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相続・遺言2019年12月24日 民事信託こぼれ話 第2話(後編) 金融機関から見た信託口口座開設の論点 民事信託特集 執筆者:澁井和夫

 民事信託の実績が増えるにしたがって、信託財産の管理上必要になる預金口座(信託口口座)の開設について、金融機関の対応がまちまちであることが話題になっています。
 本稿(後編)も、あくまで私見であることを前提として、前編に続き、信託口口座開設をめぐる問題について後編を記述したいと思います。

2.信託口であることを金融機関に告げずに口座開設した個人名義口座

 甲を委託者兼受益者、乙を受託者として甲・乙間に民事信託契約を締結したとき、信託財産が金銭であった場合は、その金銭を引き受けるために、また、信託財産が不動産のみであっても、当該不動産が賃貸アパートであるなど、信託財産の管理上家賃収入の入金、固定資産税の支払など、信託財産にまつわる金銭の受入れ・支払のため、信託財産として信託口預金口座を便宜上開設するのが一般的です。
 しかしながら、金融機関で必ずしも信託口口座の開設に応じてもらえない、または、手続に時間と手間を要することがあります。
 そこで、信託口口座の開設にこだわらず、信託財産管理上の預金口座である旨を告げずに、信託受託者の個人名義で預金口座を開設したとすると、どのような問題点が生じるでしょうか。
(1) 信託法の分別管理義務との関係
結論から言えば、信託財産の管理専用口座として使用すれば、分別管理義務については、信託法に違反することにはならないと考えられます。
先ず、信託法の規定を示します。
【信託法】
(分別管理義務)
第34条 受託者は、信託財産に属する財産と固有財産及び他の信託の信託財産に属する財産とを、次の各号に掲げる財産の区分に応じ、当該各号に定める方法により、分別して管理しなければならない。ただし、分別して管理する方法について、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
一 (省略)
二 第14条の信託の登記又は登録をすることができない財産(次号に掲げるものを除く。) 次のイ又はロに掲げる財産の区分に応じ、当該イ又はロに定める方法
  イ (省略)
  ロ 金銭その他のイに掲げる財産以外の財産  その計算を明らかにする方法
三 (省略)
2 (省略)

 上記のとおり、「金銭」については「その計算を明らかにする方法」により、分別管理すればよいことになります。
 話は少し横道にそれますが、「金銭信託」には「合同運用」する方法があります。いわゆる「ファンド運用」です。商事信託では「ファンド運用」の信託商品は広く取り扱われています。これは複数の委託者兼受益者から信託された金銭を、個別の委託者兼受益者ごとではなく、合同してひとつの大きなファンドにして運用し、その成果を各々の委託者兼受益者に配分する信託です。金銭の信託では、このように一旦いくつもの信託財産を合算して運用しても、「その計算を明らかにする方法」で、最終的にそれぞれの信託財産ごとに管理できれば、分別管理義務を果たせるのです。
 したがって、仮に信託受託者が信託口を開設せず、すでに保持している固有の預金口座に、信託で引き受けた金銭を入金し管理したとしても、領収書その他の証拠書類をきちんと保管して、固有の入り払いと信託財産に属する金銭の入り払いを分別記録し、当該分別記録帳簿により、信託金銭の日々の残高などが明確に把握でき、信託決算が正しく行えれば、分別管理義務は果たせることになります。
 しかし、外形的にも信託金銭を分別して取り扱う便宜のためには、信託財産管理専用の口座が必要です。
 
(2) 個人名義口座の信託口としての利用
 では、金融機関に信託口であることを告げずに信託専用口座を個人名義で開設した場合、どのようなことが問題になるのでしょうか。
 さて、現在、金融機関では、新しく預金口座を開設する場合、その開設理由の説明を求めると思いますので、民事信託の信託財産管理に使用すると説明した場合、信託口を開設するのと同じような手続きが必要になるかもしれません。金融機関としては、システム上の管理も含めて、その預金が口座開設申込人の名義の財産ではないことを認識しなければなりませんが、これは極めて特異な事務とならざるを得ません。口座開設申込人の名義で預金口座を開設しながら、中身は口座開設申込人の財産ではないという外形上の矛盾を飲み込むことができるでしょうか?
この問題については、後に述べるとして、外形的に受託者個人の預金と区別がつかないことが、金融機関の顧客預金口座管理上、次のような問題を抱えることになります。
 ① 受託者本人の税金滞納などに対して、当該信託預金が差し押えられること。
税務当局の差押命令に対して、金融機関は当該信託預金の払出を凍結するアクションを取らざるを得ないのではないかと思われます。
 ② 受託者が破産して受託者の債権者から当該信託預金が差し押えられること。
債権者に対して、当該信託預金が債務者である受託者固有の財産ではないことを説明しうるかどうか。争いになることは十分予想されます。
 ③ 受託者が死亡したとき、当該信託預金が受託者の財産と混同されて、相続財産として凍結されてしまうこと。
あらかじめ当初受託者死亡時に新たに受託者に就任する者が決まっており、速やかに新たな信託受託者に地位が引き継がれないと、混乱が長引きます。

 以上のような問題は、専ら金融機関の預金口座管理上の問題ですが、現状では、システム上の機械による自動的な管理は難しく、手による管理にならざるを得ないと思われます。このことは、金融機関にとって、事務管理上の負担とリスクを背負うことになるものですが、信託受託者の立場からすると、信託財産の善管注意義務が果たせているのかという論点になると考えられます。

(3)信託口の開設に関する金融機関の関心事(その1)
 これまでのところをここで、整理してみます。

・信託金銭を引き受けた受託者は、信託法上の規定に照らして事務を行うとき、「金銭」は「その計算を明らかに」できれば、分別管理義務を果たせるのだから、必ずしも、信託口の開設が分別管理義務の要件になるわけではない。
・しかし、受託者の善管注意義務から考えると、現状の金融機関の顧客預金管理態勢を前提とすれば、信託財産の独立性を全うするには、問題点がある。

 ところで、信託法では注意義務(第29条・前編参照)も分別管理義務(第34条)も、「信託行為に別段の定め」を置くことを認めています。「この別段の定め」が注意義務や分別管理義務を緩めるものではないと解されますが、信託契約書に具体的に信託金銭の管理方法を記載しておくことは重要です。少なくとも、委託者と受託者はその方法で信託金銭を管理することに同意していた証となります。
 さて、信託口開設に関する金融機関の関心事とは何でしょうか。(2)で述べたように、信託財産である信託預金の独立性を、預金を預かる金融機関としてきちんと管理できるか、それにはどうしたらよいのかが、内部的には大きな関心事です。第1話のこぼれ話でも触れましたが、信託の考え方は「モノ」を中心に据えています。「信託財産ありき」です。信託財産が消滅してしまえば、信託は意味を失います。信託法上も信託終了事由に信託財産の消滅を挙げています。一方、金融機関は「ヒト」中心の考え方です。債権債務の関係は、ヒトとヒトとの関係です。したがって、管理の対象も「ヒト」で括ります。なかなか、1人の人が2つの人格、すなわち、個人と信託受託者の2人に分かれるのだと言っても、難しいところがあります。いっそ信託財産を法人化して法人格を持たせれば、そのほうが分別管理しやすいのではないかと思うのですが・・・。

(4)信託口の開設に関する金融機関の関心事(その2)
 金融機関の内部的な関心事は別として、外部的な開設時の要件とは何でしょうか。これは、金融機関によって、バラバラですが、ほぼ共通するところを挙げれば次のようになるかと思います。
 ① 信託口口座開設申込人は本当に信託受託者か(その1)
信託口の口座申込人は、信託受託者でなければなりませんが、本当に窓口に来ている人が、信託受託者になっているのか?これを確かめるためには、信託受託者が存在する根拠となる信託契約書を見て、信託受託者の欄の名義人を確認しなければなりません。「信託契約書ありき」です。
 ② 信託口口座開設申込人は本当に信託受託者か(その2)
これは、一般の預金口座開設の時も同様ですが、本人確認が必要です。なりすましを許してはなりません。信託契約書の信託受託者欄に記載されている信託受託者と来店している眼前の人とが同一人物か?本人確認資料により確認します。信託契約書に自署・実印の印影があれば、これらも突合資料になります。
 ③ 信託契約書が偽造されたものではないことの確認
このために、信託契約書が公正証書であることを要件とする金融機関が多いかもしれません。世田谷信用金庫では、必ずしも公正証書にこだわっていませんが、信託契約書が偽造でない確証は必要です。
 ④ 信託目的その他信託の内容が公序良俗に違反するなど問題がないことの確認
 信託契約の内容に、民法に定める法定相続人の遺留分を侵害している部分があるとして、これを公序良俗違反と捉え、信託契約の一部が無効とされた判例が出たことはご存じのとおりです(平成30年9月12日 東京地裁判決 事件番号:平27(ワ)24934号 共有権確認等請求事件(金融法務事情2104号78頁参照))。

 信託受託者の信託事務に違法性や不法性があっては困ります。信託口を設定している金融機関が紛争に巻き込まれることがあるかもしれません。この点について、金融機関は慎重にならざるを得ません。このため、信託口設定に当たり、口座開設を申し込む信託受託者に対し、信託事務の適法性について意思表明を求めたり、仮に信託事務において紛争が生じても金融機関には一切迷惑を及ぼさない旨の念書を徴求するなどの措置をとる金融機関もあるものと思われます。

(2019年12月執筆)

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執筆者

澁井 和夫しぶい かずお

世田谷信用金庫常勤顧問

略歴・経歴

三井信託銀行(株)(現・三井住友信託銀行(株))入社後、不動産開発部長兼不動産鑑定部長を最後に退社、その後㈱鑑定法人エイ・スクエアを設立し、取締役副社長を務め、(社)日本不動産鑑定協会(現公益法人日本不動産鑑定士協会連合会)主任研究員を経て、世田谷信用金庫常勤顧問に至る。 世田谷信用金庫では、2007年6月のコンサルティング・プラザ玉川(最寄駅:東急田園都市線「二子玉川駅」)開設を機に、信託・不動産に精通するスタッフを投入して、高齢者の不動産を主とした資産の管理に、信託スキームを提案するコンサルティング業務を手がけるなど、金融界における民事信託の先駆者でもある。 不動産鑑定士、資産評価政策学会理事。

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