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一般2022年05月31日 プロバイダ責任制限法の令和3年改正について 執筆者:矢吹保博

 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下、通称にならい「プロバイダ責任制限法」と言います。)が、令和3年4月21日に改正され、同月28日に公布されました。
 この改正法の施行日は、公布から1年6か月を超えない日までとなっています。
 改正された主なポイントは、
  ①新たな裁判手続(非訟手続)の創設
  ②発信者情報の開示対象の拡大
の2点です。
 本稿では、この2点について概説いたします。
1 新たな裁判手続(非訟手続)の創設
 ⑴ 改正の背景
  平成13年11月にプロバイダ責任制限法が制定されましたが、その後も匿名による投稿によって他人の名誉やプライバシーなどの権利を侵害するケースが後を絶たず、とくにSNSを利用した誹謗中傷などの権利侵害投稿が増大しました。
  権利を侵害された被害者がその被害を回復しようとする場合、発信者の氏名や住所等の発信者情報の開示を求める必要があります。
  そのためにまず、①コンテンツプロバイダ(掲示板運営事業者やSNS事業者等)に対し、IPアドレス等の開示を求めるための仮処分手続きなどを行って、IPアドレスや経由プロバイダに関する情報の開示を受けた上で、その次に、②経由プロバイダ(通信事業者等)に対して発信者情報の開示を求めるための訴訟を行うという、2段階の裁判手続きが必要になります。このため、被害者が権利の回復を実現するためには相当な時間と費用が必要となり、事実上「泣き寝入り」を余儀なくされてしまうケースが少なくありません。
  そこで、改正法では、発信者情報の開示まで1つの手続で完了させることができる新たな裁判手続が創設されました。
 ⑵ 新たな裁判手続の内容
  被害者は、これまでの仮処分や発信者情報開示請求とは別の手続きとして、コンテンツプロバイダに対する発信者情報の開示命令の申立て手続を行うことができるようになりました(改正法第8条)。
  そして被害者は、この申立てと同時か申立ての後に、コンテンツプロバイダに対して経由プロバイダの名称等を被害者に提供するよう命じることを求める申立てを行います。申立てを受けた裁判所は、開示命令より緩やかな要件により、提供命令を発令することができます(これを「提供命令」といいます。改正法第15条)。
  提供命令に基づいて経由プロバイダの情報が提供されれば、被害者は、コンテンツプロバイダに対する開示命令を待たずに、経由プロバイダに対して発信者情報開示命令の申立てができるようになります。
  経由プロバイダに対する発信者情報開示命令の申立ては、コンテンツプロバイダに対する発信者情報開示命令の申立てと併合され、同一の手続で審理されます。このため、1つの手続で、発信者情報の開示が実現されることになりました。
  なお、被害者は、提供命令の申立のほかに、発信者情報が消去されることを防止するために、発信者情報の消去禁止命令の申立てを合わせて行うこともできるようになっています(改正法第16条)ので、実務的にはこの申立ても同時に行うことになるでしょう。
2 発信者情報の開示対象の拡大
 ⑴ 改正の背景
  プロバイダ責任制限法が制定された平成13年当時に最も問題となっていたケースは、インターネット上の匿名掲示板サービスに権利侵害投稿がなされるというケースです。このような匿名掲示板への投稿は、個別の投稿ごとにIPアドレス等が記録されることが多いため、投稿時の発信者情報の開示を認めることで、投稿者を特定することができました。
  ところが、昨今トラブルが頻発しているのはSNSを利用した権利侵害投稿です。このようなSNSでは、ログイン時のIPアドレス等は記録されているものの、投稿時におけるIPアドレス等は記録されていないことが多いのです。現行法で開示の対象として規定されている発信者情報に、ログイン時のIPアドレス等も含まれるかどうかが必ずしも明らかではないため、開示請求が認められない裁判例もありました。
 ⑵ 特定発信者情報が開示対象に
  そこで、改正法では、ログイン時のIPアドレス等を「特定発信者情報」として、一定の要件を満たす場合には開示の対象とされることとなりました(改正法5条)。
3 最後に
  現在も、インターネットの掲示板やSNS上で他人の名誉やプライバシーを侵害する投稿が後を絶たず、社会問題化しています。他方で、法律の規制によって表現の自由が不当に制限されない仕組みが必要です。改正法の施行後においても、実務の動向を注視しておく必要があると思います。

(2022年5月執筆)

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