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民事2022年02月01日 賃貸住宅管理業法の概説 執筆者:矢吹保博

2020(令和2)年6月12日に、「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」(以下(賃貸住宅管理業法)が成立し、2021(令和3)年6月15日から全面施行されています。

 この法律は、その名のとおり、賃貸住宅の管理業務の適正化などを目的として制定された法律です。
 国土交通省が2019(令和元)年12月18日に発表した賃貸住宅管理業務に関するアンケート調査結果によりますと、賃貸住宅を所有している家主のうち81.5%が管理業務を賃貸住宅管理業者に委託しているという結果が出ています。

 これに伴って、賃貸住宅管理業者やサブリース業者とのトラブルは増加傾向にあり、その適正化を図る必要性が高まったということが、賃貸住宅管理業法制定の背景にあります。

 本稿では、賃貸住宅管理業法で儲けられた2つのポイントを概説します。
 一つ目は、特定賃貸借契約(不動産所有者とサブリース業者との間の賃貸借契約)の適正化に係る措置であり、二つ目は、賃貸住宅管理業に係る登録制度です。

1.特定賃貸借契約の適正化に係る措置

 特定賃貸借契約とは、「賃貸住宅の賃貸借契約(賃借人が人的関係、資本関係その他の関係において賃貸人と密接な関係を有する者として国土交通省令で定める者であるものを除く。)であって、賃借人が当該賃貸住宅を第三者に転貸する事業を営むことを目的として締結されるものをいう。」(第2条2項4号)とされています。いわゆるサブリース事業におけるマスターリース契約がこれに該当します。
 サブリース事業とは、不動産所有者がサブリース業者にその不動産を賃貸し、サブリース業者がこれをさらに賃貸(転貸)に出す、という事業形態です。

 賃貸住宅管理業法では、サブリース業者に対して、誇大広告等や不当な勧誘を禁止する(第28条、第29条)とともに、契約締結前における重要事項説明及び書面交付(第30条)、契約締結時における書面交付(第31条)という規制を定めています。

 禁止される誇大広告等の項目に関しまして、国土交通省のガイドラインによりますと、①サブリース業者がオーナーに支払うべき家賃の額、支払期日及び支払方法等の賃貸の条件並びにその変更に関する事項、②賃貸住宅の維持保全の実施方法、③賃貸住宅の維持保全に要する費用の分担に関する事項、④マスターリース契約の解除に関する事項について、実際より優良であると見せかけて相手を誤認させたり(誇大広告)、虚偽の表示により相手を欺いたり(虚偽広告)してはならないとされています。具体的にどのような内容が誇大広告等に該当するかはケースバイケースで判断するしかありません。ただ、ガイドラインに多数の具体例が挙げられておりますので、参考になります。

 よく苦情が発生している事例では、広告では長期間の家賃保証を謳いながら、実際には入居状況等に応じて賃料を減額するというケースでしょう。

2.賃貸住宅管理業に係る登録制度

 賃貸住宅管理業とは、賃貸住宅の賃貸人から委託を受けて、①維持保全業務や、②家賃・敷金・共益費その他の金銭の管理を行う業務(ただし、①と併せて行う場合に限ります。)を行う事業をいう、とされています(第2条第2項)。
 前述の国土交通省のアンケートでも、賃貸住宅管理業者との間でトラブルを経験したことがある賃貸人が少なくないことが判明しています。登録制度を設けることによって、賃貸住宅管理業者による適正な運営を確保しようというわけです。
 賃貸住宅管理業法の施行により、管理戸数が200戸以上の業者は登録が義務となりました。施行日の2021(令和3)年6月15日から起算して1年間の経過措置が設けられていますが、今年の6月15日までに登録をしなければ賃貸住宅管理業を行うことができなくなりますので、注意が必要です。管理戸数が200戸以下の業者には登録義務はありませんが、任意で登録することも可能です。登録業者としての信用を得るためにあえて登録する、という選択肢も検討すべきでしょう。

 登録を行った賃貸住宅管理業者には、以下の規制が設けられています。
①名義貸しの禁止(第11条)
②業務管理者の選任(第12条)
③管理受託契約の締結前の書面の交付(第13条)
④管理受託契約の締結時の書面の交付(第14条)
⑤管理業務の再委託の禁止(第15条)
⑥財産の分別管理(第16条)
⑦証明書の携帯等(第17条)
⑧帳簿の備付け等(第18条)
⑨標識の掲示(第19条)
⑩委託者への定期報告(第20条)
⑪秘密を守る義務(第21条)

 上記のうち⑥財産の分別管理について、契約ごとに入金口座を分けることが必須とされているわけではありませんが、受け取った金額がどの契約に基づくものか直ちに判別できるよう、帳簿や会計ソフトで管理しておく必要はあるとされていますので、特に管理戸数の多い賃貸住宅管理業法者は、早急に対応が必要です。
国土交通省が開設している賃貸住宅管理業法ポータルサイトでは、交付すべき書面のフォーマットなども公開していますのでご参照ください。

最後に

 かつては「夢のマイホーム」という標語が表しているとおり、持ち家に住むことがステータスであった時代もありましたが、近年では、雑誌やネットで「持ち家VS賃貸」という特集記事が頻繁に掲載されるなど、賃貸住宅に住み続ける世帯も増加しています。合わせて、資産運営の観点から賃貸不動産を保有する人たちも増えています。このため、今後ますます賃貸住宅管理業やサブリース業者の市場は大きくなり、その競争も激しくなると思われ、賃貸住宅管理業法の重要性は高まっていくことでしょう。

(2022年1月執筆)

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