁護士連合会行政訴訟センター 共著・2020年)

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