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訴訟手続2024年09月13日 民事訴訟・人事訴訟・家事事件手続のデジタル化 執筆者:矢吹保博

1 はじめに

令和4年5月18日に民事訴訟法等の一部を改正する法律が成立し、民事訴訟や家事事件手続にITを利用した手続が導入されることとなりました。ただし、全ての手続が一斉に施行されるわけではありません。一部の手続については既に施行されていますが、まだ施行されていない制度もあります。
アナログな手続が中心であった民事訴訟手続が変化し、実務に大きな影響が出ています。本稿では、新たに導入された手続のうち、実務的に影響の大きな点について概説します。

2 ウェブ会議システムによる期日への参加

これまで民事訴訟における口頭弁論や弁論準備手続には、原則として実際に出廷する必要がありました。例外的に、裁判所が遠方である場合などでは、電話会議システムによって参加することができる手続もありましたが、口頭弁論手続には現実に出廷することが必須でした。
このため、遠方の裁判所に提訴したときは、わずか数分で終了する手続のために、長時間かけて出廷しなければならず、非効率的でした。
このたびの改正民事訴訟法によって、ウェブ会議システムによる期日への参加が認められるようになりました。具体的には、令和5年3月1日から弁論準備手続期日や和解期日に、また令和6年3月1日から口頭弁論期日に、それぞれウェブ会議システムによる参加ができるようになり、この結果、一度も裁判所に出廷することなく訴訟が終了するケースも珍しくなくなりました。

3 ウェブ会議システムや電話会議システムによる調停の成立

また、家庭裁判所における家事調停の手続においても、ウェブ会議システムや電話会議システムによる参加が認められています。
ただし、現行の家事事件手続法では、離婚又は離縁についてはこれらのシステムによって調停を成立させることはできないとされています(現行家事事件手続法268条3項)。このため、ウェブ会議システムや電話会議システムによって調停手続が進められ、実質的に合意に至った場合であっても、そのまま調停成立とはならず、実務上は、合意に相当する審判(同法277条1項)という手続を経ています。これにより、当事者の合意に至ったとしても、裁判所による審判が出されてそれが確定するまで待たなければ手続終了とならないというタイムラグが生じています。
そこで、この不都合を解消すべく、家事事件手続法の改正により、ウェブ会議システムによって、離婚及び離縁についても調停を成立させることができるようになりました(改正家事事件手続法268条3項)。
なお、この改正はまだ施行されておらず、公布日である令和4年5月25日から3年以内に施行されることとなっています。

4 オンラインによる申立て及び訴訟記録の電子化

現行制度では、一部の裁判所でのみインターネットを使用した申立てが可能とされていますが、改正民事訴訟法では、全ての裁判所においてインターネットを使用した申立てが可能となりました(改正民事訴訟法132条の10)。
そして、弁護士等の法律専門職にある者が訴訟代理人となる場合は、インターネットを使用する方法によって提訴などの申立てをすることが義務付けられました(同法132条の11)。
さらに、インターネットを使用した申立てが可能となったことに併せて、訴訟記録は原則として電子データとして保管されることになりました。判決書や調書など裁判所が作成する書面も、裁判所の使用するサーバのファイルに記録されることになります。
このため、今後、弁護士等の法律専門家が訴訟代理人になっているケースでは、訴訟に関する一切の書類が電子データで授受されることになるでしょう。
ただ、実務的には「紙媒体でなければ頭に入ってこない」という意見も多く、また、法廷の構造上インターネットが繋がらない場所も多いことから、当面は、訴訟代理人が各自プリントアウトした上で記録保管することになるのではないかと思います。

5 まとめ

以上、改正民事訴訟法によって実務に大きな変化をもたらすポイントを概説してきましたが、いずれも裁判所の手続を利用する者からすれば便利な制度だといえます。ただし、折角の制度が画餅にならないよう、裁判所のインフラ整備も平行して増強されることを期待します。

(2024年8月執筆)

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

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