経営・総務2020年05月18日 個人情報保護法 2020年改正案-仮名加工情報について 執筆者:矢吹保博
【個人情報保護法の見直し】
個人情報の取扱いや第三者への提供などに関するルールを定めた「個人情報の保護に関する法律」(いわゆる個人情報保護法)は、2003年(平成15年)5月に制定されて以降、これまで何度か全面改正を経ています。現行の個人情報保護法は、2017年(平成29年)5月から施行されているものです。
そして、2020年(令和2年)3月10日、「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律案」が国会に提出されました。本稿では、この改正案で創設される予定の「仮名加工情報」について概要を説明します。
【仮名加工情報制度の創設の背景と目的】
現行の個人情報保護法では、いわゆるビッグデータの活用促進を目的として、様々な制度が導入されました。
ただ、個人情報で構築されたデータベースを利用するためには、個人情報保護法が定める規制に従う必要があり、その体制を構築することがビッグデータの利活用に対するハードルになっていました。
他方、万が一漏洩等の事故が発生した場合のリスクなどから、事業者が自ら利活用する場合であっても、一定の仮名化を施して利活用しているケースが多いと思います。
改正案で創設される予定の仮名加工情報という制度は、この実務上の取扱いを法律に取り入れるもので、事業者ごとに区々であった仮名化の基準を定めることで個人情報の保護を図るとともに、仮名化された個人情報を利活用するにあたっての規制を一部緩和することによって、より積極的にビッグデータの利活用を促進することを目的としています。
法案などの詳細については、個人情報保護委員会のウェブサイト
https://www.ppc.go.jp/news/press/2019/20200310/
をご参照ください。
【匿名加工情報との違い】
ところで、現行の個人情報保護法では、「匿名加工情報」という制度の導入が行われました。匿名加工情報とは、個人情報を加工することで特定の個人を識別することができないようにした情報のことです。匿名加工情報とすることで、本人の同意がなくとも第三者に提供したり、取得時の目的とは異なる目的で利活用したりすることが可能となりました(例外はあります)。
仮名加工情報と匿名加工情報の違いは、他の情報と照合することで特定の個人を識別できるかどうか、がポイントになります。
匿名加工情報は、匿名加工を施すことによって個人情報ではなくなった情報ですので、一定の要件のもと、第三者への提供が可能となっています。
これとは異なり、仮名加工情報は、他の情報と照合することで特定の個人を識別することができる情報ですので、個人情報保護法の中では、仮名加工情報は個人情報であるという位置付けです。このため、改正案においても、仮名加工情報を第三者に提供するためには、原則として本人の同意が必要になります。
【仮名加工情報がもたらすビッグデータビジネスへの影響】
仮名加工情報と評価できる加工の程度については、いずれ個人情報保護委員会が規則として定めるものと思いますが、匿名加工情報ほど厳格な加工は必要なくなると予想されます。
ビッグデータの価値は、データの量と質によって大きく変わります。
加工を施せば施すほど、特定の個人を識別できる可能性は下がり、個人情報の保護に資することにはなりますが、他方で、データとしての質は「粗く」なり、有用性が下がってしまいます。
また、現行の個人情報保護法の制度のままでは、一定の場合に、本人からデータの利用停止を求められた場合、これに応じなければならず、ビッグデータの量を維持することができなくなる場合もあるわけです。
仮名加工情報という制度の創設により、データの有用性をできる限り低減させることなく、またデータの量を維持することが可能となり、ビッグデータを継続的に利活用することが期待されています。
ただ、第三者に提供するためには原則として本人の同意が必要なので、様々な事業者が有している仮名加工情報を統合して利活用するにはハードルが残ります。この点は、今後、匿名加工情報との関係も含めて、加工技術の発展や事案の集積が待たれるところです。
(2020年4月執筆)
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